こんにちは
蔵象で重要なポイントは、臓腑が「有機的な統一体」としての人体を成す中心であり、臓腑の生理機能が協調して、動的な平衡を保っているということ。 それを説明するのに、陰陽学説と五行学説が応用されているワケです。
蔵象の本編、まずは五臓の生理と病理を五行の順にご紹介していきます。 その後で、五臓の相互関係、六腑、奇恒の腑と続く予定です。
肝とは?
まずは、陰陽 医学への応用、人体の五行、五行 医学への応用などにある肝にまつわる情報をまとめておきましょう。
・ 肝は臓であり、裏にあって陰に属す。 五臓の中では、横隔膜の下にあって、陰に属す。
・ 自然界との関係では、肝は風木の臓であり、春に相応する。
・ 肝は目に開竅する。 肝の液は涙。
・ 肝の体は筋、華は爪にある。
・ 肝は魂を蔵す。 肝の志は怒。
・ 肝と関係の深い五味は、酸味。
・ 肝木は、腎水を母、心火を子とする相生関係と、肺金に克され脾土を克す相克関係を成す。
そして、これから説明していくことですが、蔵象における肝の特徴もまとめておきますね。
・ 肝の生理特性: 昇発(しょうはつ)、条達(じょうたつ)
・ 肝の生理作用: 疏泄(そせつ)、蔵血(ぞうけつ)
「もうすぐは~るですねぇ~♪」でご紹介していますが、『黄帝内経(こうていだいけい)』の『素問 四気調神大論篇』には、春の養生法として、↓次のような一節があります。
「春の3か月は、古いものを推し出して、新しいものを発生させる季節である。 天地の気が生き生きとし、万物が栄えてくる。 人は少し遅く寝て少し早く起き、庭をゆったりと歩き、髪をときほぐし、心も生き生きとさせることだ。 すべてを生かして、殺してはならない。 与えて、奪ってはならない。 讃えて、罰してはならない。 これらすべて、春の気に応じる養生の道である。 これに逆らえば、肝を傷つけ、夏に寒性の病を生じ、夏の長気に適応する力を弱めてしまう。」
↑これをご紹介したとき、「イキイキ伸び伸び」を春の養生法キーワードに設定しましたが、そのまま肝のキーワードとしても使えますよ。 なぜなら、肝の生理特性は昇発と条達で、肝には疏泄作用がありますからね。 春の養生法を知ることで、春に対応する肝の養生法も見えてくるというワケです。
肝の生理特性と病理
蔵象で中心となるのは、五臓の生理作用。 なので、鍼灸学校の教科書である『新版東洋医学概論』では、生理作用の説明が先に来ています。 でも、生理特性を先に見ておくほうが、理解しやすいように思うので、そうします。
以前の東洋医学講座シリーズでは、生理特性と生理作用はごっちゃになってるの。 それは、以前の教科書がそうなっていたから。 『新版東洋医学概論』では分けられていて、最初は戸惑ったけど、よく見ると、なるほどという感じです。 その生理特性があるから、その生理作用が生きる。
蔵象は、臓腑の状態は必ず体表に反映するという考え方に基づいて、目に見える範囲の状態の変化を観察し、治療の成果を検証することを繰り返し重ねることで、培われてきたもの。 解剖した結果を突き詰めて研究されてきたのではありませんから、名称は同じでも、東洋医学の臓腑は、現代西洋医学の臓腑とは違う生理機能を持つのです。
(1) 昇発(しょうはつ): 上昇と発散
肝の気機には、上へ、外へと向かう特徴がありますが、特に上昇する気機が強い。 肝の持つ疏泄(そせつ)作用が失調すると、この性質が前面に出やすく、気機が過剰に上がってしまうので、頭痛や眩暈など、身体上部の症状が出ます。
(2) 条達(じょうたつ)
