一から学ぶ東洋医学 No.35 蔵象(3)心 心の病証(2) | 春月の『ちょこっと健康術』

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こんにちは ニコニコ

 

前回、「続きは、また明日~」なんて、嘘ついちゃいました。 遅れて、ごめんなさい。 あらためて考えたり、調べなおしたりすることがあって、ちょっと時間がかかってました~。

 

心の病証(1)に挙げた心陽暴脱証は、胸痛、タラタラ冷や汗、顔面蒼白、弱い呼吸…これって、西洋医学的に見ると、心筋梗塞ですよね。 一昨年の春先に、義兄が心筋梗塞を起こしていますが、発作前に心陽虚証の症状があったのかどうか…。 今度確かめてみよう。

 

今回は、心の病証の残りを一気にいきます。 その前に、ちょっと確認。

 

気虚は、気の機能減退で、主として推動作用が低下します。 陽虚は、温煦作用も低下するので、気虚よりも機能減退の程度が強くなります。 気=陽気ですから、温かめがベストなの。 陽虚だと、虚寒が生じて冷えるので、同じ症状が出ていても、気虚の場合より、程度が重くなる傾向にあります。

 

血虚は、血の不足で、主として滋養作用の低下による症状が出ます。 陰虚は、陰液(血・津液・精)の不足ですから、血虚と同様の症状も出ますが、必ず虚熱症状を伴って、潮熱、盗汗、舌苔少、脈細数に、手足心熱か五心煩熱がみられます。

 

そして、これは心の特徴的なところですが、心気の作用が主血なので、心気と心血の関係がとても密接で、互いへの影響がとても大きい。 結果、気血両虚や気陰両虚、場合によっては陰陽両虚なんてのも起こることがあるんです。

 

3 心陰・心血の失調による病証

 

(1) 心血虚証 虚

 

(a) 病態

心血が不足して、心が十分に滋養されず、心の機能が低下して、主血、主神志がともに失調する状態。 全身性の血虚であり、他臓腑の機能減退・機能失調を引き起こすこともある。

 

肝血虚の場合は、貯蔵血の不足ですから、血虚証としてもまだ余裕があって、影響が及ぶのは肝の関連領域に限定されることがほとんど。 ところが、心血虚となると、循環血の不足になりますから、その影響力は全身に及ぶのです。

 

(b) 原因

・ 水穀の摂取不足や脾胃虚弱などによる血の化生不足

・ 大病や久病(長患い)、過労、外傷、手術、出産などによる血の消耗

・ 過度の心労や熱邪による心血の損傷

・ 心気虚の波及

 

心気虚証の原因に書いたように、心気虚では、血の推動が低下して、結果的に血虚を起こすことになります。 で、心血虚も、滋養不足から結果的に気虚を起こす。 だったら、心気虚証も心血虚証も、最初から心気心血両虚証でいいじゃん…と思ったりしませんか? 

 

いや~。 くどいようですが、「証」は「ある段階での病態の特徴」ですからね。 気虚症状が目立っていれば心気虚証、血虚症状が目立っていれば心血虚証、どちらも同じくらいだったら心気心血両虚証となるんです。 証を立てる段階では、「今、どうなのか?」が優先で、それから「なぜ、そうなったのか?」を追求するんです。

 

(c) 症状

 

① 主血・主神志の失調症状

・ 心悸、重症ならば怔忡(せいちゅう)、胸悶

・ 不眠、多夢

 

② 血虚症状

・ 眩暈、健忘

・ 顔色淡白不華(血色がなく、ツヤがない)または萎黄(黄色くくすんでツヤがない)

・ 唇の色が淡白

 

顔色淡白不華の淡白は文字通りで、血色が薄い。 不華(ふか)は、華やかさがない、肌の色艶が悪い状態。 萎黄(いおう)は、萎えた黄色で、やっぱり血色が抜けて色艶がない状態ですが、この表現はおそらく黄色人種に限られますね。 いずれにせよ、血が十分届いていないために、生じる顔色です。

 

③ 舌脈所見: 舌質淡、脈細または細弱

 

(d) 進行と波及

・ 心気に影響すると、心気心血両虚証となる。

・ 肝血にも影響すると、心肝血虚証となる。

・ 脾に波及すると、心脾両虚証(心血虚証+脾気虚証)となる。

・ 主神志の失調が悪化して、神志が錯乱すると、癲癇(てんかん)証となる。

 

