SNS仲間にユキオさんという男性がいました。
この方は私のもう一人の先生でした。
ユキオさんは仲間たちのなかでは年上でした。
ユキオさんは私達に
SNSでの画像の加工の仕方などを
教えてくれました。
穏やかで博識な方でした。
私はユキオさんに
一度だけお会いしたことがあります。
最初の名古屋オフ会で。
ユキオさんはSNS同様穏やかな方で
スーツからほんのりと白檀の香りがしました。
私はユキオさんと
毎日メールを交わすようになっていました。
お互いに恋愛感情があるわけではなく
現実の生活とSNS仲間との騒ぎとのほかに
静かに言葉を交わす相手として
私とユキオさんとは
お互いにちょうどよかったのでしょう。
ユキオさんは
毎日各地を移動しているようでした。
私はユキオさんの仕事の内容を
最後まで知りませんでした。
今日は仕事が忙しくてこれから昼飯です。
3時頃にそんなメールとラーメンの画像が
送られることがありました。
今日の出先は海の近くです。
そんなメールと港の景色が
送られてくることもありました。
私は昼ご飯をとっている
ファミリーレストランで
お疲れさまです
コーヒー奢ってさしあげます
そんなメールを
ガストのコーヒーの画像とともに送りました。
平日のお昼に一往復だけのやりとりでした。
リュウさんとの不安の絶えない関係のなか
ユキオさんとのやり取りは
心の中がほんのり暖かくなるような
当時の私にとっての拠り所でした。
ある日、SNS仲間の一人の女性の個人情報が
ある場所に書き込まれました。
書き込んだのはユキオさんの奥様でした。
ユキオさんの奥様は
ユキオさんより年上でした。
妻はパソコンにもネットにも疎い。
そうユキオさんは語っていました。
奥様のスマホの設定も何もかも
ユキオさんがしていたようです。
その年代の女性には珍しいくらい
ネットを使わない奥様だと聞きました。
奥様はユキオさんとの家庭を守っていた
専業主婦でした。
ユキオさんは奥様のことを
SNSによく書いていました。
とても奥様を大事にしていると
私達は思っていました。
私達の目にはそのように映りました。
奥様はSNSに熱中しオフ会にも頻繁に出かける
ユキオさんを訝しみ
最初は浮気を疑ったようです。
のちにユキオさんが
SNSに熱中していることを知り
ご友人の助けを借りて自宅のパソコンから
ユキオさんのアカウントでログインし
ユキオさんとバーベキューに行った
SNS仲間の女性の住所を書き込んだようです。
別の日には
ユキオの妻です
ユキオはもうSNSを辞めると言っています
との書き込みが
ユキオさんのSNSにありました。
誤字だらけのその書き込みを
私たちは痛ましく見ていました。
その後ユキオさんは
SNSのアカウントを削除しました。
その後に聞いた話では
ユキオさんは奥様を
SNS仲間と行ったバーベキュー場や居酒屋に
ひとつひとつ連れて行き
ノイローゼ状態にあった奥様を
労わったと聞いています。
私達のSNSは最初はただ馬鹿騒ぎに興じ
やがてお互いの傷に寄り添うものでした。
SNSのなかで恋心や行き違いで
傷つく人を見てきました。
私もそのひとりでした。
けれどSNSの外側で
私達のSNSが原因で傷ついた人が
いたことはショックでした。
私達は、自分たちに人を傷つける力があるとは
思っていませんでした。
ユキオさんからのメールも途絶えました。
のちに私はユキオさんのような
メール相手を求めて
出会い系に登録をします。