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アトリエサードさまより、『ナイトランド・クォータリーvol.35 永劫の戦い、終わりなき恐怖』を献本いただきました。

 

 

ナイトランドクォータリーはわたしが今一番最新号を楽しみにしている雑誌です。毎回幻想系のテーマを設定し、ここ以外ではなかなか読めない埋もれた傑作や注目作家の新作が毎回掲載されているほか、コラムや評論、インタビューなどが非常に充実していて、とにかく読み応えがあります。

今回小説が全部わたし好みでなんだかあれよあれよちう感じで読み終えてしまいました。ディッシュ「五つの卵」は気取った文体で皮肉が効いたいかにもで一種らしい小品。マイリンク「土星の輪」は、なんだかギャグなのかと思うような展開のオカルティックなマッド・サイエンティストもの。T.F.ポウイス「闇のナサニエル」はラストのあっけなさがすごくいいです。伊野隆之「殺戮の戦地」はニューウェーヴ風の永劫地獄者といった感じで、

俺は、俺たちで、俺たちだった。

俺と、俺の百体のクローン

というのにどこか「オレオレ詐欺」を想起したのは、星野智幸の小説と、このどん詰まり感がいかにも現代の犯罪/経済の現場に近似するものを感じたからだろうと思います。樺山三英「「永劫より」より」はアイロニカルな文体の変奏が楽しい作品で、オマージュ短編を集めた作品集をそろそろ出せるんじゃないかとちょっと思いました。

 

仕事もしています。

4/12発売の東京創元社のエンタメ小説誌『紙魚の手帖』vol.16 APRIL 2024のSF書評を担当しています。

 

 

今回紹介したのは以下の6作です。

  • 『ロボットの夢の都市』ラヴィ・ティドハー/茂木健訳(創元海外SF叢書)
  • 『闇の中でどこまで高く』セコイア・ナガマツ/金子浩訳(東京創元社)
  • 『メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ』シオドラ・ゴス/鈴木潤訳(新⭐︎ハヤカワ・SF・シリーズ)
  • 『対怪異アンドロイド開発研究室』饗庭淵(KADOKAWA)
  • 『感傷ファンタスマゴリイ』空木春宵(創元日本SF叢書)
  • 『国歌を作った男』宮内悠介(講談社)

ガザの惨状を見ながらティドハーの夢のような未来小説について書くのはなかなか心理的なハードルが高かったですが、解説も含めてとりあえず取り乱さずになんとか書きおおせたのでよかったです。『闇の中〜』は、後半のいきなり宇宙へ飛び出していく展開がわりと評判が悪いですが、私はこういうの大好きです。叙述が宇宙や超生命までいきながら、非常に卑近なところにしゃらっと戻ってきて淡々と悲哀を語るのもよいです。『未来省』や直近読んだコーマック・マッカッシーの二部作なんかもそうなんですけども、要するに、人間は世界に翻弄されるけれど、世界はとくに人間に関心はないという感じが好きなんですね。というか世界に内面はない。

本誌の方では、なんと赤野工作さんの冷戦末期ハンガリーを舞台にした怪しい行商人小説が掲載されていいます。ソ連って存在自体がSF、もしくはファンタス力的ですよねえ、という。

しばらくブログ更新していませんでした。いろいろあったわけですが、ともかくその間もたくさん御本をいただいていて、ちょっとエントリを分けて紹介していきたいと思います。

東京創元社さまより、『ダムゼル 運命を拓きし者』イヴリン・スカイ/杉田七重(創元推理文庫)を献本いただきました。

 

 

Netflix映像化原作の異世界ファンタジイだそうです。というか、映画の初期段階の脚本草稿を読んで、作家が自由に書いたもの、ということなので一種のノヴェライズといってよいかもしれません。貧乏国の王女が政略結婚で金持ち国にきてみれば、ドラゴンの生贄として地下世界に放擲されるというお話で、もちろん最後には勝つ!わけですが、ヒロインのみならず女性たちの活躍が非常に心に残る、シスターフッドな物語と言えると思います。ロマンスの勢いのある小説でめっちゃ読みやすかったです。

 

早川書房さまより、『戦士強制志願』J.N.チェイニー&ジョナサン・P・ブレイジー/金子浩訳(ハヤカワ文庫SF)と『三体2 黒暗森林』を献本いただきました。

 

 

地球人が銀河系に進出している未来。謎の宇宙人ケンタウロス人と戦争になっていて、ちょっとした法律違反で兵役に駆り出されてしまうという社会になっていて、タイトルの通り主人公は「うまくやった」つもりが最後の最後でドジを踏んで前線に送り込まれる。全体の三分の一は訓練にう当てられていたり、解説によるとアメリカならではの「海兵隊SF」なんだそうだ。まあこれもちょっと配信の連続ドラマふうで、ビビッドな会話とスピーディーな展開でサクサク読めるミリタリーSF。原著はすでにシリーズ15巻を数えるという。

『三体2 黒暗森林』劉慈欣/大森望・立原透耶・上原かおり・泊功訳(ハヤカワ文庫SF)は、お馴染みシリーズ第二巻の文庫化ですね。こちらは現在ドラマが絶賛配信中です。