一から学ぶ東洋医学 No.56 病因病機(1) 病因(2) | 春月の『ちょこっと健康術』

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こんにちは ニコニコ

 

ゴールデンウイーク、前半は肌寒い日々、後半は暑くなって、お出かけ日和かと思えば、急に雨が降ったり、雹が降ったり…。 改元と譲位の祝祭もあって…。 遠出もせず、いつもと変わらない日常でありながらも、何だかフワフワと過ごした連休でした。 皆さまはいかがでしたか?

 

せめて病因の続きは終わらせないと…ってことで、今回は残りの内傷病因、病理産物とその他の病因についてお届けします。

 

4 内傷病因

 

内傷病因は、健康を損なうような生活習慣や働き方、精神的な刺激など、身体を内側からむしばむもの。 体内に生じる病のタネです。 病因(1)の比較表にあるように、飲食不節、労倦安逸、房事過多、七情の失調に分類されます。

 

東洋医学の起源にも書きましたけど、東洋医学の真髄は「養生」にあります。 養生をないがしろにすることで発生してしまう病因が、内傷病因と言えるのではないでしょうか。 東洋医学を日常生活に取り入れるには、重要ポイントとなりますね。 教科書で、内傷病因に割かれているページ数は、ちょっと少ない気がしますけど、問診のところにも出てくるから、補完できるかな…。

 

(1) 飲食不節

 

飲食不節は、節度を欠いた飲食。 過度の食事制限や暴飲暴食、偏食、不衛生なものの摂取など。 真っ先に脾胃に影響が出ます。

 

(a) 食事量の不足

 

食事の間隔が開きすぎたり、空腹でも食べられなかったり、ダイエットという名目で食事量を過剰に制限したり、飲食物の摂取量が必要量に足りないと、生理物質の原材料が不足します。 生理物質は、水穀の精微すなわち飲食物からつくられますからね。

 

生理物質というのは、津液、人体を構成し生命活動を維持する基本物質です。 だから、生理物質が不足すると、どこかの身体機能が低下する。 まずどこに影響するかは、個体差があるでしょうけど、不足した状態が続けば、全身的に弱っていくのは必至でしょう。

 

(b) 過食

 

一回の食事量が多すぎたり、一日の食事回数が多すぎたり、飲食物の摂取量が必要量より過剰になると、脾胃による受納・運化の許容範囲を超えてしまう。 そうなれば、当然のことながら、脾胃への負担が大きくなって、消化吸収が進まず、飲食物が胃に停滞します。

 

消化されない飲食物が胃に停滞した状態を食滞と言います。 食滞になると、脾胃の気機が阻害されて失調し、消化不良の状態がさらに悪化します。 脾気は昇清、胃気は降濁で、それでバランスを取っていましたね。 それが崩れるってことは、水穀の精微が上にも下にも行かなくなるってことですよ。

 

(c) 偏食

 

① 五味の偏り

 

五味は酸・苦・甘・辛・鹹。 それぞれ五臓と密接に関連しているので、五味の偏食は臓腑の機能に影響します。 蔵象のの中にも多少書かれていますが、五味の作用と偏食の影響を改めてまとめてみました。

 

 

↑上の表で、過剰摂取による症状は4行にわたっていますが、出典は上から順に、『素問』の生気通天論篇、陰陽応象大論篇、五臓生成篇、『霊枢』の五味論篇です。

 

読むたびにいつも思うんですけど、『黄帝内経』って、「どうなるか」は書かれているけど、「何でそうなるのか」までは書かれてない! なので、五味の偏食で、どうしてその症状が出るのか、説明しきれません。 作用が行き過ぎることで、そうなるんだろうと思っていただければ、いいかな…。

 

② 性味の偏り

 

飲食物には、身体を冷やす性質(寒涼性)のもの、温める性質(温熱性)のもの、脂っこいもの、味の濃いものなど、五味のほかにも、さまざまな性質があります。 性味については、食養生の性味は食材のどこで分けるの?性味を体調管理に活かすにはもご参考に。

 

内傷病因になるものとして、↓下記のようなものがあります。

 

・ 寒性のもの(冷たいもの、生もの)の偏食: 脾陽を損傷し、内寒や痰湿を生じる。

・ 熱性のもの(熱いもの、辛いもの、肉)の偏食: 胃に熱がこもる。

・ 肥甘厚味のもの(脂っこいもの・甘いもの・味の濃いもの)の偏食: 痰湿や痰熱を生じる。

 

