SNSへの熱狂的な思いは
とうに醒めていました。
更新頻度は減り
それでもSNSをやめられなかったのは
リュウさんの動向が知りたかったからです。
彼とふたりきりで会ってから
ときおり彼は
ひどく思い悩むようになっていました。
彼が深い淵に沈むと
電話もメールも来なくなりました。
彼が思い悩むのも当たり前でした。
奥様の不倫が原因で彼は発病し離婚したのに
今では自分が不倫をする側に
人の奥さんを寝取る側に
なってしまったのですから。
私と彼とは付き合っている、と
公言できるような関係ではありませんでした。
彼からの連絡が途絶えることは
彼の精神状態が良くないのか
私と連絡を取りたくないのか。
私はひどく不安に駆られました。
その少し前から
私は彼のネットストーキングを
始めていました。
彼のSNSのIDとメールアドレスがふたつ。
最初の材料はそれだけでした。
IDやメールアドレスの単語を切り出して
私はweb検索を繰り返しました。
彼のヤフオクの取引履歴も
ちょっとした書き込みも
簡単に見つかりました。
その頃、私たちはそれまでのSNSから
招待制SNSに移っていました。
私はまず招待制SNSで
自分で自分を招待する形で
アカウントを作りました。
さらにもうひとつアカウントを作りました。
そこで自分のアカウントから切り離し
自分とは関係のない記事をいくつか作り
別人であるように見せかけました。
フォロワー数を誇示するような人を見つけて
友達申請を出し
それなりの友達数を作りました。
見た目は私とは関係のないアカウントが
できあがりました。
裏アカウントを作ったあとしばらくして
私は招待制SNSの本アカウントを
削除したように思います。
それまでのSNS仲間でも
「消えて行く」人たちが出始めていました。
招待制SNSの本アカウントを
削除するということは
それまでのSNS仲間との関係を
断ち切るということでした。
その場から去るということでした。
私は彼さえいれば、何もいらなかった。
裏アカウントで入った招待制SNSで
彼のメールアドレスの一部を検索すると
あっさりと彼の裏アカウントが浮かびました。
調子が悪くて連絡できない。
そう私に告げていた時期
以前のようにSNSで騒ぎ回る彼がいました。
私も知っているSNS仲間と
遊びに行ってもいるようでした。
我慢できずに彼に
そのことを聞いたこともありました。
彼の動向はほかのSNS仲間に聞いたと
彼には言いましたが
一度、彼に疑われたことがあります。
彼の招待制SNSを
盗み見ているのではないかと。
その話の数日後
メールのやりとりの最中に彼から
「このサイトが気になるから見て」と
URLが送られてきました。
それは招待制SNSのURLでした。
私はそれをクリックしました。
彼には、トップページで弾かれた、
私にはもうログインできなかった、と
そのまま伝えました。
私は招待制SNSを見た後は
必ずログアウトしていました。
私はそこまで愚かではありませんでした。
彼はあいかわらず
SNS仲間と飲み歩いていました。
女性も含まれていました。
私は何も知らされていませんでした。
誰と会っていたの。
どうして教えてくれないの。
私には言う権利のない言葉でした。
だから、自分で彼の行方を探しました。
彼を狂おしく恋しく思う分だけ
私はひどく彼に腹をたてていました。