今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
ベルギーのブリュッセルで開催された、2021年エリザベート王妃国際音楽コンクールのピアノ部門(公式サイトはこちら)。
その受賞者コンサート第2弾(第1~3位受賞者)の演奏動画がアップされた。
ちなみに、2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門)についてのこれまでの記事はこちら。
(2020年エリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門) 出場者発表)
(2020年エリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門)が中止もしくは延期)
(2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール受賞者コンサート動画 その1 第4~6位)
動画はこちら(Closing concert piano 2021)
Queen Elisabeth Competition | Piano 2021, closing concert
2021.06.09
Centre for Fine Arts/Salle Henry Le Boeuf
CAMILLE SAINT-SAËNS: Concerto n. 5 in F major op. 103
00:43 Keigo MUKAWA, Japan, 3rd Prize
SERGEY PROKOFIEV: Concerto n. 2 in G minor op. 16
34:05 Sergei REDKIN, Russia, 2nd Prize
FRYDERYK CHOPIN: Concerto n. 2 in F minor op. 21
01:14:05 Jonathan FOURNEL, France, 1st Prize
Brussels Philharmonic, dir. Stéphane Denève
サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番で私の好きな録音は
●ハフ(Pf) オラモ指揮 バーミンガム市響 2000年1月22-24日、9月6-8日セッション盤(CD)
●亀井聖矢(Pf) 渡邊一正指揮 東京シティフィル 2019年8月22日ピティナ特級ライヴ(動画)
●務川慧悟(Pf) J.Sirvend指揮 フランス国立管 2019年11月15日ロンティボーコンクールライヴ(動画)
あたりである。
今回の務川慧悟は相変わらず美しく、これらの名演に並ぶ。
この曲はハフや亀井聖矢のように華麗なヴィルトゥオーゾ・ピースとして扱うことが多いように思うが、務川慧悟はより抒情的。
柔らかに差す陽光、美しくさざ波立つ湖面が思い浮かぶ、まるで印象派の絵画のような趣の演奏である。
終楽章終盤のオクターヴ左右交互トレモロなどあまり盛り上げずおとなしいけれど、華麗にしすぎないのが彼らしい。
プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番で私の好きな録音は
●ヴィニツカヤ(Pf) G.ヴァルガ指揮 ベルリン・ドイツ響 2010年4月セッション盤(NML/Apple Music/CD)
●A.カントロフ(Pf) ラザレフ指揮 ロシア国立青年響 2021年3月15日モスクワライヴ(動画)
●務川慧悟(Pf) H.ウルフ指揮 ベルギー国立管 2021年5月26日エリザベートコンクールライヴ(動画)
あたりである。
ロシア風の分厚く情熱的なヴィニツカヤ、ロシア風とは異なるがとにかく熱いカントロフ、線の細い詩的な務川慧悟。
今回のSergei REDKINは、ロシア風はロシア風でもより近代的な、パワフルでありながらも冷静さを備えた演奏で、こういうのも面白い(個人的には上の3つのようなロマン的な解釈が好きだが)。
第2楽章はペダルが厚すぎて音の明瞭度がやや低いのと、彼ほどのテクニシャンにしてはタッチムラがあるけれど、終楽章は(やはりペダルは厚めだが)キレのあるテンポで弾き切っている。
ショパンのピアノ協奏曲第2番で私の好きな録音は
●ポリーニ(Pf) 井上道義指揮 シュトゥットガルト放送響 1973年頃ライヴ盤(CD)
●小林愛実(Pf) プリマ・ヴィスタ弦楽四重奏団 2011年1月13日ショパンコンクール in Asiaライヴ盤(CD) ※弦楽四重奏伴奏版
あたりである。
また、実演で聴いた山本貴志も最高の名演で(その記事はこちら)、私にとってはこれら3つがこの曲の演奏の原点となっている。
今回のJonathan FOURNELも大変に美しく、上の名盤と同じくらい好きとは言わないまでも、次点で好きな内匠慧、牛田智大、チョ・ソンジン、三浦謙司あたり(その記事はこちら)には並ぶと言っていい。
1次予選でのスケルツォ第3番同様の天国的な美しさであり(その記事はこちら)、私の好きなショパン弾きたちのような“悲しみからの憧憬”とは違って明るいのだけれど、こういうショパンも大変良い(西欧のショパンといったところか)。
技巧面では不安定さもあるし、またところどころ素っ気ないのだけれど(終楽章終盤のアルペッジョ付き和音などぶっきらぼう)、それでも終楽章の経過句やコーダの右手の急速な三連符がきわめて繊細だったり、それを支える左手も歌えていたりと、かなりよく弾けている箇所も多く、そのギャップにやられてしまう。
彼はショパンコンクールにもエントリーしているのだが(その記事はこちら)、まぁまず棄権するだろうけれど、もしも出場してファイナルでこの曲を弾いたなら、まさかのショパン/エリザベートの二冠の偉業を達成してしまうかもしれない。
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