こんにちは
元号は平成から令和へ。 一から学ぶ東洋医学シリーズも新章に入ります。 ここは一気に進めて、なるべく早く四診に行かなくちゃとは思っていますが…。 今年の鍼灸国家試験問題と正答肢表も発表されたから、解説を書き始めないといけないし…。 この際、本業の仕事を減らしちゃおうっかなぁ…(笑)。
タイトルに「病因病機」とありますが、病機って聞きなれないですよね? 鍼灸学校の教科書でも、『新版東洋医学概論』になってから登場した用語。 中医学では「病因病機学」があるので、教科書改訂にあたって加えられたみたいです。
では、『新版東洋医学概論』に載っているものを軸に、東洋学術出版社の『中医病因病機学』を参考に、病因病機についてまとめていくことにしましょう。
病因とは?
病因は、疾病の原因。
用語的には、西洋医学での使われ方と同じです。 ただ、範囲がすご~く広い。 自然や風土、生活、人間関係も、人体に影響するものすべて、病因になりうるという考え方。 近年では、成人病が生活習慣病と呼ばれるようになって、西洋医学が東洋医学に近づいてきている感じはありますけどね。
病因の分類
以前、私が鍼灸学校で習ったころ、病因は、外因(外邪)と内因(七情)、それら以外の不内外因(飲食・労倦)の3つに分類されていました。 教科書改訂で、病機という用語が登場したのに伴って、分類も外感病因、内傷病因、病理産物とその他の病因に変わっています。
病因の大分類について、『中医病因病機学』も含めて、比較表にしてみました。
『旧版東洋医学概論』としたのは、『新版東洋医学概論』に変わる前の教科書です。 旧版の病理産物のところ、空欄になっていますね。 それは、病因論の中には出ていなかったから。 で、どこにあったか?というと、気血津液の病理。 痰湿は津液の病理産物で、瘀血(おけつ)は血の病理産物だから。
痰湿と瘀血(おけつ)は、一から学ぶ東洋医学シリーズでも、すでに津液の生理と病理と血の生理と病理をはじめとして、たびたび登場しています。 今さら説明しなくても…と思わなくもないけど、病因の中で改めて取り扱いますね。
ところで、『中医病因病機学』の表記は、なぜ〇〇要因で〇〇病因じゃないんでしょうか? それは、平常なら何の問題もなく、異常があったときに病因になるから…ということかと思います。
外感病因
外感病因は、文字通り、外界から人体に感作して、病を引き起こすもの。 外邪とも言いますが、前述の比較表にあるように、六淫(ろくいん、りくいんと読むこともある)と疫癘(えきれい)に分類されます。
(1) 六淫
六淫は、風邪・暑邪・火邪・湿邪・燥邪・寒邪という6種類の外邪の総称。
もともと風・暑・火・湿・燥・寒は、自然界の五行にある五気に火を足した六気で、自然界の気候変化をさすものです。 それが、過激だったり時季はずれに現れたりと、異常な場合に六淫となります。 また、六気自体は平常な範囲にあっても、正気が弱っていると、相対的に六気が強くなるため、六淫と化します。 正気って何だったっけ?という方は、気の生理を復習してね。
六淫は、単独または複数で、皮毛や口、鼻など、体表から襲いかかります。 それぞれの特徴は、六気に元来備わった性質が誇張される感じ。 まとめると↓こうなります。
(a) 風邪
・ 四季を通じて現れる。 扇風機のような人工風でも、あたりすぎることで生じる。
・ 軽揚性があり、上へ外へと向かいやすく、人体の上部・体表部・五臓の肺に影響をおよぼす。
・ 開泄性があり、腠理(そうり)を開けて、衛気や津液を体外へもらす。
・ 遊走性があり、症状の出る部位や時間帯、病状が一定せず、変化しやすい。
・ 腠理(そうり)を開くため、他邪を一緒に引き込みやすく、「百病の長」と呼ばれる。
(b) 暑邪
・ 夏季に限定して現れる熱邪。
・ 炎熱性があり、大熱(高熱)と大汗を出させ、津液を消耗させる。
・ 昇散性があり、腠理(そうり)を開けて、汗とともに気をもらす。
