今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。
2018年11月に行われる、第10回浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)。
その本選のチケットをついポチッと購入してしまったことは、先日の記事で書いた(そのときの記事はこちら)。
そのチケットが昨日届いたのだが、そこには同コンクールの課題曲が掲載されたパンフレットが同封されていた。
見てみると、2015年の前回大会から少し変更されているようである。
今回の課題曲の詳細は、以下の通りである(こちらの公式サイトでも見られる)。
第1次予選
練習曲1曲以上を含む自由な選択(出版されている作品に限る。)により演奏時間20分以内で演奏する。
第2次予選
下記①、②を演奏する。演奏時間は合計40分以内とし、演奏順は任意とする。
1. 下記の古典派、ロマン派、近・現代作品より、2つ以上の異なる時代区分から、2作品以上(出版されている作品に限る。)を選択し、演奏する。
ただし、第1次予選で演奏する曲は除外する。
- 古典派 :
- ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン
- ロマン派:
- シューベルト、メンデルスゾーン、ショパン、シューマン、リスト、フランク、ブラームス、サン=サーンス、チャイコフスキー、グリーグ
- 近・現代:
- フォーレ、ドビュッシー、スクリャービン、ラフマニノフ、シェーンベルク、ラヴェル、バルトーク、プーランク、メシアン、ヴェーベルン、ベルク、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、武満徹、三善晃、間宮芳生
2. 第10回浜松国際ピアノコンクールのために作曲された日本人作曲家(佐々木冬彦)による新作品(5~7分程度)。
新作品の楽譜はコンクールの3ヶ月前に予備審査を通過した者に送付する。なお、コンクール前にこの新作品を公開演奏することを禁じる。
第3次予選
①と②を演奏する。演奏時間は合計70分以内とし、①②の演奏順は任意とする。なお、第2次予選の結果発表後に、楽譜の提出を求めることがある。
1. 室内楽…下記のa.かb.のいずれか1曲を選択し、事務局が指定する弦楽器奏者と協演する。楽譜はベーレンライター版を使用し、繰り返しは省略する。
〈 モーツァルト 〉
- a.ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K.478
- b.ピアノ四重奏曲第2番 変ホ長調 K.493
〈 弦楽器奏者 〉
- ヴァイオリン: 漆原 啓子、川久保 陽紀
- ヴィオラ: 鈴木 康浩、松実 健太
- チェロ: 向山 佳絵子、長谷川 陽子
2. 自由な選択によるソロリサイタル ※ただし、第1次予選、第2次予選で演奏する曲は除外する。
本選
- オーケストラ:
- 東京交響楽団
- 指 揮:
- 高関 健
下記のピアノ協奏曲のうち1曲を選択し、東京交響楽団と協演する。
- ベートーヴェン
- ・ 協奏曲第1番 ハ長調 op.15
・ 協奏曲第2番 変ロ長調 op.19
・ 協奏曲第3番 ハ短調 op.37
・ 協奏曲第4番 ト長調 op.58
・ 協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝」op.73
- ショパン
- ・ 協奏曲第1番 ホ短調 op.11
・ 協奏曲第2番 へ短調 op.21
- シューマン
- ・ 協奏曲 イ短調 op.54
- リスト
- ・ 協奏曲第1番 変ホ長調 S.124
・ 協奏曲第2番 イ長調 S.125
- ブラームス
- ・ 協奏曲第1番 ニ短調 op.15
・ 協奏曲第2番 変ロ長調 op.83
- サン=サーンス
- ・ 協奏曲第2番 ト短調 op.22
・ 協奏曲第4番 ハ短調 op.44
・ 協奏曲第5番 へ長調「エジプト風」op.103
- チャイコフスキー
- ・ 協奏曲第1番 変ロ短調 op.23
- ラフマニノフ
- ・ 協奏曲第1番 嬰へ短調 op.1(改訂版)
・ 協奏曲第2番 ハ短調 op.18
・ 協奏曲第3番 ニ短調 op.30
・ パガニーニの主題による狂詩曲 op.43
- ラヴェル
- ・ 協奏曲 ト長調
・ 左手のための協奏曲
- バルトーク
- ・ 協奏曲第2番
・ 協奏曲第3番
- プロコフィエフ
