一から学ぶ東洋医学 No.17 東洋医学を支える三大理論③ 五行学説(2) 自然界・飲食物の五行 | 春月の『ちょこっと健康術』

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こんにちは 

五行論の2回目、自然界と飲食物の五行分類についてお届けします。 以前、五畜で引っかかって、記事アップが中断された経緯がありますが、今回は大丈夫。 鍼灸学校の新しい教科書『新版東洋医学概論』が発行されたので、お手本にできるから~。 

 

自然界とそこに起こるあらゆる事象も、人体とその生理・病理も、五行の関係でご説明した五行の基本的な性質をもとに分類されます。

どんなふうに分類されてるか?というと、まずはモノや事象の特徴や性質が、五行のどれに類似しているか?で分けられました。

成長するもの、勢いのあるもの、伸びやかなものは

熱いもの、上昇するもの、乾かすものは

何かを生み出すもの、変化させるものは

清潔なもの、引き締めたりまとめたりするものは

冷たいもの、下降するもの、潤すものは

そうは言っても、どんなものも性質はひとつじゃありませんね。 ↑上記にあげたものでも、重複するケースだってありますよね? その場合は、いくつかあるうちのもっとも特徴的な、一番強い性質をピックアップしています。 たとえば、夏→暑熱→という具合。

次に、連想ゲームのように類推していって、つながりのあるものを同じグループに入れました。 たとえば、春には東風が吹いて、草が青々と芽吹きますね。 で、春・東・青はです。

『黄帝内経(こうていだいけい)』の『素問 五蔵生成論篇』には、「五蔵の象は類を以て推すべし」とあります。 五蔵は五臓のことで、人体の五臓六腑は類推によって分類されたってことだけど、これについては人体の五行でお届けします。

五行の分類表をみていくと、実は無理やり当てはめたっぽいのもあるし、何より前回にも書いたように、中国の気候風土によるものですから、ところ変われば…で、全世界にそのまま通じるってワケでもありません。

なので、臨床の場では、五行論をただ機械的に使うのは良くないんです。 じゃあ、何のための五行論?というツッコミが来そうですが、医学には理論体系が必要だから。 とりあえず理論に従ってみて、うまく行けばそれでいいし、うまく行かなければ臨機応変に修正を加える。 西洋医学だって同じでしょ?

さて、自然界を五行に分けると、↓下表のようになります。

 


 
1 五季(五時)…季節
 

春は植物が芽吹き、木も枝を伸ばし始めます。万物がイキイキ・伸び伸びとしてくるのでです。

夏は炎熱の季節だから

秋は空気が澄んで乾燥するので

冬は寒冷な季節だから

 

ここまでは四季(四時)なので、しっくりまとまってますね。 ところが、五行ですから、五つないと困る。 そこで土用を持ってきたんだけど、日本でウナギを食べる「土用の丑の日」は夏前の土用ですが、この場合は夏の後の土用。 土用って、実は年4回あるんですよね。 四季の移り変わるころ、立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間。

 

五行の特性を考えても、五行の順番からしても、夏の終わりの土用がしっくりくる。 ということで、立秋前の長夏(ちょうか)に白羽の矢が当てられたようです。 あくまでも土用なんだという説もあるようですが、『黄帝内経』でも多数派は長夏を支持。

 

長夏は夏の終わりで、蒸し暑い時季。 収穫の秋に向かって、稲穂が重みを増し、果実が熟し始めるころなので


2 五方…方角

 

緑豊かな東方が

亜熱帯の南方が

大河に挟まれた肥沃な中部が

砂漠地帯の西方が

寒さ厳しい北方が


これは五行の関係にも書いたとおり、あくまでも中国の話。 細長い日本では、そっくりそのまま持って来れませんね。 南北はともかく、日本は乾燥地域がなくて、西日本でも(東)みたいなもの。 北半球なら南北が入れ替わるし。 そんなことを考えるとややこしくなるので、中国を基本として覚えましょう。 あとうは応用ね。


3 五気(五天)…季節の天気

 

風(ふう)は春季を支配する気なので

暑(しょ)は夏季で

湿(しつ)は長夏で

燥(そう)は秋季で

寒(かん)は冬季で

 

夏の暑さ、冬の寒さはわかりやすいですね。 風はどの季節でも吹くけど、春季の気とされたのは、中国の中央部で春先に吹く強い東風が印象深いからなんでしょう、きっと。 日本でも春一番は強風で、春の到来を告げる風とされてるでしょ? ただし春一番は南東の風ですけどね。

 

長夏は雨が多く、1年でもっとも湿気の多い時季とされていて、湿が長夏を支配する気になりました。 モンスーンや台風の影響でしょうか。 日本は、梅雨から夏にかけて、ず~っと蒸し暑いので、夏は「火」というより「湿」って感じですね。 あ、でも、今年の関東地方の夏は、6月は空梅雨、7月は暑くて、8月は雨ばかり。 五行の順番と同じでしたねぇ…。


秋季は空気が澄んで、涼しくなり、カラリとさわやかな季節です。 西方の乾燥地域との連想もあって、燥になったんでしょう。

 

