こんにちは
六腑の第二弾は胃。 胃と小腸・大腸は消化管で、管状につながる口から肛門までの途中にあります。 その管の中を水穀が通って、消化・吸収・排泄されていく。 これは、現代の解剖生理学とも共通した認識ですね。 五行順なら、胆の次は小腸ですが、消化管の中心をなすのは胃なので、胃を先にします。
余談ですが、東洋医学では、口から肛門までの間で、飲食物が通過する七か所の関門を七衝門(しちしょうもん)としています。 それは、『難経 四十四難』にあって、口から順に↓以下のとおり。
・ 飛門(ひもん) : 唇
・ 戸門(しもん) : 歯
・ 吸門(きゅうもん) : 喉頭蓋
・ 噴門(ふんもん) : 胃の上口
・ 幽門(ゆうもん) : 胃の下口
・ 闌門(らんもん) : 小腸と大腸の境(回盲部)
・ 魄門(はくもん) : 肛門
噴門と幽門は、現代の解剖生理学用語としても使われますね。 当てられている漢字の意味から、それぞれの特徴をどうとらえたのか、想像をめぐらすのも楽しいものです。 たとえば、上下の歯をカチッと合わせると、戸をパタンと閉めるみたいだから戸門とかね。
吸門は、会厭(ええん)とも言います。 声音の門戸であり、舌根部および舌骨の後部。 食道と気管が分かれるというより、出会うところだから、会の文字が使われているのでしょう、たぶん。 飲食物が通るときは閉じて、呼吸するときは開く。 まさに喉頭蓋ですね。
胃とは?
胃は、脾と表裏関係にあり、土に属す腑。 横隔膜の下、臍よりも上に位置します。 五臓六腑の中でも、脾と胃の関係は密接で、消化・吸収と言えば脾胃というように、ふたつでひとつのように扱われることも多々あります。
胃は胃脘(いかん)とも言うので、上・中・下の三部に分けると、噴門を含む上部が上脘(じょうかん)、胃の本体である中部が中脘(ちゅうかん)、幽門を含む下部が下脘(げかん)となります。 この三つ、そのまま胃経の経穴名にもなってるんですよ。 脘(かん)は、にくづきに完と書きます。
胃は、口から入った水穀を受け入れて、一時的に溜めこむので、「太倉(たいそう)」とか「水穀の海」とも呼ばれます。
胃の生理特性と病理
脾の生理と病理にある脾の生理特性と見比べると、脾と胃が対になっていて、その関係が密接であることがよくわかります。
(1) 降濁
脾には昇清という生理特性があり、飲食物から取り出した水穀の精微を上昇させます。 これに対し、胃には降濁という生理特性があり、消化した水穀を小腸へ、さらに大腸へと下降させます。 濁は、重く濁った濁気のことで、軽く清らかな清気に対応するものです。
つまり、脾と胃が協調することで、気機の平衡が保たれ、水穀の昇降がうまくいく。 この昇降バランスを補助しているのが、肝の疏泄であることは、肝の生理と病理でお伝えしたとおりです。
水穀が一時的に溜めこまれるとしても、胃を通過していくのが生理的に正常な状態ですから、降濁のことを通降とも言い、通降の状態が良く調和していることを和降と言います。
降濁がうまく機能しなくなると、↓下記のような症状が出ます。
・ 中焦(脾胃)の気機が滞る → 腹部膨満感
・ 気機が上逆する → 悪心、嘔吐、吃逆(しゃっくり)、噫気(げっぷ)
・ 大腸の伝化に影響する → 便秘
(2) 喜湿悪燥
脾は喜燥悪湿でしたね。 胃は真逆の喜湿悪燥です。 脾が水液過剰になりやすいために温燥を好むのに対し、胃はよく蠕動して熱が旺盛になりやすいために水湿を好む。 両者は近くにあって、異なる性質を持つからこそ、助け合えるしバランスが取れるワケですね。
そのバランスが崩れると、↓以下のような症状が出やすくなります。
・ 陰液の不足や内熱の過剰 → 胃気上逆 → 悪心、嘔吐、吃逆、噫気
・ 内熱の上昇 → 頭痛、歯肉炎、口内炎
胃の生理作用と病理
受納(じゅのう)と腐熟(ふじゅく)を主る
胃が水穀を受け入れて、一時的に収納することを受納、水穀を消化し、ドロドロの状態にして、精微を吸収しやすくすることを腐熟と言います。 この作用が失調すると、↓以下のようなことが起こります。
・ 受納の失調 → 食欲不振
・ 腐熟の失調 → 食滞
胃の病証
胃の病証は、胃気の虚損、受納・腐熟の障害、降濁の失調などによって起こります。
(1) 食滞胃脘(しょくたいいかん)証
(a) 病態
飲食物が胃に停滞して、気機が阻滞し、十分に腐熟できず、受納もできなくなる状態。
(b) 原因
・ 過食、暴飲暴食
・ 度重なる傷食
・ 体質的に脾胃虚弱があるにも関わらず、飲食に注意しない
(c) 症状
・ 胃気の鬱滞 → 上腹部の脹満感、脹痛(嘔吐すると軽減する)
・ 胃気の上逆 → 噫気、呑酸、悪心、嘔吐
・ 降濁・腐熟の失調 → 矢気(おなら)が多い、便秘または未消化便
・ 舌脈所見: 舌苔厚膩、脈弦滑
(d) 進行と波及
・ 長期にわたると、熱を生じて、胃鬱熱証となる。
・ もともと脾胃虚弱傾向であれば、食滞は改善しにくく、脾胃の気がさらに弱って、食滞を起こしやすくなるという悪循環に陥る。 この場合は、脾虚食積証と呼ばれ、虚実夾雑証となる。
