ベルギーのブリュッセルで開催された、2021年エリザベート王妃国際音楽コンクールのピアノ部門が終わった(公式サイトはこちら)。
これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)、感想を書いてきた。
とりわけ印象深かったピアニストについて、改めて備忘録的に記載しておきたい。
ちなみに、2021年エリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門)についてのこれまでの記事はこちら。
(2020年エリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門) 出場者発表)
(2020年エリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門)が中止もしくは延期)
30. Daumants LIEPINS (Latvia, 1994-)
明るくもスラヴ風の憂いを含んだ美しい音を持つ。
ハイドンのソナタ第52番第1楽章、ラヴェルのソナチネ、ラフマニノフの「音の絵」op.39-6、グラナドスのゴイェスカス抜粋、ラフマニノフのソナタ第2番あたりが印象的。
49. Vitaly STARIKOV (Russian Federation, 1995-)
(1次予選)(セミファイナル1/2/3/4)(ファイナル1/2)
今大会の第5位。
ロシアらしい力強く肉厚な音を持つが、たっぷり響かせるよりは比較的明快な音づくりであり、バッハやブラームスにも合うのが特徴。
ショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」変ニ長調、リストの「荒々しき狩」、バッハの「幻想曲とフーガ」BWV904、ブラームスのソナタ第2番あたりが印象的。
36. Kyle ORTH (United States of America, 1990-)
(1次予選)
柄が大きくダイナミックな音楽性を持つ。
ラウタヴァーラの練習曲op.42-1、ハイドンのソナタ第32番、リストの「マゼッパ」が印象的。
22. Su Yeon KIM (Korea, 1994-)
モントリオールコンクール(その記事はこちら)と同時並行での出場。
たおやかな抒情性を持つ。
リゲティの「魔法使いの弟子」、ショパンのバラード第4番、モーツァルトの協奏曲第23番、バッハ/ペトリの「羊は安らかに草を食み」、ベートーヴェンのソナタ第30番、ラヴェルのスカルボあたりが印象的。
55. Se-Hyeong YOO (Korea, 1990-)
(1次予選)
こだわり抜いたタッチコントロールによる、明るい歌心を持つ。
藤田真央ほどとは言わないが、共通点を感じる(従兄みたい?)。
モーツァルトのソナタ第10番第1楽章、スクリャービンのワルツop.38、ラフマニノフの「音の絵」op.39-5が印象的。
58. Xiaolu ZANG (China, 1999-)
洗練された技巧、自由で優美な音楽性を持つ。
スクリャービンのソナタ第4番、ショパンの練習曲op.10-10、モーツァルトの協奏曲第23番、ベートーヴェンのソナタ第28番、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」あたりが印象的。
40. Youngho PARK (Korea, 1993-)
(1次予選)
洗練された技巧、クールで研ぎ澄まされた音楽性を持つ。
オアナの解釈法練習曲第2番、ベートーヴェンのソナタ第9番第1楽章、スクリャービンのソナタ第9番、リストの「ラ・カンパネラ」が印象的。
45. Tomoki SAKATA (Japan, 1993-)
(1次予選)(セミファイナル1/2/3/4)(ファイナル1/2)
今大会の第4位。
ペダルに頼りすぎないくっきりと明瞭な音づくりで、(ペダルに頼らないのに)各音は滑らかに美しくつなげられる。
その音色は、派手さはないが強靭で輝かしく、それでいてきつくならず温かみがある。
洗練された技巧を持つが、安易に名人芸に走ることなく、音楽の本質を見据えてじっくりとスケールの大きな演奏を行う。
彼の姿に円熟期のリストを見るのは、私の先入観だろうか。
今回彼のまとまった演奏を聴く機会を得たことで、すっかり好きなピアニストとなった。
ベートーヴェンのソナタ第15番第1楽章、ショパンの練習曲op.10-2、リストの「鬼火」と「リゴレット・パラフレーズ」、モーツァルトの協奏曲第17番、リストのソナタ、ブラームスの協奏曲第2番あたりが印象的。
34. Keigo MUKAWA (Japan, 1993-)
(1次予選)(セミファイナル1/2/3/4/5)(ファイナル1/2)
今大会の第3位。
また、私の中での個人的な今大会のMVP。
繊細な表現から「詩」を感じさせてくれるピアニスト。
(留学先である)フランスのエスプリの使い手であるとともに、フランスのピアニストたちにはない和の精神というか、華美を排した墨絵のような味わいをも併せ持つ。
選曲の渋さや多彩さも際立っており、安易にショパンを選ばない(浜コン、ロンティボー含め一度も選んでいない)。
エリザベートコンクールは、そんな彼が最後に挑戦するのに最もふさわしいコンクールだっただろう。