条達は、木が太陽に向かって伸びていく様子、あるいは水や栄養が隅々にまで行きわたる様子を表します。 春に草木が芽吹いて、育っていく様子と同じ。 これが阻害されると、気機が滞って、脹痛や胸悶、嘆息などの気滞の症状が出ます。
肝の生理作用と病理
(1) 疏泄(そせつ)
疏泄とは、生理物質を順調に推動して、身体の隅々にまで行きわたらせる機能です。 まさに、肝の条達という特性が成せるワザ。 肝の疏泄は、情志の調節、気機の調節、脾胃の補助に深く関わっていて、女性の月経や排卵、男性の射精にも関与しています。
(a) 情志の調節
情志は、七情と五志の総称で、感情の動きであり、外界からの刺激に対する情動反応です。
外からの刺激にどう反応するか。 きもが座っていれば、慌てることはまずありませんね。 この「きも」はまさしく肝(かん)。 肝がしっかりしていれば、疏泄がうまく情志を調節して、ほどよく発散したり、抑制したり、身体に影響が出るような反応とはなりません。
疏泄が失調すると、ほどよくイキイキ伸び伸びするはずの気機が、暴走したり、縮こまったりします。 暴走は気機の亢進状態で、疏泄の太過(たいか)と言います。 縮こまるのは気機の阻滞で、疏泄の不及(ふきゅう)と言います。 太過と不及は、交互に起こることもあります(気滞のところで、小川の流れで説明してたこと、思い出してね)。
疏泄の太過では、肝の昇発が激しくなり、情志は本来よりも強く出て、急躁(イライラする)や易怒(怒りっぽい)という状態になります。 疏泄の不及では、肝の条達が失われ、情志は抑え込まれて、抑鬱感や落ち込み気分が生じます。
疏泄の失調は情志を失調させます。 また、その反対に、情志の失調は疏泄の失調を招きます。 どちらが先でも、どこかで手当てするなり、気分転換しないと、悪循環に陥ってしまうので要注意です。
情志の失調を起こす最大の原因は、現代的に言えばストレス。 情志の失調は、精神疾患というようなものではなく、イライラや落ち込みなど、誰もが経験するような病態なんです。 蔵象を進めていくと、数々の臓腑の病証が出てきますが、ストレス→情志の失調→疏泄の失調→肝鬱気滞というのが、一番ポピュラーかもしれません。
(b) 気機の調節
疏泄は、昇降出入する気機を調節する役割を担っています。 疏泄が正常であれば、気機も伸びやかにスムースに働くので、生理物質はそれぞれの生理作用をいかんなく発揮することができますが、そうでないといろいろと厄介なことが起こってきます。
疏泄の太過では、肝の昇発が激しくなり、気機の上昇が強くなるために、↓下記のような病理変化が発生します。
・ 情志の面では急躁や易怒になることは前述の通り。
・ 肝気が上逆して、頭や目の脹痛、顔面紅潮、目赤などが起こる。
・ 気の上昇が激しければ、血も上昇して、吐血、喀血などが起こる。
疏泄の不及では、気機が鬱結して、生理物質の流動性が阻害され、↓下記のような病理変化が発生します。
・ 情志の面では、抑鬱感や気分の落ち込みが生じることは前述の通り。
・ 気が滞る → 気滞 : 脹痛、胸悶、胸脇苦満、腹部膨満感など。
・ 血が滞る → 血瘀(けつお) : 固定性の刺痛、夜間痛、紫舌、生理不順、月経痛など。
・ 津液が滞る → 痰湿 : 身体や四肢の重だるさ、浮腫など。
(c) 脾胃の補助
脾胃の働きについては後日お届けしますが、ここでは、脾胃の運化(水穀の消化・吸収と生理物質への化生)において、脾の昇清と胃の降濁が昇降バランスを取っていることだけ、頭に入れておいてくださいね。 で、肝の疏泄は、その脾胃の昇降バランスがうまく取れるように補助しています。
