静岡県の浜松市で開催されている、第10回浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)(公式サイトはこちら)。
11月23日は、本選の第1日。
ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。
ちなみに、第10回浜コンについてのこれまでの記事はこちら。
(ステファノ・アンドレアッタが第10回浜松国際ピアノコンクールへの出場を辞退)
なお、以下はいずれも高関健指揮、東京交響楽団との共演である。
1
50 務川 慧悟 MUKAWA Keigo (日本 1993年生まれ)
S. プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 Op.26
会心の演奏。
シャープかつ流麗で、躍動感にあふれる。
オーケストラと合わせようとして安全運転的になることがない。
そのぶんオーケストラとずれそうになることもあるが(第1楽章最後の加速など)、そのつど持ち直しており大事には至っていない(高関健の貢献のおかげもあるかも)。
終楽章も、ロシア系の爆演とは違う、洗練されたアプローチ。
ウクライナの片田舎から出てきた豪放な国民音楽作曲家プロコフィエフ、というよりも、西欧に渡って活躍する優雅な前衛音楽作曲家プロコフィエフ、といった感じか。
クライマックスでも、ガンガンまくしたてるというよりは落ち着いたテンポを維持し、そのぶん表現力を重視している。
終楽章最後の両手の連続和音がオーケストラに埋もれることなくキラキラと明瞭に聴こえるのは、ポリーニ盤を彷彿させる(マキシム・ショスタコーヴィチ指揮、N響1974年東京ライヴ盤)。
そして、ミスもほとんどなく、完成度が高い。
実際に会場で音がどのように響いたかは分からないが、そのあたりが問題なかったのであれば、強力な優勝候補ということになろう。
2
90 安並 貴史 YASUNAMI Takashi (日本 1992年生まれ)
J. ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 Op.83
コンチェルトにあまり慣れていないためか、やや手探りのような印象。
また、ミス(もしくは暗譜飛び)が少し多かった。
緊張したか、あるいはもしかしたら、本選に残るとは夢にも思わず、準備が満足にいかなかったのかもしれない。
そりゃ普通はそうだろうし、そうだったとしても無理ないことである。
音楽的には、曲をぐいと掴むようなブラームスらしい力強さというよりは、軽やかさのやや勝った演奏だった。
ドイツのブラームスというよりも、オーストリアのブラームスといった感じか。
その点で、重量級の冒頭楽章よりも、むしろ緩徐な第3楽章の中間部後半、ピアノと2つのクラリネットとの掛け合いの箇所がとりわけ美しく、曲調にも合っていた。
3
79 牛田 智大 USHIDA Tomoharu (日本 1999年生まれ)
S. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18
想像した以上に、なかなかの熱演だった。
リヒテルやルガンスキーのような深々とした分厚い音はないものの、この曲をヴィルトゥオーゾ・ピースにしてしまわない正攻法のアプローチは、彼らと共通していると言っていい。
聴かせどころのメロディはもちろんのこと、それほど目立たない箇所でもしっかりと情感が込められているし、盛り上げるべきところは真っ向から音楽を盛り上げる。
そして、どれだけ盛り上がっても、彼らしい品の良さは保たれている。
終楽章などもう少し名人芸的な華やかさや強靭なタッチがあればとは思うが、このあたりは好みの問題もあるかもしれない。
それに、全曲の頂点たる終楽章コーダでの高らかな歌い上げとテンポのタメ、そして最後のダメ押しの加速は、彼としてはなかなか激しいものであり、リヒテル盤を少し想起させる(ヴィスロツキ指揮、ワルシャワ・フィル1959年盤)。
オーケストラとの共演に慣れているということもあってか、オーケストラとの息の合い方も抜群。
もしかしたら、優勝もありうるかもしれない(私としては、特別なキレとセンスをみせる務川慧悟のほうを推したいけれど)。
そんなわけで、今回の3人の演奏を気に入った順に並べると
1. 50 務川 慧悟 MUKAWA Keigo (日本 1993年生まれ)
2. 79 牛田 智大 USHIDA Tomoharu (日本 1999年生まれ)
3. 90 安並 貴史 YASUNAMI Takashi (日本 1992年生まれ)
といったところか。
次回(11月24日)は、ついに本選の最終日。
優勝争いに食い込むのは、第1日の務川慧悟、牛田智大に加え、第2日のイ・ヒョクあたりになるか。
彼がラフマニノフのピアノ協奏曲第3番をどれだけ見事に弾くかにかかっていそうである。
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