中華料理に「生もの」が少ないのは、かつて疫癘や寄生虫病の原因になっていたこともありますが、「身体を冷やす」というのも大きな理由なんでしょうね。 冷えは万病のもとですから。 「生もの」と聞いて思い浮かぶのは刺身ですけど、この場合は、生魚だけじゃなくて、生野菜や果物も入ります。

 

日本では、刺身や寿司と、魚の生食文化がありますね。 島国で新鮮なものが手に入りやすいこともあるし、お酢で締めたり、お醤油つけたり、ワサビやカラシを添えたりと、味をととのえるためだけじゃない、食中毒予防策になる食べ方をしてますよね。 それでも、食べ過ぎにはご用心。

 

念のため書いておきますが、決して食べちゃいけないと言っているんじゃないですよ。 あくまで偏食、「ばっかり食い」はダメだってことです。 食事にはバランスがだいじ。

 

③ 過度の飲酒

 

酒は、適量であれば、身体を温め、血脈の通りをよくしてくれて、「百薬の長」ともなりますが、度が過ぎれば、痰熱を生じます。 酒は熱性ですからね。 過度の飲酒によって体内に酒がたまると酒積、それで生じた熱を酒熱、脾胃損傷がひどくなると酒毒なんて呼ばれます。

 

(d) 不衛生な飲食物の摂取

 

これは言うまでもなく、食あたりの原因となります。 「あたり」を漢字で書くと「中り」、中毒の「中」です。 軽症で一過性なら、嘔吐や下痢で片が付きますけど、もし長引くようなら、身体が弱ってしまうので、要注意です。

 

(2) 労倦安逸

 

労倦は過労のことで、安逸は怠惰に過ごすこと。 合わせて労倦安逸としましたが、労逸と短縮されることもあります。 適度な労働や運動と適度な休息は、肉体的にも精神的にも、健康を保つには必要なことで、どちらも行き過ぎると病因となります。 何事も中庸がだいじなんですね。

 

(a) 労倦

 

労傷とも言いますが、労働や運動が過度になると、生理物質を激しく消耗して、形神(肉体と精神)ともに疲労困憊します。 こんな状態が続けば、身体は弱る一方になりますから、休養も大切です。

 

日常的な行動であっても、何が過ぎると、何がどうなるのか、五行にまとめられたのが五労です。 人体の五行で取り上げていますが、改めてご紹介しておきましょう。

 

・ 久行(長時間の歩行や運動)は、筋を傷つけるので、肝病の原因となる。

・ 久視(長時間の目の使い過ぎ)は、血を傷つけるので、心病の原因となる。

・ 久坐(長時間の坐位)は、肉を傷つけるので、脾病の原因となる。

・ 久臥(長時間の臥位)は、気を傷つけるので、肺病の原因となる。

・ 久立(長時間の立位)は、骨を傷つけるので、腎病の原因となる。

 

また、五労には五臓の虚労というのもあるので、これもご紹介しておきましょう。

 

・ 肝労: 目の使い過ぎによる肝血の損傷

・ 心労: 心神の疲労

・ 脾労: 飲食失節や思慮過度による脾の損傷

・ 肺労: 肺気の損傷

・ 腎労: 房事過多による腎気の損傷

 

(b) 安逸

 

労倦とは逆に、運動不足やダラダラと怠惰な生活を続けると、気機の動きが悪くなって滞り、生理物質も滞って、痰湿や瘀血(おけつ)を誘発します。 また、水穀の精微も滞るため、脾胃の機能も停滞します。 痰湿と瘀血(おけつ)は病理産物なので、そちらをご覧くださいね。

 

最近は、休養もアクティブ・レストが主流になりつつあり、災害時の避難所生活で生活不活発病が問題視されるようになっています。 これって、西洋医学が東洋医学に近づいてきている証拠だよねぇ…。

 

(3) 房事過多

 

房事は性生活のこと。 節制のない房事によって、健康を害するような状態を房事過多あるいは房室労傷と言います。 腎精を消耗して、腎気を傷つけるので、↑上述の腎労となります。

 

(4) 七情の失調

 

怒・喜・思・憂・悲・恐・驚が七情です。 そのうち怒・喜・思・憂・恐は、五志と共通。 七情と五志を情志と総称するので、情志の失調とも言います。 教科書に合わせて「七情の失調」としましたけど、情志の失調と言うほうが多いかも…。

