杉さんの自然観察記録2 コウガイビルの仲間(Bipalium sp.) | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 杉さん(仮名)から頂いたコウガイビルの写真です。側溝のふたの上をうねうねしながら進んでおります。

 

 細長い身体の一方が銀杏の葉のように広がった形をしていて、こちらが頭部です。だから、この写真だと画面下の方に移動中です。頭部には眼点という光を感じる器官があり、ちゃんと脳もあります。

 

 

 

 同じ動物には違いないのですが、我々とは違って口器は頭部にはなくて、胴体の腹側にあります。ナメクジやミミズの天敵で、襲うときは、粘液を出しながら巻き付いて動きを封じて食べます。でも、お腹をくっつけている印象になるので、食事を見ても食べてる感じをうけません。

 

 名は、むかし髪を掻き揚げるのに使った笄(こうがい)という道具に由来します。

 

 コウガイビルは扁形(へんけい)動物の仲間で、文字通り扁平な身体をしています。

 

 高校生物の教科書の最後の方では、いろいろな動物を覚えないといけなくなるわけなんですが、扁形動物は覚えにくいので次のように理解しましょう。

 

 左右相称性を獲得した動物の仲間で、魚や人間みたいに体を複雑化することをせず、「むずかしいことはやめて、シンプルに生きようぜ。」、みたいな進化の道を選んだやつだと。

 

 血管系も呼吸器も肛門もなく、中には寄生性を強めてサナダムシみたいに消化器自体を失ったものもたくさんいます。だから、オオミスジコウガイビル(Bipalium nobile)のようにメートルを超える大きな体をしたものでも、扁平で細長くしかなれないという…。

 

 脊椎動物のハイエンドである我々人間から見たら、「てめぇ…やる気あるのか?」、と、文句の一つも言いたくなるような扁形動物の仲間には、きれいな川の指標生物であるウズムシ(プラナリア)や、海にいるヒラムシ、人間を終宿主とするサナダムシ、そして今回、杉さんが写真に収めたコウガイビルがいるのです。あと、犬や猫に寄生するエキノコックスもそうですね。

 

 例は他にもたくさんあげられるので、「シンプル・イズ・ザ・ベスト」のライフスタイルでも、自然界で意外に成功し、繫栄できることを示しています。

 

 

 今回、杉さんから頂いた写真はウガイビルには違いないんですが、いろいろな種がいるのでネットの情報をもとに同定を試みました。

 

 これが意外に難航し、クロイロコウガイビル(B. fuscatum)の色違いかな?、と思ったり、ミスジコウガイビル(B.trilineatum)なのかも、と、迷い、写真のコントラストを上げて(上)筋状の模様を見つけようとするなど頑張ったんですが、だめで、結局よく分かりませんでした。

 

 なんでも、コウガイビルは標本が残しにくいこともあって、分類学者泣かせらしいのです。つまるところ現代にあっても、なお分類が未整理で、調べても調べても自信をもって結論を出せないことが分かり、あきらめました。コウガイビル、おそるべし。

 

 さて、扁形動物というと、その再生能力の高さが有名です。プラナリア(ウズムシ)の切断実験だと、前後3つに切れば、断片すべてが足りないところを再生して3匹のプラナリアに完全に再生するという(なんでも世界記録は279断片とか)。

 

 そんな強い再生力をコウガイビルも持っていて、細長くにょろにょろ成長すると、無性的に分裂することが可能です。

 

↑ここを一度切ったら二匹になるらしい

 

 仮にも頭部に脳のある集中神経系を持った動物に、こんなに優れた再生能力を見せつけられると、人間としては羨ましくもあるわけで、彼らから再生能力の高さの秘訣を学ぼうと、昔から研究が続けられています。

 

 杉さんのコウガイビルの写真から随分離れてしまいますが、種の同定すらできずじまいで情けなかったので、せめて扁形動物の紹介ができたら、と、思って、こんな記事になってしまいました。

 

 彼らの、シンプルライフを過ごそうとする姿勢は徹底していて、もはや有性生殖をしてないかもしれない種もいるそうです。そうですよね。結婚相手を探すなんて、めんどくさいですものね。

 

 同じ動物でも、生き様はいろいろです。