ハイドンのソナタ第49番第1楽章、リストの超絶技巧練習曲第10番、プロコフィエフの練習曲op.2-1、ドビュッシーの「花火」、モーツァルトの協奏曲第27番、ジョドロフスキのノクターン、ラモーの「ガヴォットと6つのドゥーブル」、ラフマニノフのコレッリ変奏曲、ショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」変ニ長調、マントヴァーニの「妖精の園より」、プロコフィエフの協奏曲第2番が印象的。
つまり、予選からファイナルまでの全ての演奏が印象に残った。
コンクールにおいて、彼ほどあらゆる曲を完全に自分のものにしている人を他に知らない(チョ・ソンジンや藤田真央でさえ当たり外れというか、上手なのだがその曲らしさとは違うと感じる場合もあった)。
弾く曲全てを自分のものにする能力を持つのか、それとも自身に合う曲が直感的に分かるのか、あるいは本番で弾く曲の何倍、何十倍もの曲を弾きこんで、その中から確信をもって弾くことのできた曲を厳選するという、血のにじむような努力の賜なのか。
いずれにしても、尊敬に値するものだと思う。
43. Sergei REDKIN (Russian Federation, 1991-)
(1次予選)(セミファイナル1/2/3/4/5)(ファイナル1/2)
今大会の第2位。
ロシアらしい華やかな輝かしい音で、響きをたっぷりと取るが曖昧模糊とはならない、はっきりした鋭い打鍵を持つ。
音楽性は、直情的というよりは客観的な、格調の高いもの。
細部まで整ったバランスの良い演奏で、技巧も洗練され、適度な情感も備えており、現代ロシアを代表する若手ピアニストといえそう。
ハイドンのソナタ第23番第1楽章、ショパンのバラード第4番、ラフマニノフの「音の絵」op.39-6、リゲティの「ワルシャワの秋」、モーツァルトの協奏曲第17番、シューベルトのさすらい人幻想曲、ドビュッシーの「喜びの島」、ラフマニノフの協奏曲第3番あたりが印象的。
28. Hyuk LEE (Korea, 2000-)
(1次予選)
ミスを気にしない情熱的な音楽、明快で素直なロマン性を持つ。
ハイドンのソナタ第34番第1楽章、ストラヴィンスキー/アゴスティの「火の鳥」、プロコフィエフの練習曲op.2-3、リストの超絶技巧練習曲第10番が印象的。
48. Dmitry SIN (Russian Federation, 1994-)
(1次予選)(セミファイナル1/2/3/4)(ファイナル1/2)
今大会の第6位。
ミスを気にしない情熱的な音楽、名人芸的で濃厚なロマン性を持つ。
スクリャービンの幻想曲、リャードフの前奏曲op.57-1、ラフマニノフの協奏曲第3番あたりが印象的。
06. Jonathan FOURNEL (France, 1993-)
(1次予選)(セミファイナル1/2/3/4)(ファイナル1/2)
今大会の優勝者。
フランス風の明るく柔らかな美しい音を持つ。
テンポ・ルバートがときにみられるなど、フランスのピアニストとしては自由でロマン的なスタイルだが、それでも東欧人や東洋人の活躍著しい昨今の若手ピアニストの間にあっては西欧らしい均整美が際立ち、モーツァルトやブラームスの典雅な演奏は余人の及ばぬところ。
モーツァルトのソナタ第14番、ショパンの練習曲op.10-5とスケルツォ第3番、モーツァルトの協奏曲第18番、ブラームスのヘンデル変奏曲と協奏曲第2番あたりが印象的。
17. Honggi KIM (Korea, 1991-)
(1次予選)
洗練された技巧、優美なロマン性と華やかな名人芸を持つ。
ハイドンのソナタ第52番第1楽章、ショパンの練習曲op.10-11、リゲティの「ワルシャワの秋」、リストのハンガリー狂詩曲第13番が印象的。
57. Yuki YOSHIMI (Japan, 2000-)
確かな技巧に基づいた、力強くまっすぐな音楽性を持つ。
ショパンの練習曲op.10-2、リストの「雪あらし」、プロコフィエフの「悪魔的暗示」とソナタ第7番あたりが印象的。
50. Marcel TADOKORO (France, 1993-)
モントリオールコンクール(その記事はこちら)と同時並行での出場。
フランスらしい優美で端正な音を持つ(同じフランスでも上のJonathan FOURNELの均整美に対しこちらは抒情美といったところか)。
ハイドンのソナタ第23番第1楽章、シマノフスキの変奏曲、リストの「鬼火」、モーツァルトの協奏曲第17番、クープランの「幻影」、ベートーヴェンの変奏曲op.34あたりが印象的。
以上のようなピアニストが、印象に残った。
これ以外にも良いピアニストはたくさんいたが、きりがないのでこれくらいにしておく。
全体の印象としては、地元枠がないためか(?)ハイレベルと感じた(上に飛びぬけた人はともかく、下に飛びぬけた人が少ない)。
また、チャイコフスキーコンクールと同様(その記事はこちらなど)、音の美しさが重視される傾向にあったように思う。
優勝者Jonathan FOURNELの音の美しさは特筆すべきものだし、また彼よりも優れた技巧を持つ猛者たちが次々と落とされていった(特に韓国勢)。
私としては技巧派ピアニストも好きなので(というより私は技巧や完成度重視に偏っているかも)、このような傾向に必ずしも全面的に賛成というわけではないが、技巧派ピアニストは東アジアを中心に近年あまりにも増え、ちょっとやそっとでは目立てないのもまた事実だろう。
そんな中で見事入賞した務川慧悟と阪田知樹は、優れた技巧と、それのみにとどまらない独自の音や個性の持ち主であるように思う。
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