 

平常ならば、自然な情緒反応で、人間的な当たり前の感情ですが、それが過度の緊張や激しさを帯びたり、持続時間が長かったりすると、臓腑や気機に影響して、病を引き起こします。 どんな影響なのか?は、神の生理と病理を復習してくださいね。

 

5 病理産物とその他の要因

 

体内の要因として、痰湿と瘀血(おけつ)があり、体外からの要因として、外傷と中毒があります。

 

(1) 痰湿

 

痰飲とも言いますが、津液が停滞したことで生じる病理産物。 痰湿ができるのは、身体が病理的な状態にある場合、つまりすでに何らかの病にかかった結果でもありますが、痰湿ができたことで、さらに臓腑の気機や経絡の流れが阻害されて、さまざまな病証を起こすので、痰湿は内傷病因ともなるんです。

 

痰湿は、たとえば肝の病証(2)にある肝気鬱結証の梅核気とか、心の病証(2)にある痰迷心竅、脾の病証にある脾虚湿盛、肺の病証(2)にある痰湿阻肺など、多くの病証に関係しています。

 

では、どんなときに痰湿が生じるのか? 津液の生理と病理で、痰湿証として紹介されている中にもありますが、飲食不節も追加して、改めてまとめておきましょう。

 

・ 津液代謝に深く関わる脾・肺・腎の機能失調

・ 気滞による津液の停滞

・ 水分の過剰摂取

・ 寒性のもの(冷たいもの、生もの)や肥甘厚味のもの(脂っこいもの・甘いもの・味の濃いもの)の偏食

・ 湿邪の侵襲

 

痰湿は、細かく言えば、痰と湿に分かれるし、痰と湿の間にも飲と水があります。 滞った津液の密度による分類なんだけど、そんなに細かく分けたからって、症状や所見に大きな違いが出るってものでもないし、区別するのも難しい。 ってことで、今では「痰湿」としてひとくくりにされたようです。

 

とは言え、一応参考までに痰と湿を分けておくと、

・ 痰は、粘り気が強くて塊になりやすく、重い症状を引き起こしやすい。

・ 湿は、比較的サラッと水っぽくて広がりやすく、浮腫やだるさを引き起こす。

という感じです。 

 

痰湿が長く停滞すると、熱を生じて痰熱となります。 また、痰湿は、六淫の湿邪に似た性質を持つので、一度できるとなかなか解消しづらいという問題があります。 だから、溜め込まないように、早め早めに取り除くように、予防していくのが一番ですね。

 

(2) 瘀血(おけつ)

 

血の塊であり、血が停滞したことで生じる病理産物。 痰湿と同様に、病の結果としてできるものでもあり、内傷病因にもなります。 

 

瘀血(おけつ)による病証は、血瘀(けつお)証としてまとめられることが多いけれど、症状が現れる場所はさまざま。 心の病証(2)にある心血瘀阻(おそ)では狭心症発作や心筋梗塞の痛み、肩を通る経脈にできれば五十肩、月経に関わる経脈や子宮にできれば月経痛など、瘀血(おけつ)がどこにできたかによって、身体のあちこちに刺すような固定された痛みを起こします。 

 

瘀血(おけつ)の成因は、血の生理と病理の血瘀(けつお)証のところにもありますが、改めてご紹介しますね。

 

・ 気滞による血流阻害

・ 痰湿の滞りによる血流阻害

・ 気虚による血流の緩弱化

・ 血虚による血流量の減少

・ 熱邪による血の粘稠度の増加

・ 寒邪による血の凝滞

・ 打撲や捻挫のような外傷、手術などによる出血痕

 

瘀血(おけつ)も、小さいうちならすぐに解消できますが、強い痛みを出すようになるとやっかいですから、早め早めに手当てしましょう。

 

(3) 外傷

 

打撲、捻挫、骨折、刺傷、擦過傷などによる血脈損傷、火傷による陰液の損傷や熱邪の影響、凍傷による気血の凝滞など、主として瘀血(おけつ)形成の要因となります。

 

(4) 中毒

 

有害物質の毒性によって発病するもので、薬物、食物、有毒ガスなどが原因となります。 薬物や食物は、誰に対しても毒性を持つものもありますが、摂り方によって、あるいは摂る人の体質によって、毒性が発揮されるかどうか異なるものもあるので、気をつけたいですね。

 

 

一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。

 

 

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