4 五色…シンボルカラー

 

青は 伸びやかに枝を伸ばして青々と繁る木々の色

赤は 赤々と燃える炎の色

黄は 黄砂・黄土の色

白は 金属の光り輝く色

黒は 暗く低いところに集まった水の色


これで木火土金水の文字盤の色分けの理由、わかりましたね? え? 青はで、じゃないって? この話、いつだったか、どっかで書いたけど、古代、緑は碧で、現代的には青緑色で、青と緑の区別はなかったんです。 そう、だから青でも緑でもいいの。 東洋医学書では「青」に統一されています。 で、このブログでは、としてたこともあるけど、今後はでいきます。

 

この五色、鯉のぼりのふきながしの色や七夕の短冊の色、相撲の土俵や能楽の舞台を飾る房の色、神官や僧侶、貴族の地位を示す色にも使われています。 

 

五方を組み合わせると、木・東・青、火・南・赤、土・中央・黄、金・西・白、水・北・黒となるでしょ? 四神は、東を守る青龍、南を守る朱雀、西を守る白虎、北を守る玄武で、青・赤・白・黒になっています。 相撲の土俵の青房・赤房・白房・黒房も同じ。

 

中国では黄色をもっとも高貴な色としていますが、それは四方から四神に守られる中央が黄色だから。日本(本土)では紫だけど、沖縄の紅型は黄色地のものが高貴で、昔は王族しか着られなかったとか。

 

5 五化(五能)…変化

 

五行論は農業とともに発展してきた経緯があります。 なので、五化は五季の農作物の変化。 春に芽を出し()、夏に成長()、長夏に実を結び()、秋に収穫()され、冬に貯蔵()されるという具合です。


6 五音…音階

 

中国古来の五つの音階で、宮(きゅう)はド、商(しょう)はレ、 角(かく)はミ、 徴(ち)はソ、 羽(う)はラにそれぞれ相当するとされています。 日本ではヨナ抜き音階と呼ばれておりますが、ピアノの黒鍵だけを使うと、この音階になるとか。 雅楽や声明(しょうみょう)では、五声(ごせい)といいます。


なぜ角(ミ)がで、徴(ソ)が、宮(ド)が、商(レ)が、羽(ラ)がに配当されたのか? 『黄帝内経(こうていだいけい)』には、五行のどれに入るかは書いてあっても、その理由までは書かれてない! 木火土金水の順番だと、ミソドレラだし…。

 

音楽理論のほうから調べてみました。 古代中国には音階の高さを割り出す算法があって、『管子(かんし)』、『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』、『淮南子(えなんじ)』などに、「宮を出発点とし、三分損益法で5度上、4度下と音を交互にとることによって得られる。」とあるそうです(日本大百科全書ニッポニカより)。

 

ふむふむ。 ひとつだけはっきりしたのは、基本となる音が宮だということ。 五方の中央と同じで、中心となるものはになる! でも他の音については、どう結びつくのかまではわかりませんね。 理由を知りたがるクセは置いておくことにして、先へと進みましょう。


7 五臭…におい

 

臊(そう)は、あぶらくさいにおいで。 羊肉のにおいに近いもので、羶(せん)とされることもある。

焦(しょう)は、こげくさいにおいで。 肉を焼いて焦げたときのにおい。

香(こう)は、かんばしいにおいで。 キビの甘い香りをさす。

腥(せい)は、なまぐさいにおいで。 生魚のにおいに近いもの。

腐(ふ)は、腐敗臭で。 

これも、なぜこういう五行配当なのかは、古代中国の人々の経験からという解釈で、理由を追求せずに先へ行きましょう。 ひとつだけ気づいたのは、が「香」で「かんばしい」ということで、高貴な色である黄色に対応するにおいとしてふさわしいものになっているってこと。 古代中国で、黄色をまとうのは皇帝ですから、変なにおいは配当できっこありませんよね。 

 

次は、飲食物の五行です。

 

 

1 五果…果実

 

 李(り)はスモモ、杏(きょう)はアンズ、棗(そう)はナツメ、桃(とう)はモモ、栗(りつ)はクリ。  

 

五果は、栄養補助食品としての果実で、五行に対応する五臓を補うと考えられています。 でも、東洋医学の常で、食べ過ぎは逆効果。

 

2 五菜…野菜

 

韮(きょう)はニラ、薤(がい)はラッキョウ、葵(き)はアオイ、葱(そう)はネギ、藿(かく)はマメの葉。

 

五菜は、五味に基づく野菜の分類。 つまり、ニラが酸味、ラッキョウが苦味、アオイが甘味、ネギが辛味、マメ葉が鹹味ってことです。 

 

アオイについては、フユアオイとする説もあるので、食用のアオイ科植物ってことでいいと思います。 オクラとか、モロヘイヤとか、オカノリとか、切るとネバネバの出てくる野菜って、アオイ科なんですよ。 で、このネバネバは消化器系(脾)や呼吸器系(肺)にいいので、への配属は納得です。 

 

3 五畜…家畜

 

