一から学ぶ東洋医学 No.20 生理物質と神(1) 精の生理と病理 | 春月の『ちょこっと健康術』

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こんにちは ニコニコ

 

前の東洋医学講座シリーズでは、五臓よりも後に登場していた気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)・精(せい)・神(しん)。 『新版東洋医学概論』にならって、先に解説することにしました。 タイトルにある「生理物質」とは、文字通り、人体の生理活動に関わる物質で、津液を指します。

 

以前のシリーズを読まれた方には、あれ?と思われますよね。 生理物質だなんて、そんなくくりはなかったじゃない。 そうなんです。 実は、鍼灸学校の教科書が『新版』になって、ずずっと中医学寄りになったので、そういうことになったのではないかと思います。 生理物質であることに違いないし、いちいち気血津液とか書かなくていいので便利です。

 

じゃ、は生理物質じゃないの? 人体の五行の(6)五神に、「神気」って書いてたじゃん。 そうですよね、「神気」が「気」の仲間なら、同じように生理物質と考えたほうがいいような…? でも、神は「生命活動の総称」であり、「精神活動の根本」ですから、やっぱり「物質」とは違います。 なので、「生理物質と神」です。

 

では、あらためて定義しておきましょう。 「生理物質とは、人体の生理活動に関わる基礎的な物質で、精・気・血・津液のことである。 臓腑や経絡などの働きと密接に関係する。」

 

まずは、生理物質の相互関係を図にしてみました。 『新版東洋医学概論』にある図に手を加えてあります。 

 

生理物質のおおもとは、両親から受け継いだ先天の精+水穀の精微から得る後天の精。

先天の精から原気が、後天の精から営気(えいき)、衛気(えき)、津液がつくられる。

天の清気と後天の精から宗気(そうき)がつくられる。

津液と営気から血がつくられる。

 

 

ここで、え?と思った方のために、一度確認しておきましょう。 気の思想と陰陽では、「すべてのものは気でできている」とありました。 そう、「気の思想」へ立ち返れば、精も気でできているはず。 なのに、生理物質のおおもとは精なの? ですよねぇ…。 このあたり、東洋医学用語の使い分けのややこしさというか…。 

 

中国の中医薬大学全国共通教材を翻訳した『全訳中医基礎理論』(たにぐち書店)には、「人体を構成する基本的物質として精がある。 精は狭義の精と広義の精に分けられる。 狭義の精とは生殖の精である。 広義には気、血、津液や飲食物から摂取した栄養物質を含む精微な物質すべてを指し、それを精気と呼んでいる。」とあります。

 

一から学ぶ東洋医学シリーズ、ここから先は人体についてのお話。 話を進める上の決まり事として、人体では、生理物質のおおもとは精である、精=先天の精+後天の精、精から気・血・津液ができるとします。 つまり、『中医薬基礎理論』にある精気を精と表記します。 また、水穀の精微は、体内に吸収されると、後天の精になるという認識です。

 

生理物質にはいろんな分類のしかたがあって、ややこしくなったりしますが、なるべくごっちゃにならないように整理していきますので、とりあえず↑この図にあるものを押さえておいてください。 これをふまえて、生理物質と神について、ひとつずつ見ていくことにいたしましょう。 最初は、です。

 

1 精とは?

 

(a) 人体の構成や生命活動を維持する基本物質であり、先天の精と後天の精とがある。

 

(b) 先天の精は、父母の精を受け継いだもので、人体を形成する基本物質であり、成長・発育・生殖に関わり、腎に貯蔵される。

 

(c) 後天の精は、水穀の精微から化生された栄養物質であり、臓腑や組織・器官を滋養し、生命活動を維持する。

 

(d) 後天の精の一部は、腎に収蔵され、先天の精を補充する。

 

(e) 腎に貯蔵される精を腎精と呼ぶ。 腎精は成長とともに充実し、その後加齢とともに減少する。 腎精は髄海(脳)の滋養に深くかかわる。

 

腎精の充実と減少については、「女性は7年、男性は8年で節目が来る?」に書かれています。 この中で、「腎気」とされているのは、『黄帝内経 素問 上古天真論篇』に「腎気」と書かれてたのをそのまま載せましたが、腎精に違いありません。 このあたり、用語表現の違いであって、生理物質としての働きは同じものを指していますからね。 

 

2 精の働き(精の生理作用)

 

(a) 生殖の精として、新たな生命を誕生させる

 

これは、細かいこというと、先天の精の働きですね。 ここまで分ける必要なんてないんだけど、国家試験対策にはこの手の情報が必要なので、一応書いておきます。

 

人が成長して思春期になると、腎の生理機能が盛んになり、生殖腺が発育し、天癸(てんき)という物質がつくられるようになります。 以前の東洋医学講座シリーズでは、天癸は卵子と精子としておりましたが、『中医基礎理論』には性ホルモンとあります。

 

まぁ、卵子と精子でも、あながち間違いとはいえないんだけど、「天癸によって、生殖能力が備わると、腎精の一部が生殖の精となり、卵子と精子がつくられる。」なんていうふうに、天癸を性ホルモンとしたほうが、スッキリ説明がつきますね。

 

