杉さん(仮名)から2種類のスズメガの写真を頂きました。
スズメガは鱗翅目(蛾や蝶)の中では比較的大型で、何かに止まった時のシルエットはジェット戦闘機みたいでカッコいいです。この見かけは伊達ではなく、種類によっては時速50km以上で飛翔するとか。
杉さんの自然へ向ける視線は鋭く、視界に入る生き物にはたいてい気がつく感じです。素晴らしい感性だと思います。自分は理科教師なのに、最近はあまり気づきがないので反省しないといけません。
最初の写真はモモスズメ(Marumba gaschkewitschii)と同定しました。夜行性で、よく山で、ライトトラップに集まるようですが、この度、日中(朝かな?)に、杉さんの生活圏内に現れました。
よく見ると、見るからにお腹がぺこぺこ。卵を産んだ後のカマキリみたいです。成虫のモモスズメには口器がなく、エサを食べることがないことを考えると、弱ってここにいるのかもしれません。昆虫が成虫になるのは交尾のためだけ。無事に本懐を遂げていることいることを祈るばかりです。
↑カッコいい
成虫になると食事をとれないなんて可哀そう、と、感じてしまうのは人情なんですが、幼虫の時はモモやサクラなどのバラ科植物の葉を好んで食べてしまう困りものです。
モモスズメという和名の由来は、後翅の前方が桃色がかっているからだとも、桃の木に幼虫が着くからだともされています。
もう一つの写真はセスジスズメ(Theretra oldenlandiae)と同定しました。
外見はワルカッコいい感じです。シルエットが「未来少年コナン」に出てきたギガントという巨大な飛行機を彷彿させます。背側と翅の直線的な模様は目立つので、何か、強い生き物の擬態だと思うんですが、何なのか思い浮かびません(違うのかな)。
成虫のセスジスズメには3cmくらいの口吻があり、モモスズメと違って花の蜜を吸って栄養補給することができます。確かにモモスズメよりは活動的で、長距離を速く飛ぶことができそうです。お腹もそんなに凹んでいません。
蜜を吸うスズメガを頼って花粉を運んでもらおうとする植物も多く、スズメガ媒花といいます。マツヨイグサやオシロイバナなど、筒状の花をつけ、薄暗い中でも花が浮き上がって見えるように花弁が白や黄色なのが特徴です。
セスジスズメに花粉を運んでもらうのに特化しているのはサギソウだとか。セスジスズメは長距離を移動できるので、山間の湿地に点在するサギソウにとっては、遺伝子交流を果たすために特にセスジスズメはいないと困る存在です。サギソウは、花の距という構造にたっぷり蜜を入れておき、そこに口吻を突っ込んだセスジスズメの顔面に花粉塊をごっそり付着させて別の花に運ばせる作戦をとっています。
このサギソウの花の距の長さと、セスジスズメの口吻の長さがいい具合にマッチングしているんですよねー。長すぎず短すぎず。
野生のサギソウは個体数を減らしていて、環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されていますから、セスジスズメに頑張ってもらわないといけないんですが、これが、また、幼虫の時に本当によく葉っぱを食べるらしく、畑にセスジスズメの幼虫が数匹いるだけで作物が全滅するというから、大事な植物にくっついているのを見つけたら、情けをかけずに捕殺する必要があります。
自然を大切にするというのは、言うのは簡単なんですが、特定の生物に肩入れしてもだめです。生物同士は複雑に関係しあっているので、あちらを立てればこちらが立たずといった状況を作り出してしまうでしょう。世の中の生物に愛情を持っているなら世界の生態系のバランスが保たれるよう、生物の多様性が確保できる環境を保全することが肝要です。
セスジスズメとサギソウの話は、虫媒花と昆虫の共進化の例として、適当な例だと思います。杉さんのお陰で授業のネタが増えました。