疏泄の失調が脾に影響すると、昇清に狂いが生じるので、昇るべきものが昇りきらなくなり、眩暈が生じたり、大便溏薄(軟便)になったりします。 この病態を肝気犯脾証と言います。
疏泄の失調が胃に影響した場合は、降濁が狂うので、降りるべきものが降りないため、嘔吐や噯気(あいき)などの胃気上逆症状や、上腹部痛、便秘などが生じます。 この病態を肝気犯胃証と言います。
肝気犯脾証と肝気犯胃証のどちらも木乗土の状態。 肝は木、脾胃は土で、相克関係にありますからね。 そうそう、肝気犯脾証を肝脾不調証とか肝鬱脾虚証、肝気犯胃証を肝胃不和証とか肝胃気滞証ということもあります。
さらに、肝の疏泄は表裏関係にある胆からの胆汁分泌にも関係しています。 胆汁は、肝気の余った気の集まりとされていて、肝の疏泄が正常に機能していれば、胆汁の分泌も正常に行なわれて、脾胃の運化を助けます。
ところが、疏泄が失調して、肝気が鬱結すると、胆汁の分泌も滞ってしまうため、脾胃の運化にも影響しますが、胆の症状として、胸脇苦満、口苦などが生じ、ひどければ黄疸となります。
(d) 女性の月経・排卵と男性の射精
女性の場合、疏泄は、衝脈(しょうみゃく)や任脈(にんみゃく)にある血を女子胞(胞宮)に送る作用に関わっています。 女子胞は奇恒の腑のひとつ、衝脈と任脈は女子胞から起こる脈で、いずれも女性の生殖機能、月経や妊娠・出産に関与しているんですが、後日あらためて説明しますね。
で、疏泄が失調すれば、排卵や月経に影響が及ぶので、月経不順や月経痛などが起こります。 月経異常は、血の不足や気の推動低下などでも起こりますが、疏泄失調による場合は、気滞や血瘀(けつお)が絡むので、症状や痛みは強めの実証となることが多いです。
男性の場合は、精液の貯蔵は腎が担いますが、射精には肝の疏泄が関係します。 疏泄が失調して、精液が滞れば、うまく射精できない状態となります。 肝気鬱結は、EDの原因ともなりうるってことです。
(2) 蔵血(ぞうけつ)
蔵血とは、血を貯蔵して、血流量を調節する機能。 血の生理にも書きましたが、蔵血は肝気の固摂作用によるものです。 疏泄による推動促進と協調することで、日中と夜間の血流量を調節しています。
日中、目覚めている間は、身体の活動量も多いので、血の滋養に対する需要も高いため、血流量は多くなります。 つまり、疏泄優先ね。 夜間、寝ている間は、明日に備えて身体を休息させ、血を臓腑の滋養に回すようになっていて、蔵血優先となります。
また、血は陰液のひとつであり、肝に貯蔵される血(肝血)は、肝陰の主力。 肝陰は、滋潤・滋養と寧静(安寧+鎮静)に働き、亢進しやすい肝陽を抑制します。 疏泄は、肝気=肝の陽気=肝陽の働きですから、蔵血と疏泄は、血流量の調節だけでなく、陰陽の平衡維持にも働いていると言えます。
蔵血が失調して、肝血が不足すると、↓以下のような症状が起こります。
・ 目が滋養されない → 視力低下、目のかすみ、目の乾き、夜盲症など。
・ 筋が滋養されない → 転筋(筋の痙攣や拘縮)、肢体のしびれ、屈伸不利(屈伸できない)など。
・ 月経血が不足する → 月経過少、閉経など。
・ 疏泄が亢進する → 吐血、喀血、衄血(鼻血)、崩漏(不正性器出血)など。
・ 魂のやどる場所がない → イライラする、クヨクヨする、オドオドする、ビクビクするなど。
肝の関連領域
(1) 目と涙
人体の五行にあった通り、目は肝の官(肝が主る感覚器)であり、涙は肝の液です。
肝の機能の状態が反映されるので、疏泄や蔵血が失調すれば、涙の分泌も悪化して、↓下記のような目の症状が出ます。