鶏(けい)はニワトリ、羊(よう)はヒツジ、牛(ぎゅう)はウシ、馬(ば)はウマ、豕(し)はブタ・イノシシ。

 

五畜は、人体に有益な家畜の肉。 これは『黄帝内経』の『素問 金匱真言論篇 第四』をとっています。 『新版東洋医学概論』が取り上げているので、私もこれを支持します。 現代、よく食べられる肉の組み合わせですしね。

 

五畜には『黄帝内経』の中だけでも諸説ありまして、↓以下のようになっております。

犬肉、羊肉、牛肉、鶏肉、豕肉 【素問 蔵気法時論篇 第二十二】

犬、羊、牛、鶏、猪 【霊枢 五味篇 第五十六】

犬、羊、牛、鶏、豕 【霊枢 五音五味篇 第六十五】

犬、馬、牛、鶏、豕 【霊枢 五常政大論篇 第七十】

 

犬は、食用の赤犬。 かつては中国、韓国、東南アジアで広く食べられておりました。 中国では、北方民族による支配以降、減少したと言われております。 北方民族にとって、犬は狩猟の友ですからね。 韓国では、ソウルオリンピックのときに、犬を愛玩する人たちにずいぶんと非難を浴びていたことは、記憶にそう古くはない事実です。 

 

日本では、どうか? 縄文時代にはなかったけれど、弥生時代には食べられていたみたい。 中国・朝鮮半島から、犬食文化が人と一緒に入ってきたのでしょう。 奈良時代以降、仏教文化が盛んになって、肉食そのものが廃れたので、犬を食べることはなくなったということです(Wikipediaより)。

 

犬食についての云々はともかく、五行配当で、犬がだと、鷄がになってるところが問題。 食品なので、五味と考え合わせると、酸味が辛味に変わっちゃうから。 まぁ、陰陽と同じく、五行も比較の結果なので、犬と鷄を比べたら、そうなるという解釈でいいのかもしれません。 住んでいる地域の環境にもよりますしね。

 

そう、『黄帝内経』の中で、五行配当がこんなに分かれているのは、五畜と後述する五穀。 中国って広いから、環境と食文化の違いは大きかったでしょう。 『黄帝内経』の元になった論文を書いた人の出身地によって、これだけの違いが出ていると考えるのが妥当なところではないでしょうか。 あるいは、書かれた時代の違いもあるのかも?

 

豕(し)は彘(てい)と書かれていたりもするんですが、同じ意味ですし、ここでは豕で統一しました。 どちらも日本語では「いのこ」と呼びます。 イノシシとブタは親戚ですから、いっしょくたにしても問題なしです。 しかも、全部鹹味で共通してますしね。

 

4 五穀…穀物

 

麦(ばく)はムギ、黍(しょ)はモチキビ、稷(しょく)はタカキビ、稲(とう)はイネ、豆(ず)はマメ。

 

ムギは大麦の可能性が大です。 大麦は世界最古の穀物のひとつで、小麦よりもず~っと昔から、広く栽培されていますから。 小麦は薬として使われていたから、小麦という考え方もありますけどね。

 

モチキビは、もちもちと粘り気が強い雑穀です。 鳥の餌とかにも入ってる、黄色くて小さな粒々。 本来のキビ団子は、これでつくられていたようです。

 

タカキビは、高粱(コーリャン)のこと。 昔、日本で稲作ができなかった地域では、これを主食にしてたことも。 最近の雑穀ブームでは、ポリフェノールが含まれている点で注目されています。

 

イネは、おそらく粳米(うるち米)でしょう。 うるち米には口を潤す作用があって、漢方薬にもなっています。

 

マメは、たぶん大豆。 小豆という説もあるようですが、『黄帝内経』の他の篇に大豆とあるので、大豆の方が有力でしょう。 

 

五穀は人体を養う穀物。 表に入れた組み合わせは、五畜と同様に、『素問 金匱真言論篇 第四』から来ています。 

 

五畜と同様に、『黄帝内経』の中に諸説あります。

小豆、麦、粳米、黄黍、大豆 【素問 蔵気法時論篇 第二十二】

麻、麦、稷、稲、豆 【素問 五常政大論篇 第七十】

麻、麦、粳米、黄黍、大豆 【霊枢 五味篇 第五十六】

麻、麦、稷、黍、豆 【霊枢 五音五味篇 第六十五】

 

麻は、素直に麻の実と考えてもいいようですが、胡麻だとも考えられる。 胡麻の方が栄養ありそうですもんね。 

 

五行を食養生に生かそうと思ったときに、これだけ違いがあると、困っちゃいますよね。 何でこんなに違うのかは、五畜の場合と一緒かなぁ。 もっとも、漢方食養生の性味としては、穀物のほぼすべて甘味に属しちゃいますから、そこまで気にしなくてもいいのかもしれません。

 

ちなみに、日本で五穀というと、一般的に米・麦・粟・豆・黍または稗ですが、古事記には稲・麦・粟・大豆・小豆、日本書紀には稲・麦・粟・稗・豆とあるそうです(Wikipediaより)。


一天一笑、今日も笑顔でいい1日にしましょう。

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