私が一度だけ寝た男性、サリィは

アオイという女性に思いを寄せていました。

SNSでアオイは最初は

マンガや古着屋が好きな朗らかな女性でした。

やがて彼女は不妊に悩む既婚者であることを

打ち明けるようになりました。

彼女は以前、恋人を喪っていました。

今のご主人とも齟齬があるようでした。

 

アオイはカーディーラーに勤めていました。

サリィはわざわざ彼女の勤める支店まで行って

車のカタログを貰ったと

私はサリィから聞いていました。

一度だけ、2人で花火大会に行ったと

サリィは嬉しそうに私に話してくれました。

 

リュウさんと2人きりで会った

3回目のときでしょうか。

アオイの話題になりました。

その頃は私とアオイは

SNS上のやりとりも途絶えていました。

 

「俺、アオイと毎日メールしてるんだよ」

リュウさんが何気なく話しました。

 

私はアオイに対する怒りが

湧きあがったのを覚えています。

 

私自身、恋心なく

ユキオさんと毎日メールを交わしていました。

恋と関係ないからこそユキオさんとのメールは

安心できるものでした。

 

リュウさんは時折

深い淵に沈むことがありました。

リュウさんとしばらく連絡が取れないことは

私にはよくありました。

リュウさんの動向を知るために

私はリュウさんへの

ネットストーキングを続けていました。

 

それなのにアオイはリュウさんと

毎日メールをしている。

私がリュウさんに与えることのできない

安らぎをアオイはリュウさんに与えている。

 

 

その後、アオイが大変なことになっていると

リュウさんが教えてくれました。

 

アオイは職場の上司と不倫をしていて

SNSでもその関係を誇示するような投稿が

増えていたようです。

アオイは子どもが欲しいと言っていたのに。

 

 

アオイは職場の上司と

地元のホテルに入ったところを

同僚に見られたようでした。

2人の関係が車のメーカー関係の掲示板に

書き込まれました。

2人の同僚が次々と

さまざまなことを書き込んでいるようでした。

私はその掲示板を

リュウさんに教えてもらいました。

 

私は香水関連の掲示板に

書き込みをしたことはありましたが

そのような場所に書き込んだことは

それまでありませんでした。

漠然と、アオイを揶揄する書き込みの中に

「それってO嬢?」と書き込みました。

 

関係者降臨、と騒ぎ炎上する掲示板を

私は眺めていました。

大変なことをしてしまったと

不安に駆られました。

名誉毀損に関する条項を調べました。

その後もさまざまな書き込みは

続いていました。

 

しばらくして炎上はおさまりました。

炎上を収めるような書き込みを

リュウさんがしたことはあとで聞きました。

 

アオイの上司は異動になったそうです。

仕事のできる上司だったとのことで

アオイは職場で

随分と周囲から恨まれたようだと

あとでリュウさんから聞きました。

 

その後のアオイのことは知りませんでした。

その頃の私とリュウさんはアオイのことを

話すような状況ではありませんでした。

 

 

すべてが終わった数年後に

アオイのフルネームで検索をかけました。

アオイは仕事を辞め

お嬢さんが産まれたようでした。

家族3人でイベントに出かける姿が

SNSにアップされていました。

 

アオイはご主人とやり直したのでしょうか。

SNSで見えるものがすべてだとは

今の私は思いません。

壊れかけた場所に踏みとどまって

もう一度作り直す気力も、私にはありません。

 

SNSのアオイはとても幸せそうに

笑っていました。