・ 夏季は湿度も高いため、湿邪を伴うことが多い。
(c) 火邪
・ 夏季以外に現れる熱邪、あるいは熱邪が強くなったもの。 他邪が長期間停滞して化火したもの。
・ 炎上性があり、人体の上部に熱症状をもたらし、心神に影響をおよぼす。
・ 炎熱性は暑邪より強く、津液と気を消耗させる。
・ 長く停滞すると、陰液の消耗が激しくなり、風を発生させ、血を動かす。
(d) 燥邪
・ 秋季に現れることが多いが、冬季の関東地方のように、乾燥した環境下でも生じる。
・ 乾燥性があり、津液を損傷しやすい。
・ 鼻や口から入りやすく、肺を損傷しやすい。
(e) 湿邪
・ 長夏に現れることが多い。 雨にぬれる、水に浸かる、湿地に住むなど、多湿な環境下でも生じる。
・ 重濁性があり、陽気を滞らせ、頭や身体を重だるくさせ、排泄物や分泌物を濁らせる。
・ 粘滞性があり、排泄物や分泌物を粘らせる。 また、気機を滞らせて、病を長引かせる。
・ 下注性があり、人体の下部に影響をおよぼす。
・ 脾を損傷しやすい。
(f) 寒邪
・ 冬季に現れることが多い。 冷房にあたすぎたり、雨や汗でぬれた後に冷えたりすることでも生じる。
・ 寒冷性があり、陽気を損傷して、身体を冷やす。
・ 凝滞性があり、気血の流れを滞らせ、疼痛を発生させる。
・ 収引性があり、腠理(そうり)や経脈、筋などを収縮させる。
ここまで読んできて、肝の病証(1)に出てきた内風とか、肝の病証(2)の肝火、心の病証(1)の心火、臓腑兼証(1)にあった内寒などに思い至った方々、よく読みこんでくださってますね~。 これらは、六淫そっくりですけど、外から来たものじゃなくて、体内でできたもの。 六淫と分けるため、内生五邪と言います。 なぜ六じゃなくて五かというと、暑邪は内生しないから。
内生五邪の性質というか、特徴は六淫に瓜二つ。 だったら、内生五邪も病因になるんじゃないの? 私も鍼灸学校生の頃はそう思ってました。 でも、よく考えると、内生五邪って、病になったことで生じるものなんですよね。 だから、『新版東洋医学概論』でも、『中医病因病機学』でも、病機のところに出てくる。
ところが、『新版東洋医学概論』で、病因を図にしたものの中で、病理産物とその他の病因に、内生五邪が入っていることを発見しちゃいました~。 本文の記述には入ってないのにね。 まぎらわしい。 ただ、内生五邪ができたことで、新たな症状が出てきて、病証が変化することはあるから、ある意味、病因になりうるってことかも…。 ん~、ややこしくなるので、病機に入れることにします。
(2) 疫癘
疫癘は、強力な伝染性と流行性を持つ外邪。 六淫よりも発病が急で、症状は重篤になりやすく、老若男女を問わず、患者の病状が似ます。 かつては伝染病とか、疫病とか呼ばれていましたけど、感染症のことですね。
疫癘は、戻気(れいき)、癘気(れいき)、瘟疫(おんえき)、疫毒、異気、毒気、乖戻(かいれい)の気など、いろんな呼び方をされてきました。 戻気の「戻」は、「もどる」じゃなくて、「強烈」とか「ひどい」という意味です。
具体的には、↓下記のようなものがあります。
鼠疫(そえき): ペスト
霍乱(かくらん): コレラ
蝦蟇瘟(がまおん): 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
大頭瘟(だいずおん): 丹毒
天花(てんか): 天然痘
痢疾(りしつ): 赤痢など、細菌によって引き起こされるひどい下痢を主症状とするもの
病因について、一気に終わらせたかったんですけど、思ったより長くなったので、今日はこのへんで。
一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。
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