(b) 臓腑、組織や器官を滋養する

 

これは、どっちかっていうと後天の精の働きなんだけど、生殖の精の場合に比べると、かなりあいまいになります。 なぜなら、陰液として、血の一成分として、滋養作用を持つ精には、腎精も混じるから。 

 

あら? 「人体の生理物質の関係」の図によると、血は後天の精からつくられるんじゃなかった? しかも、さっき、後天の精の一部が腎精になるって書いてたから、それじゃ順番が違うんじゃない? いやいや、腎精って貯蔵されていて、大事に小出しに使われていくんだけど、必要なときは、いろんなものに変化するんです。 

 

生理物質は、One for all, all for one で、互いにバックアップしあっている。 つまり、変化は一方向に限らず、双方向に可能。 しかも、生理的にも、病理的にも、双方向に動く。 これが、東洋医学の優れた点で、都合のいい考え方でもあり、説明する上でめんどくさい点でもあるんですけどね。

 

(c) 気・血・津液を化生する

 

先天の精は先天の気(原気)に、後天の精は後天の気(営気、衛気、宗気)と津液になります。 腎精の一部は、営気と津液とともに血に変化します。 精と血の間のバックアップ度は、「精血同源」という言葉が示す通り、他よりもちょっとだけ高く、病気になったときに、互いに変化しやすい関係です。

 

(d) 神を維持する

 

神の維持は、何も精だけの作用ではなくて、気も血も関係しています。 っていうか、神は生命活動全体を指すものですから、人体すべて、人体を構成し維持する生理物質すべてが関わるのは当然ですね。

 

3 精の化生

 

両親から受け継いだ先天の精と、飲食物から得られる水穀の精微である後天の精が合わさってできる。

 

4 精の分類

 

(a) 由来による分類

 

① 先天の精

父母から受け継ぎ、腎に貯蔵される。 

成長と発育、生殖の源となる。

原気を化生する。

 

② 後天の精

飲食物から得る水穀の精微からなる。 

気・血・津液に化生される。

臓腑に配分され、臓腑を滋養する。

残りは腎に収蔵され、先天の精を補充する。 

 

(b) 機能による分類

 

① 臓腑の精

臓腑に配分された精で、臓腑を滋養する。 

臓腑の気を化生して、その生理機能を維持する。

 

② 生殖の精

腎精が充実し、天癸がつくられるようになると、生殖能力が備わる。

男女の生殖の精が結合して、新たな生命が誕生する。

 

5 精の病理

 

先天の精は、両親から受け継いだものであり、その量には限度があります。 後天の精によって補充されますが、後天の精を体内に取り入れる量にも限度があります。 大量に飲食物を摂取したからといって、後天の精を無制限に増やすことはできない。 むしろ食べ過ぎ・飲み過ぎは、それ自体が病を招き、かえって後天の精の不足につながります。 なので、精の過剰は考えられず、精の病証は精の不足によるものとなります。 

 

「病証」は、『中医基本用語辞典』(東洋学術出版社)によれば、「病とは疾病の過程を指す。証とは証候を指し、疾病の過程におけるある種の類型、あるいはある段階での病態の特徴のこと。」です。 東洋医学独特のもので、詳しくはシリーズの後のほうで説明しますが、西洋医学の○○病や○○症候群と異なり、診察した時点での病態を表します。 なので、同じ疾病でも、どの段階にあるかによって、病証は変わることがあります。

 

精虚証(腎精不足証)

 

(a) 病態: 精の不足による種々の機能減退

 

(b) 原因

・先天の精が不足している(生まれつき精が少ない)。

・多産や堕胎、房事過多(性生活の乱れ)によって、精が消耗される。

・食生活が悪く、水穀の精微を十分に、バランスよく摂取できないために、後天の精が不足する。

・大病や久病(長患い)、過労によって気血を消耗し、後天の精をうまくつくれず、精が不足する。

・高熱、出血、嘔吐、下痢、大量発汗などで、陰液を消耗し、精が不足する。

 

(c) 症状

 

① 先天の精の不足による症状

先天の精は成長・発育に関わっていますから、生まれながらに不足していれば、成長不良発育不良が起こります。 先天の気(原気)も不足して、体力もなく、臓腑の働きも全体的に弱く、いわゆる虚弱体質に。 もちろん、症状の出方は、どの程度不足しているかによりますが。

 

② 生殖の失調

精の不足は、不妊症、無月経、陽萎(ED)、性欲減退などを起こします。

 

③ 滋養不足

精の滋養不足は、特に骨や髄海に影響が出ます。 腰膝酸軟(ようしつさんなん)といって、足腰が弱く、だるさを感じるようになります。 また、骨がもろくなり、早く老化します。 耳鳴り、難聴、眩暈、抜け毛、白髪、健忘などが起こります。

 

④ 気血の化生不足

精の不足は、そのまま気血の不足につながります。 気血の不足は、臓腑、組織、器官の機能に影響して、倦怠感、無力感などが生じます。

 

精の不足は生命力を低下させる、と言っても過言ではありません。 ↑上記の症状を見れば、一目瞭然。 おとなの精虚は、老化現象を早めるのです。

 

 

一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。

 

 

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