マキは猫を複数匹飼い

それをSNSにアップする既婚者でした。

ご主人はアパートかなにか不動産を待っていて

仕事をしなくても暮らせるという話でした。

髪の長い華やかなひとでした。

下町の粋なお姉さん、という風情でした。

 

マキは私と同じ歳です。

マキもお母さんでした。

事情があり

一緒には暮らしてはいないお嬢さんのいる

お母さんでした。

 

一方でマキはリュウさんに恋をしていました。

あの夏の日

マキはリュウさんに近づきました。

 

 

リュウさんと抱きあったあとのことです。

彼に小さな声で、寝てるの?と

聞いたことがあります。

彼は、マキと?と答えました。

私は、ううん、そうじゃなくって

眠ったの、って聞きたかったの。

と言いました。

マキと寝てるの?そう聞きました。

マキとは寝てないよ。そう彼は答えました。

 

 

 

冬頃でしょうか。

目に見えてマキの様子がおかしくなりました。

SNSの書き込み時間が深夜になり

眠れないのだと妙にハイテンションで

雑談を続けていました。

周囲はマキを心配していました。

豪快な姉さん肌のマキでしたが

その反面ひどく脆いところがあることは

周囲はわかっていました。

 

3回目に私がリュウさんの部屋に

行ったときのことでしょうか。

 

リュウさんが

少し前からマキが近所のアパートに

住んでいると言いました。

近くの工場のパートも見つけて

短時間ですがそこで働いてもいるようでした。

リュウさんの部屋のドアノブに

日本酒や手料理の入った袋を掛けたりも

しているとのことでした。

 

「じゃあ、この間私がこの部屋に来た時も

 このあたりにマキがいたの?」

 

リュウさんは

その時は知らなかったけどそうだった、

と答えました。

 

マキが私とリュウさんの関係を知ったら

刺されると思いました。

マキはそのようなことをしかねない

激しさを持つひとでした。

マキがその激しさでもって刺すのは

きっとそれはリュウさんではなく

私なのでしょう。

 

それと同時に

あんなに大事にしていた猫達を置いてきた

マキのことを思いました。

猫達の世話はご主人がしていたのでしょうか。

 

 

リュウさんはマキを

部屋には入れていないようでした。

けれども毅然と拒むこともせずに

地元の友達とマキと一緒に飲み歩くことも

あるようでした。

 

私はリュウさんはマキに惹かれてはいないと

判断していました。

もし2人の間になにかがあったとしても

ただそれだけのことだと。

 

リュウさんは小柄な女性が好きだと

言っていました。

リュウさんの奥様だった方は

随分と小柄だったと聞いています。

そういえばトモミも150㎝前半でした。

私はトモミよりは少しだけ身長がありますが

それでも平均よりは小柄です。

 

前に女性の身長について

リュウさんが話したとき

「小夜子は俺の中で例外なんだよ」と

彼は言っていました。

自分では小柄と思っていましたが

それまで彼とお付き合いした

女性のなかでは大きいほうなのでしょう。

私はそれ以外にも例外要素があるので

それも含んでのことでしょうが。

 

リュウさんは庇護欲をそそられるタイプが

好きなんじゃないか、と私は思っていました。

彼はお父さんになりたくて

なれなかったひとでした。

 

マキは背の高いすらりとした美人でした。

人目を引く華やかなひとでした。

普段は下町の豪快なお姉さんでした。

 

 

マキがリュウさんの住む町にいたのは

数ヶ月だったのではないかと思います。

 

どうやってマキが気持ちに整理をつけたのか

私は知りません。

 

私がリュウさんと別れる前後でしょうか。

マキから電話が入りました。

 

ご主人とお店を持ちたい、

そのために2人で飲食店で修行をしている

という話でした。

そのうち金沢でお店を持つとも

話していました。

金沢はマキが幼い頃に離婚したお父様が

住む町でした。

 

マキは私のことを

リュウさんへの恋に破れた仲間だと

最後まで信じたのだと思います。

夏のあの日の一度のキスを

大切に胸にしまい込んでいる奥さんだと。

 

 

私は彼女と電話をするのが苦しかった。

嘘を重ねることには慣れていたけれど

それでも、苦しかった。

マキはまっすぐで、あたたかなひとでした。

強くて脆いひとでした。

華やかな外見とは裏腹に

柔らかな気持ちをもっているひとでした。

 

私はマキが怖かった。

 

 

マキの金沢のお店は繁盛しているようです。

このご時世で苦労もあるのでしょうが

口コミでも高評価が続いているようです。

今でもときおり私は彼女の店のサイトを

覗くことがあります。

貫禄のある女将さんという風情の彼女に

あのときの面影を探します。

彼女もご主人とやり直し

2人でお店を作り上げました。

 

 

金沢に行くことがあったとしても

私はマキのお店には行かないでしょう。