あるとき彼から

身内に不幸があってしばらく連絡できないと

メールがありました。

 

本当にそのまま

しばらく連絡がありませんでした。

何度メールをしても返事は来ませんでした。

電話も出ませんでした。

 

事情が事情だけに私は彼の精神状態を思い

ひどく心配しました。

同時に自分が蔑ろにされたように思い

ひどく彼に腹をたてていました。

 

 

私は彼にとって特別な存在になりたかった。

特別になったはずなのに

私は彼に安らぎを与えられない。

私は彼にとって重荷なのだ。

こんなに狂おしく彼のことを思っているのに

それを知っているのに私を放り出している。

 

 

彼の弱点は彼のお父様でした。

私はそれを知っていました。

 

彼の実家は

地元では有名な名家だったようです。

彼はその家の長男として生まれて

昔気質のお父様に

かなり厳しく育てられたようです。

虐待のようなこともあったと聞きました。

 

そのような家の長男として生まれたのに

前の結婚のときには

奥様の家に婿養子として入り

奥様のご実家の苗字を名乗ったことから

その頃から実家と

なにか確執があったのかと思いますが

詳しいことは私は聞いていません。

彼の実家は妹さんが

婿養子をとって継いだとは聞きました。

 

当時の彼は実家のお父様のお情けで

関連会社で働かせてもらっている状況でした。

彼が今でもお父様を恐れていることを

私は知っていました。


私は彼からのメールの日付を確認し

彼の身内に不幸があったという日の

翌日から3日分の

彼の住む地域の地方新聞を取り寄せました。

彼の家柄を考えれば

お悔やみ欄に一報が載っているはずでした。

 

私は喪主である彼のお父様のフルネームと

実家の町名を知りました。

番号案内で彼の実家の番号を調べました。

私は彼の実家に電話をかけました。

 

昔からの友人を装って

リュウさんに何度電話をかけても通じない、

なにか知らないか、と

お父様に聞きました。

お父様に私の名を伝えました。

 

お父様は

最近リュウは顔を出していないけれど

連絡するよう伝えますよ、と

約束してくださいました。

 

 

数日後、私の自宅に電話が入りました。

ひどく怒った声で

「もしもし!」と繰り返すだけで

電話はすぐに切れました。

電話を取ったのは私でした。

 

「今の、何だった?」

そう問いかける夫に

「間違い電話かな。酔っ払いじゃない?」

そう私は答えました。

 

 

「俺は小夜子とはもうだめです。」と

メールが入ったのは電話の数日後でした。