・ 肝火が上昇する → 目赤(もくせき)となる。 目赤は、目の充血のこと。
・ 血の滋養が不足する → 視力低下、目のかすみ、目の乾き、夜盲症など。
(2) 筋と爪
筋は肝の体(肝が主る身体組織)であり、爪は肝の華(肝の栄養状態が現れる部位)です。 爪は筋余(きんよ)とも呼ばれ、筋と関連する組織でもあります。
肝血による滋養が不足すると、↓下記のような筋や爪の症状が出ます。
・ 筋が滋養されない → 転筋(筋の痙攣や拘縮)、肢体のしびれ、屈伸不利(屈伸できない)など。
・ 爪が滋養されない → 爪の変形、爪の色が淡白になる、爪半月が少ない、爪が薄いなど。
(3) 魂
神の生理と病理にも書きましたが、『黄帝内経』の『霊枢 本神篇』に、「肝は血をおさめ、魂をやどす」とあります。 原文では「肝蔵血 血舎魂」で、「おさめ」は「蔵め」、「やどす」は「舎す」ですね。
つまり、肝には蔵血があるから魂が宿るということであり、蔵血がきちんとなされていれば、魂も正常に機能するということになります。
魂は、思索・評価・判断などの精神活動。 人が人らしく、感情豊かでありながら、知的で理性的な行動を取れるのは魂のおかげ。 したがって、肝血が不足して、魂の拠り所がなくなると、イライラする、クヨクヨする、オドオドする、ビクビクするなど、情志の異常が生じます。
(4) 怒
五志のうち、肝に配当されるのは怒。 ↑上のほうにも書きましたけど、疏泄の太過で、肝の陽気がどっと上昇すると、肝の昇発が激しくなって、急躁や易怒となります。
人が激しく怒っているとき、顔は真っ赤、目は血走って、頭から湯気が出そうでしょ? いかにも、陽気が火熱となって上昇したって感じですよね。
一気に怒りを爆発させたり、怒りを長いこと抱え込んでいると、疏泄が太過となって、蔵血にも影響します。 反対に、蔵血が機能低下すると、肝陰が弱るので、些細なことで疏泄が太過となりやすく、その結果として怒りっぽくなります。
(5) 酸味
『黄帝内経』の『素問 陰陽応象大論篇』に、「東方は風を生ず。 風は木を生じ、木は酸を生じ、酸は肝を生じ、肝は筋を生じ…」とあり、酸味が五行の木で、肝も同じく木とされました。
『黄帝内経』には、こういう記述があちこちにあって、それをまとめたのが五行の色体表です。 五味に関わる記述は、それこそた~くさんあるので、今のところ確認しきれてません。 いずれまとめてみたいなぁ~とは思っていますが…。
酸味には、収斂(おさめる)・固渋(固める)という働きがあるとされています。 酸味は肝に入りやすいので、適量を摂取すれば、肝の栄養となりますが、過剰摂取は筋を損ない、肢体の動きを固くしますよ。
ここまでまとめてきて、ふと気づいたんですが、項目別に説明しているんだけど、別項目でも同じことを繰り返してますね。 ものによっては、2回も3回も、しつこいくらいです(笑)。 でも、それが東洋医学でもあるんだなぁ~。 何てたって、東洋医学の人体は、有機的な統一体ですから。
次回は、ここにあることを踏まえて、肝の病証をお届けします。
一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。
東洋医学講座の目次→
ツボの目次→
リフレクソロジーの目次→
妊娠・産後・授乳・子どものケアの目次→
アロマセラピーの目次→
体操とストレッチの目次→
からだのしくみ・食・栄養の目次→
からだの不調と対処法の目次→
養生法・漢方薬・薬草・ハーブの目次→
ブログの目的・利用法・楽しみ方の目次→
東日本大震災 関連記事の目次→