癲癇証は、癲狂証ともいい、癲証と癇証(狂証)に分類されます。 癲証は、抑鬱、言語錯乱、反応が鈍いなど、比較的静かな陰性の病態。 癇証は、狂騒、奇声をあげる、怒り狂う、物を壊すなど、騒がしい陽性の病態です。

 

(2) 心陰虚証 虚きょねつ

 

(a) 病態

心陰が不足して、心が十分に滋養されず、心の機能が低下して、主血、主神志がともに失調する状態。 血虚を伴うことも多い。 虚熱を生じる。

 

心血虚との違いは、虚熱症状があるかどうかがポイント。 あれば心陰虚、なければ心血虚です。

 

(b) 原因

・ 心火による心陰の損傷

・ 過度の心労や熱邪による心陰の損傷

 

心の病証(1)の心火亢盛証のところにも書きましたが、心火があると、陰液が損傷されて、心陰虚が生じ、そのまた逆に、心陰虚が持続すると、虚火を生じて、心火亢盛を引き起こします。 このふたつ、どこで線引きするか? 出ている熱症状の強さがポイントです。 火のように強ければ心火亢盛で、そうでなければ心陰虚ですね。

 

(c) 症状

 

① 主血・主神志の失調症状

・ 心悸、重症ならば怔忡(せいちゅう)、胸悶

・ 不眠、多夢

 

② 陰虚症状

・ ほてり、のぼせ、手足心熱(しゅそくしんねつ)または五心煩熱(ごしんはんねつ)、頬部紅潮

・ 夜間潮熱

・ 盗汗(寝汗)

 

③ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔少、脈細数

 

(d) 進行と波及

・ 心気に影響すると、心気心陰両虚証となる。

・ 進行すると、全身性あるいは他臓腑の陰液虚損を引き起こす。

・ 心陽の亢進から心火が生じると、心火亢盛証となる。

・ 虚熱によって痰湿が生じ、それが痰火になると、痰火擾心証を引き起こす。

・ 陰損及陽になる(陰液の損傷が、陽気に波及する)と、心陰心陽両虚証となる。

 

(3) 心血瘀阻(おそ)証 実虚

 

(a) 病態

陽気不足や痰湿などによって、心血の流れが悪くなり、瘀血(おけつ)を生じて、心脈が滞る状態。

 

瘀血(おけつ)は、血流が緩慢になったり、何かで阻害されたりすると、脈中にできる病理産物、つまり血の塊。 血の生理と病理にありますが、瘀血(おけつ)による病証を血瘀(けつお)証と言います。 なので、心血瘀阻(おそ)証は、血瘀(けつお)証の一種と言えますね。

 

血瘀(けつお)証は、実証に分類されるので、実としましたが、虚証が原因になって、虚証症状を伴うこともあるので、虚もつけておきました。

 

(b) 原因

・ 心陽虚で内生した寒邪により、心脈が凝滞して、瘀血(おけつ)が生じる。

・ 心気虚で血流が弱ったり、心血虚で血流量が減少したりして、瘀血(おけつ)が生じる。

・ 痰湿によって血流が阻害され、瘀血(おけつ)が生じる。

・ 肝気鬱結で生じた瘀血(おけつ)が心脈に入る。

 

陽虚による虚寒が長く続けば、寒邪が内生します。 内生した寒邪を陰寒と呼ぶこともありますが、寒邪には収引性と凝滞性があるので、血脈を収縮させて、血流を悪化させるのです。

 

血瘀(けつお)証の原因には、熱邪や外傷・手術もありましたよね。 ↑上には入れてませんが、これらによって生じた瘀血(おけつ)が、心脈に入って滞れば、同じように心血瘀阻(おそ)となる可能性はあります。 ただ、熱邪が心に影響する場合は、心火亢盛証に向かうほうが多いかも。

 

(c) 症状

・ 心悸、怔忡(せいちゅう)

・ 胸の息苦しさ、発作性の胸部の刺痛、肩背部への放散痛

・ 舌脈所見: 舌質紫暗、瘀斑(おはん)・瘀点(おてん)、脈細濇(しょく)または結代(けったい)

 

瘀血(おけつ)を生じた原因によって、陽虚症状、気虚症状、痰湿症状、気滞症状などをそれぞれ随伴することがありますし、痛み発作の程度や舌脈所見も変わることもあります。 たとえば、↓こんな風に。

