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そうこうしているうちに東京創元社さまよりいただいた本がまたいろいろ溜まってしまいました。積読はできるだけ避けたいのですがなかなかそうもいかない昨今で申し訳ない限りです。

『失われたものたちの国』ジョン・コナリー/田中志文訳

 

 

宮崎駿監督のアニメ映画のインスピレーション元として一部で話題になった『失われたものたちの本』の続編です。帯によるとダークファンタジーで、前回の主人公は少年でしたが今回は中年女性だそうです。そうです。前作を読んでいないのでまだページを開いていません。えーと夏のうちに読みます!

 

『歌う船(完全版)』アン・マキャフリイー/嶋田洋一訳

 

 

SFの古典と言っていい旧版に短編に作を増補して「完全版」です。新藤克巳による旧版の解説と三村美衣の新解説が併録されていて、古典の再版に相応しく非常に行き届いた構成になっています。これもまだ読んでいないのですが、なぜかというと、ずいぶん昔に読んだ本なので、この老年に差し掛かったおっさんの私が読んでかつての感激が薄まってしまうのを恐れているからです。それだけ(いろいろ問題を含んだ)ロマンティックな小説だった記憶があります。これは逆にもっと年を経てから読んだほうがいい気もするんですよね。

訳者の嶋田洋一さんは本書をもって現役から「引退」されるそうです。読者としてたくさんの翻訳を楽しませていただいたのはもちろん、なんとも難解なピーター・ワッツのいくつかの作品の解説を担当したことは忘れがたい経験でした。お疲れ様でした。

 

 

6月25日発売の「S-Fマガジン2024年8月号」(早川書房)に、日本SF作家クラブ編『地球へのSF』(ハヤカワ文庫JA)の書評を書いています。

 

 

22作品が収録された分厚い本ですが、「悠久と日常」「温暖化」「AIと」「ヒトと」「生態系」「経済」「内と外」「視点」という目次上のカテゴリに分かれていてこの微妙に相互に関連する流れのある配列のためにとても読みやすい本になっています。一個一個の作品の質もさることながら、作品相互の補完しあう部分があったりして、もちろん作者ごとの個性の違いもありアンソロジーならではの楽しい本でした。これまでの日本SF作家クラブアンソロの中でもピカイチの出来じゃないかと思います。

6月19日に刊行された『精霊を統べる者』P・ジェリ・クラーク(鍛治靖子訳 創元海外SF叢書)のカナmつ解説を書いています。

 

 

偉大な魔術師によって魔術と精霊が復活し機械文明と融合して西欧列強に伍す勢力を備えた20世紀初頭のエジプトを舞台にハイスピードで展開するマッド・エジプシャン・ファンタジイです。舶来のハイカラなスーツと山高帽、ステッキという出立でカイロを闊歩する女捜査官が、恋人の妖人と相棒の後輩女子とともに大活躍します。とにかく説明不要の面白さなのでどうしようかと思ったのですが、解説では作品の背景をなす近代エジプトについて書いています。この解説を書いているときに参考になるかと思った後藤絵美『神のためにまとうヴェール』(中央公論新社、2014)という本があって、21世紀になってイスラームの後進性を示すとされてきたヒジャブが若い女性に広まり始めたという傾向について社会学的な考察が中心にある本なのですが、これが大変面白く、しかし解説に入れ込むには無理があるなあと思って、この本には収録されていないものですが同著者の論文からトリヴィアを突っ込んで興味のある人が参照できるようにしました。後藤氏はその著作で従来のヒジャブに関する考察へと疑義を呈しているのですが、歴史学者でもあるクラークはどういう意見を持たれるのか興味深いところです。

 

 

ちなみに解説は今回もWeb東京創元社マガジンで読めます。