42.別れ、多分最初の。
あるとき彼から身内に不幸があってしばらく連絡できないとメールがありました。本当にそのまましばらく連絡がありませんでした。何度メールをしても返事は来ませんでした。電話も出ませんでした。事情が事情だけに私は彼の精神状態を思いひどく心配しました。同時に自分が蔑ろにされたように思いひどく彼に腹をたてていました。私は彼にとって特別な存在になりたかった。特別になったはずなのに私は彼に安らぎを与えられない。私は彼にとって重荷なのだ。こんなに狂おしく彼のことを思っているのにそれを知っているのに私を放り出している。彼の弱点は彼のお父様でした。私はそれを知っていました。彼の実家は地元では有名な名家だったようです。彼はその家の長男として生まれて昔気質のお父様にかなり厳しく育てられたようです。虐待のようなこともあったと聞きました。そのような家の長男として生まれたのに前の結婚のときには奥様の家に婿養子として入り奥様のご実家の苗字を名乗ったことからその頃から実家となにか確執があったのかと思いますが詳しいことは私は聞いていません。彼の実家は妹さんが婿養子をとって継いだとは聞きました。当時の彼は実家のお父様のお情けで関連会社で働かせてもらっている状況でした。彼が今でもお父様を恐れていることを私は知っていました。私は彼からのメールの日付を確認し彼の身内に不幸があったという日の翌日から3日分の彼の住む地域の地方新聞を取り寄せました。彼の家柄を考えればお悔やみ欄に一報が載っているはずでした。私は喪主である彼のお父様のフルネームと実家の町名を知りました。番号案内で彼の実家の番号を調べました。私は彼の実家に電話をかけました。昔からの友人を装ってリュウさんに何度電話をかけても通じない、なにか知らないか、とお父様に聞きました。お父様に私の名を伝えました。お父様は最近リュウは顔を出していないけれど連絡するよう伝えますよ、と約束してくださいました。数日後、私の自宅に電話が入りました。ひどく怒った声で「もしもし!」と繰り返すだけで電話はすぐに切れました。電話を取ったのは私でした。「今の、何だった?」そう問いかける夫に「間違い電話かな。酔っ払いじゃない?」そう私は答えました。「俺は小夜子とはもうだめです。」とメールが入ったのは電話の数日後でした。