(2) 胃鬱熱証
(a) 病態
胃に内熱がこもり、胃の機能が失調した状態。
(b) 原因
・ 辛いもの・あぶらっこいもの・味の濃いこってりしたものの過食や飲酒の過剰
・ 他臓腑からの熱の伝変
・ 外感湿熱邪の胃への鬱滞
(c) 症状
・ 胃気の鬱滞+熱 → 上腹部の熱感、嘈雑(そうざつ)または消穀善飢(しょうこくぜんき)
・ 胃気の上逆+熱 → 噫気、呑酸、嘔吐または食べると吐く、口臭、口内炎、歯肉炎、口渇
・ 降濁の失調+熱 → 便秘
・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔黄、脈滑数
嘈雑(そうざつ)は、いわゆる胸やけの状態で、空腹感とも痛みともつかない胃の不快感のこと。 嘈(そう)は、くちへんに曹と書きます。
消穀善飢とは、胃熱が盛んになると、熱によって水穀が消化されてしまい、食事をしてもすぐに空腹を感じるようになること。 これが起こると、食べても十分に吸収されないので、身体は痩せていきます。
(d) 進行と波及
・ 胃熱が化火すると、胃火上炎証となる。
・ 胃熱によって胃陰が損傷されると、胃陰虚証となる。
(3) 胃火上炎証
(a) 病態
胃熱が化火し、胃経に沿って上炎した状態。
(b) 原因
・ 胃鬱熱の化火
・ 五志化火
(c) 症状
・ 胃気の鬱滞+火熱 → 上腹部の灼熱痛、嘈雑(そうざつ)または消穀善飢(しょうこくぜんき)
・ 胃気の上逆+火熱 → 噫気、呑酸、嘔吐、口渇、口臭、歯肉の腫脹や化膿、咽頭炎、吐血、衄血
・ 降濁の失調+火熱 → 便秘
・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔黄、脈滑数
胃火は、熱の度合いが強いので、熱症状も胃鬱熱より強いものとなります。 また、慢性化しやすく、発作的に症状を繰り返すようになるので、早めの治療と養生が必要です。
(d) 進行と波及
・ 胃火によって胃陰を損傷すると、胃陰虚証となる。
・ 歯肉の腫脹や化膿、出血が改善されないと、歯肉の萎縮や歯の動揺・脱落が起こる。
(4) 胃陰虚証
(a) 病態
胃陰が損傷されて、虚熱を生じ、胃の機能が失調した状態。
(b) 原因
・ 胃鬱熱や胃火による胃陰の損傷
・ 温熱病や温燥薬物の乱用による胃陰の損傷
・ 激しい嘔吐や下痢による胃陰の消耗
(c) 症状
・ 胃気の失調+虚熱 → 食欲不振、空腹感はあるが食べたくない、嘈雑、胃の鈍痛
・ 胃気の上逆+虚熱 → 乾嘔、吃逆、口乾欲飲(ただし、水を飲んでも改善しない)
・ 降濁の失調+虚熱 → 便秘
・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔少、脈細数
(d) 進行と波及
・ 虚熱によって気が滞ると、瘀血(おけつ)を生じやすく、気滞血瘀(けつお)証となる。
・ 陰虚が長引いて気も損傷されると、気陰両虚証となる。
(5) 外寒犯胃証
(a) 病態
寒邪が凝滞して、胃の機能が失調した状態。 寒凝胃腑証ともいう。
(b) 原因
・ 外感寒邪の侵入
・ 冷たいものや生ものの過食による寒邪の内生
(c) 症状
・ 急で激しい胃の冷痛、温めるあるいは嘔吐すると痛みが緩和
・ 胃の痞え感、悪心、嘔吐、便秘または下痢
・ 腹部や四肢の冷え、ひどければ顔面蒼白
・ 舌脈所見: 舌質淡、舌苔白潤、脈沈緊
(d) 進行と波及
・ 寒邪の侵入や内生が反復すると、胃陽を損傷して、胃気虚寒証となる。
(6) 胃気虚寒証
(a) 病態
胃気の損傷によって、虚寒が生じ、胃の機能が失調した状態。
(b) 原因
・ 寒邪犯胃証の反復
・ 飲食不節、過労、過度の精神的な緊張などによる胃気の損傷
(c) 症状
・ 空腹時の胃の冷痛、食べる・温める・按じるなどで痛みが緩和
・ 寒冷刺激・疲労・精神的な緊張などで痛み発作が起こる
・ 噫気、悪心、嘔吐
・ 畏寒、四肢末端の冷え
・ 舌脈所見: 舌質淡胖、舌苔薄白、脈細緩
(d) 進行と波及
進行は緩慢で、経過が長いため、段階によって症状が変化する。
(1)の食滞は、いわゆる消化不良で、食べ過ぎや飲み過ぎによるものは、誰しも一度や二度は経験したことがあるのではないでしょうか。 悪い酔いして吐くなんていうのは、これかな。 吐くとスッキリしますからね。
(2)~(4)の胃鬱熱、胃火、胃陰虚は、熱の度合いは違っていても、いずれも胃熱によるものなので、胃熱証と総称されます。 (5)と(6)の寒邪犯胃と胃気虚寒は、胃寒証と総称されます。
胃気の失調で、便秘と下痢という相反する症状がでるのは、なぜでしょうね。 便秘は、降濁できずに、便が停滞する状態。 下痢は、十分に腐熟できないために、脾の運化にも影響して、胃に入ったものがそのまま下ってしまう状態…と考えることができます。
一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。
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