・ 陽虚 → 激しい胸痛、畏寒、四肢の冷え、温めると楽になる、舌質淡、舌苔白、脈沈遅または沈緊。

・ 気虚 → 胸痛、息切れ、疲労倦怠感、無力感、舌質淡暗、脈遅細。

・ 痰湿 → 胸痛、胸悶、身体が重だるい、舌苔白膩、脈弦滑。

・ 気滞 → 胸部の脹痛、ストレスで痛み発作が起こる、脈弦緊または遅濇(しょく)。

 

胸が塞がったように苦しくて、痺れるような感覚が出ることから、痹(ひ)証に分類され、心脈痹阻(ひそ)証と呼ばれることもあります。 痹(ひ)が■と表示されている方のために、痹(ひ)は痹と書きます。 やまいだれの中も畀(ひ)で、環境依存文字なの。 痺と同じ意味なので、今後は痺証、心脈痺阻証としますね。

 

脈の濇(しょく)が■と表示されている方のために、濇(しょく)は、さんずいに嗇と書きます。 渋滞したような、流れが悪くて、ざらついた感じの脈なので、渋(じゅう)と表現することもあります。

 

(d) 進行と波及

・ 重篤さが増して、発作を繰り返すと、心陽暴脱証を引き起こすことがある。

・ 治療すると、心陽虚証、心気虚証、心血虚証、気滞血瘀(けつお)証、痰湿証が現れることがある。

 

症状からみると、西洋医学的には狭心症ですかね。 心筋梗塞と併せて、いずれ考察してみたいと思います。

 

4 痰湿による病証

 

(1) 痰迷心竅証 実

 

(a) 病態

痰湿が心竅を塞ぎ、心の主神志が著しく失調した状態。

 

心竅は、心の竅(あな)だから、心血の出入り口かと思ったんだけど、そうじゃなくて、五官の竅を指すようです。 心は、目に開竅するので、神志の状態は目に一番現れやすいと言われていますが、心は神志を主るため、すべての五官に通じています。

 

目に限らず、五官の状態が良ければ、神志はちゃんと機能していて、五官に通じているという証拠。 五官が塞がれているような事態では、主神志の作用は失調しているということになりますね。

 

(b) 原因

・ 心気虚や心陽虚などによって生じた痰湿が心竅を塞ぐ。

・ 肝気鬱結で生じた痰湿が気と結合して凝集(痰気鬱結)、それが上昇して心竅を塞ぐ。

 

肝気鬱結から、凝集した痰と気が互いに結びついて痰気鬱結となり、のどに詰まれば梅核気(ばいかくき)ですが、それが五官に昇って心竅を塞げば、痰迷心竅となります。

 

(c) 症状

・ 精神抑鬱、意識がぼんやりして無表情、ブツブツと独り言をいう。

・ 意識混濁、ひどければ意識不明。 あるいは、急に昏倒して人事不省となり、口から泡を吹く。

・ のどが痰鳴する(ゴロゴロ鳴る)。

・ 眩暈、のぼせ、頭が脹った感じ。

・ 舌脈所見: 舌苔白膩または白滑、脈滑または弦緩。

 

痰鳴があって、口から泡を吹いて昏倒する。 いわゆるてんかん発作ですね。 ↑上の心血虚証のところに出てきた癲証の一証候となります。

 

(d) 進行と波及

・ 痰気鬱結が化火すると、痰火擾心証となる。

・ 重症ならば、昏倒発作を繰り返す。

 

(2) 痰火擾心証 実ねつ

 

(a) 病態

痰と火が結びついて、神志を攪乱し、心の主神志が著しく失調した状態。

 

(b) 原因

・ 痰迷心竅証から、痰気鬱結が化火した。

・ 湿熱の邪によって痰が形成され、それが蓄積して化火した。

・ 普段から痰のある人が、火熱の邪に侵され、痰火が生じた。

 

(c) 症状

・ 狂騒、妄動、奇声をあげる、物を壊す、人を殴ったり罵ったりする。

・ 眩暈、心煩、胸悶、口渇、心悸、不眠。

・ 顔面紅潮、目赤、のどの痰鳴。

・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔黄膩、脈滑数または弦数。

 

痰迷心竅証が癲証に入るのに対し、痰火擾心証は癇証の一証候となります。

 

(d) 進行と波及

・ 火熱が治まれば、痰迷心竅証となる。

・ 鎮静化できれば、心火亢盛証や心陰虚証になることがある。

 

 残念ながら『中医弁証学』(東洋学術出版社)には 心の病証の相関図はなかったので、あれこれ悩みながら、つくってみました。 これまで書いてきたことを全部網羅したワケじゃありませんけど、ポイントは押さえてあるので、ご参考まで。

 

 

一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。

 

 

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