おはようございます
昨日は、阪神淡路大震災から23年という日でしたね。 肝の病証がらみではありましたが、東日本大震災を思い出したのも、そういう日だったからかもしれません。 阪神淡路のときは、3か月後に神戸在住の友人を訪ねているので、自分で見て知った街の様子、よく覚えています。 今年は神戸にも行こう。
前回、心の生理と病理で、『黄帝内経』の夏の養生法をご紹介しました。 夏の3か月は、立夏から大暑までの六節気ですから、今年は5月5日から8月6日までですね。
夏の養生法に関連して、「脾を養って梅雨~夏を乗り切ろう」と「心を助けて猛暑日のからだを守ろう」
の2本を書いています。 なぜ2本立てかというと、四季は4つしかないけど、五臓は5つだから。 五行の色体表では、脾の土には長夏が配当されてるけど、『黄帝内経』には、長夏の養生法はないの。 残念。
さて、今回は心の病証で、まずは病機から。
心病(心の病証)の病機
心陽・心気の失調と、心陰・心血の失調に大別されます。 心は、心包に護られてますし、外邪の影響を直に受けることはありませんが、津液の病理産物である痰湿が原因となるものがあり、これを別枠としますね。
(1) 心陽・心気の失調
温煦作用が前面に出ている場合に心陽、それ以外の気の作用が中心となる場合に心気と使い分けされます。 これは、他臓でも同じ。 肝陽と肝気もそうだったでしょ? 肝と違うのは、心の場合、陽虚もあること。
心陽・心気の失調には、陽の偏盛と偏衰、気の虚衰があります。
・ 心陽の偏盛 = 心陽の亢進、心火上炎 → 心火亢盛証
・ 心陽の偏衰 = 心陽の衰弱、心陽不振 → 心陽虚証
・ 心気の虚衰 = 心気の衰弱、心気虚弱 → 心気虚証
・ 心陽・心気の突然の極度の虚脱 → 心陽暴脱証
参考書によって、異なる表現が用いられているので、並べてみました。 意味は同じで、単語の選び方の違いですね。
(2) 心陰・心血の失調
血だけでなく精や津液も含めた陰液の病証である場合に心陰、血の病証である場合に心血と使い分けられます。 これは、肝陰・肝血の場合と同じ。 ちなみに、他の三臓(脾・肺・腎)は、心血・肝血みたいに○血というのはないので、陰だけです。
心陰・心血の失調には、陰の偏衰、血の虚衰、血の阻滞があります。
・ 心陰の偏衰 = 心陰の虚損、心陰不足 → 心陰虚証
・ 心血の虚衰 = 心血不足 → 心血虚証
・ 心血の阻滞 = 心血の瘀滞(おたい)、心脈瘀阻(おそ) → 心血瘀阻(おそ)証
(3) 痰湿によるもの
痰湿の阻滞が影響するものとして、肝の病証では、肝鬱気滞の一症状として、梅核気(ばいかくき)がありました。 痰湿が心に悪さをする場合は、心が詰まるんだもの、もっと深刻な状況に陥りそうだって想像つきますね。
津液の生理と病理にあるとおり、痰湿は、密度の薄い順に、湿、水、飲、痰となりますが、心に悪さをするのは一番密度が濃くて、塊になりやすい痰。 痰濁とも呼ばれます。 これが、心竅や心を滋養する血脈をふさいだり、心包を覆いつくしたりすると、重篤な痰阻心竅となります。
・ 痰阻心竅 → 痰迷心竅証
・ 痰阻心竅+火 → 痰火擾心証
心陽・心気の失調による病証
(1) 心火亢盛証 ()
(a) 病態
心陽が亢進して心火となって炎上し、主血や主神志の失調が起こる状態。
(b) 原因
・ 火熱邪の侵入
・ 五志化火
・ 痰火の内生
・ 肝火の波及
・ 陰虚火旺による虚火内盛
上の4つは実火です。 火熱の邪は、温熱性の外邪や他の外邪が化火したもの。 五志化火は、五志が過激になって化火したもの。 痰火は、鬱滞した痰湿が化火したもの。 肝火の原因に入っていた飲酒・喫煙・辛い飲食物摂取の過剰も、直接心火となる可能性は無きにしも非ずだけど、これは肝火の波及ってことでいいかな。
陰虚火旺は、本態は陰虚にあって、虚熱を通り越して虚火になった状態。 この分を()で示しておきました。 心は熱しやすいので、虚熱は虚火になりやすいんです。
実火は陰液を損傷しやすいので、陰虚の原因となります。 そして、陰虚がひどくなると、虚火が生じる。 虚火が生じると、上半身では実火のように強い症状が出て、上実下虚となる。 すると、実火も炎上しやすくなる。 こんなふうに、実火と虚火は、互いに転化しあうことがしばしば起こります。
(c) 症状
① 主血・主神志の失調症状
・ 心悸、重症ならば怔忡(せいちゅう)
・ 不眠、多夢、重症ならば言動の異常や意識不明
② 熱症状
・ 顔面紅潮、口渇、胸部の煩熱
・ 小便短赤、大便乾結
・ 口腔粘膜や舌のびらん・潰瘍
・ 吐血、衄血
③ 舌脈所見: 舌尖紅絳、脈数有力
心の病態は、舌の尖端に出やすいため、舌尖が赤くなります。 心火の場合は、熱が強いので、赤みも強くなって絳(こう)になりやすく、紅または絳で紅絳という表現になります。 詳しくは舌診で。