- ・ 協奏曲第2番 ト短調 op.16
・ 協奏曲第3番 ハ長調 op.26
- 矢代秋雄
- ・ ピアノ協奏曲
〈 注意事項 〉
- ・ 課題曲を申込書に記入する際は、作曲者名、曲名、調、作品番号(予選曲については楽章、演奏時間も)を正確に記入すること。
- ・ 室内楽を除く課題曲は暗譜し、審査委員の特別の要望がない限り最後まで演奏する。
- ・ 演奏の規程時間は厳守すること。演奏が規定の時間を超えた際は、審査委員が演奏を中断させることがある。また場合により失格の対象となることがある。
- ・ 選択した課題曲の変更は、2018年9月30日までに書面で事務局に届け出のあったものについてのみ認める。
以上である。
前回までの課題曲の詳細は覚えていないのだが、大きな変化としては、
●2012年の第8回から、3次予選に室内楽が導入された
●2015年の第9回から、1次予選のバッハの平均律が必須でなくなり、代わりに古典派ソナタが1楽章だけでなく全楽章必須となった
という感じだったように記憶している(間違っていたらすみません)。
そして、今回の大きな変化は、
●2018年の第10回から、古典派ソナタが必須でなくなり、古典派/ロマン派/近現代から2つ以上を選ぶようになった
ということだろう。
あとマイナーチェンジとしては、2015年では確か練習曲が必須でなくなっていたように思うのだが、今回はまた必須となっている。
また、邦人作品は、2012年に1曲だけになり、2015年に2曲から1つ選ぶ形に戻ったのだが、今回2018年からまた1曲だけに戻っている。
これらの変化についての、個人的な感想。
2012年の室内楽導入については、室内楽で持ち味を発揮するピアニストもいるので、基本的には好ましいことだったと思うけれど、その審査法についてはなかなか難しいところがあると思う(ソロ曲ほどにはまだ確立されていないような気がする)。
2015年のバッハ非必須化/古典派ソナタ全楽章必須化については、好ましいことだったと思う。
そもそもバッハの平均律はチェンバロ曲であり、ピアノでどのように弾くべきかについてコンセンサスが得られているとは思えない(特にペダルの使い方について)。
それに、ソナタは1楽章だけよりも全楽章のほうが、聴き手としては嬉しい(2009年のチョ・ソンジンの「熱情」の名演が第1楽章だけだったのは本当に残念)。
そして、今回2018年の古典派ソナタ非必須化についても、好ましいことだと私は考えている。
「ピアニストたるもの、古典がうまく弾けなくてはどうにもならない」という考えもあるだろうが、私としては古典派がうまいピアニストと、ロマン派や近現代が得意なピアニストは、別々でも良いと思う。
バッハのみならず古典派まで非必須化すると、古典作品を弾くピアニストがもしかしたら減るかもしれず、寂しいといえば寂しいかもしれない。
しかし、ラフマニノフやプロコフィエフを得意とするピアニストが、モーツァルトで落とされる、というほうが私には悲しい(逆もしかり)。
浜コンも少しずつ「今風」になってきている、ということなのだろう。
それが、今回の小川典子審査委員長の影響なのかどうかは、私は知らない。
他の国際コンクールでは、作曲家の指定もされていなかったり、室内楽ではより多くの作曲家の中から選べたりと、さらに自由なケースも多い。
世界的に、自分の得意分野で勝負する、という流れになってきているのではないか。
それでいいと私は思う。
このような流れでは、若いピアニストはロマン派や近現代ばかり弾くようになり、ハイドンやモーツァルトのピアノ曲が廃れていってしまうのではないか、という危惧もあるかもしれない。
しかし、それでもしモーツァルトのピアノ・ソナタが忘れ去られるのであれば、モーツァルトもそれまで、ということだろう。
アカデミズムはとかく古典偏重に陥りがちだけれど、近い時代の音楽に惹かれるというのは、本来自然な流れであるように思う。
19世紀末、大指揮者ブルーノ・ワルターの学生時代においても事情は同じで、ベルリンの各音楽院はどこもヴァーグナーの「現代音楽」を排斥し、モーツァルトやベートーヴェンばかり教えていたようだが、それでもワルターら若い世代がヴァーグナーに心酔するのを防ぐことはできなかった。
かく言う私は、実はロマン派や近現代にも増して、古典派の音楽が大好きなのだけれど。
それでも、今回の2018年浜コンのように、各時代の音楽を平等に扱うことには賛成である。
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