(d) 進行と波及
・ 心火によって痰が形成されると、痰火擾心証となる。
・ 心火が陰液を損傷すると、心陰虚証となる。
・ 心火によって生じた熱が、表裏関係にある小腸に影響すると、小腸実熱証となる。
・ 心火が腎陰を損傷して、心火亢盛と腎陰虚が合併すると、心腎不交証となる。
・ 心火が肝火を誘発すると、心肝火旺証となる。
(2) 心気虚証
(a) 病態
心の機能が減退して、全身性の気虚症状を呈する状態。 心は臓腑を統括していますから、心気虚はすべての臓腑の機能に影響します。
心気の虚衰は、心拍が弱るので、血の推動に直接影響します。 すると、血脈は血で充足されないため、臓腑や組織・器官への血の到達が悪くなって、滋養の状態が全身性に低下します。 その結果、臓腑や組織・器官の機能も低下して、全身性の気虚証となるのです。
(b) 原因
・ 大病や久病(長患い)、過労などによる気の消耗
・ 加齢に伴う臓腑の機能減退
・ 先天的な虚弱体質
・ 肺・脾・腎などの気虚や陽虚の波及
大病、久病、過労は、気だけでなく、血も消耗しますから、身体に対するダメージは大きく、必ず臓腑の機能減退につながります。
心気の源泉は、先天の精から化生される原気と、後天の精と天の清気から化生される宗気です。 あれれ? 臓腑の気は原気だけじゃないの? 宗気は何をしてましたっけ? 気の生理にありますが、心血の推動。 で、血を拍出して全身へ送るのは心気の主血。 つまり、宗気は心気の一部として働いているってことです。 宗気は、肺の呼吸にも関与してましたから、肺気の一部にもなるってことです。
ということは、先天の精を貯蔵する腎や、後天の精を飲食物から消化吸収する脾、天の清気を吸い込む肺の状態が、原気や宗気の化生に影響するので、心気に影響が及びます。 加齢や虚弱体質で、臓腑機能が低い場合も同様です。
(c) 症状
① 主血の失調による症状
・ 心悸、重症ならば怔忡(せいちゅう)
・ 顔面蒼白
② 気虚症状
・ 胸悶、息切れ(宗気の機能低下)
・ 易疲労、倦怠感、無力感
・ 自汗
・ 活動すると症状悪化
③ 舌脈所見: 舌質淡、舌苔白、脈細弱
(d) 進行と波及
・ 温煦作用も低下すると、心陽虚証となる。
・ 陰血に影響すると、心気心陰両虚証または心気心血両虚証となる。
・ 他臓に波及すると、他臓の気虚証を合併する。
・ 血の推動が悪化すると血瘀(けつお)証、津液の推動が悪化すると痰湿証を引き起こす。
(3) 心陽虚証
(a) 病態
心陽が虚衰して、拍動が無力となり、虚寒が内生した状態。
(b) 原因
・ 長期にわたる心気虚
・ 大病や久病(長患い)、過労などによる陽の損傷
(c) 症状
① 主血の失調による症状
・ 心悸、重症ならば怔忡(せいちゅう)
・ 顔面蒼白
② 気虚症状
・ 胸悶、息切れ(宗気の機能低下)
・ 易疲労、倦怠感、無力感
・ 自汗
・ 活動すると症状悪化
③ 虚寒症状
・ 胸部の絞痛(絞られるような痛み)
・ 畏寒、四肢の冷え
④ 舌脈所見: 舌質淡胖、舌苔白、脈弱細
舌質淡胖の胖とは、胖大舌のことで、舌がぼてっと大きくなった状態。 陽虚によって、津液の代謝が悪くなり、舌が水っぽくなるために生じます。 詳しくは舌診で。
(d) 進行と波及
・ 進行は緩慢で反復することが多いが、急激に悪化すると、心陽暴脱証となる。
・ 虚寒が強くなると、瘀血(おけつ)を生じて、心脈瘀阻(おそ)証を引き起こすことがある。
・ 陽損及陰になる(陽気の損傷が、陰液に波及する)と、心陰心陽両虚証となる。
・ 肺に影響して、肺気虚証を引き起こすことがある。
(4) 心陽暴脱証
(a) 病態
心陽・心気が極度に衰退して、突然虚脱し、意識がもうろうとする状態。
(b) 原因
・ 心陽虚が進行して限界に達した。
・ 慢性的な心陽虚に、強い寒邪が侵入。
・ 慢性的な心陽虚に、瘀血(おけつ)や痰濁が心竅を塞ぐ。
・ 慢性的な心陽虚に、突然の大量出血。
(c) 症状
・ 事前に陽虚の症状がある。
・ 突然冷や汗がタラタラと流れて、呼吸が微弱になる。
・ 顔面から血の気がなくなり、唇が紫色になる。
・ 激しい胸痛が起こることもある。
・ 意識がもうろうとする。 ひどいときは昏睡状態となる。
・ 舌脈所見: 舌質紫暗・胖大、脈微弱
(d) 進行と波及
・ 危篤状態であり、救命救急しないと、陰陽が離脱して死に至る。
・ 治療によって、脱証から抜けられれば、心陽虚証に戻る。
続きは、また明日~。
一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。
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