矢口史靖監督、三吉彩花、やしろ優、ムロツヨシ、chay、三浦貴大、宝田明ほか出演の『ダンスウィズミー』。

 

一流商社の社員・鈴木静香(三吉彩花)は、姉の娘を一日預かることになり遊園地に連れていく。ところがそこで入った怪しげな催眠術師のマーチン上田(宝田明)の小屋で、音楽を聴くと勝手に踊りだす催眠術にかかってしまう。

 

ネタバレがあります。

 

 

2017年の『サバイバルファミリー』以来2年ぶりの矢口史靖監督の最新作。

 

映画館で予告を観た時には、タイトルからしてもちょっと周防正行監督の『Shall we ダンス?』みたいな映画なのかなぁ、と思っていました。

 

 

 

矢口監督の作品はいつも楽しみにしてるんで今回も普通に観るつもりだったんだけど、どうもすでにご覧になったかたたちの評価に微妙なものがわりとあったので、ん…これは大丈夫か?と少々不安に。

 

あまり話題にもなってないしなぁ。

 

でもまぁ、実際に観てみなければわからないし、これまで同監督の作品はどれも僕はそれなりに満足感があったから(いまだに『ロボジー』は未見のままですが)そこは信頼して劇場に足を運んだんですが。

 

で、どうだったかというと。

 

…ん~と、この映画を楽しまれたかた、そしてこの映画の関係者の皆さんには大変申し訳ありませんが、これから書く感想はお読みにならない方がいいでしょう^_^;

 

褒めません。「つまらない」連呼します。不快になるかたもいらっしゃるかもしれません。

 

…いやぁ、これは「やらかし物件」だなぁ。

 

途中で何度も「もう観るのやめて帰っていいんじゃないか?」と思った。かなり苦痛だったので。

 

でもアメブロでの他のかたたちの感想では「楽しめた」というものも目にするし、これはあくまでも僕の個人的な好みでの評価ですから、この映画を好きな人たちにケチをつけるつもりはありません。そこはご了解ください。“批判”は作品に対して書いています。

 

途中で観るのやめたくなった映画はこれまでにもたくさんあるけれど、たとえば去年は『勝手にふるえてろ』、今年は『レゴ(R)ムービー2』あたり。

 

ただし『勝手に~』はヒロインが男とくっつくとかくっつかないとかいった内容にまったく興味が持てなかったからで、しかも終盤にどんでん返しがあって作品への評価は覆ったんで、最終的には満足したんですが。

 

『レゴ2』は単純に退屈だった。笑えもしなければ泣けもワクワクもしない、ただひたすら時間が長く感じられたということでは今回もそれに近いかもしれない。『レゴ2』もこの『ダンスウィズミー』も同じシリーズや監督のそれまでの作品は好きだったから期待していた、という共通点がある。

 

これまで特に印象的だった「俺の金と時間を返せ映画」は、どちらも2015年公開の『エイプリルフールズ』と北野武の『龍三と七人の子分たち』(邦画多いなぁ…)。

 

観終わってげっそりしたことを覚えています。今回久しぶりにあのたまらなくダウナーな感じを思い出した。なんかもう、すべてが投げやりな気分になるよーな。

 

ほんとはこのあと、去年の今頃とても話題になったある邦画の監督さんの新作をハシゴしようと思っていたんだけど、こちらは『ダンス~』よりもさらに巷での評判が芳しくないようで褒めてる感想をまったく目にしていない。

 

そんなの続けて観たら死んでしまう(;^_^Aと思って急遽予定を変更。ライオンや動物たちが唄うディズニーのミュージカル映画を観ることにしました。

 

前に観た映画がコレだったので、もう単発で観る以上に楽しめましたよ。

 

生身の人間の役者たちが唄って踊る映画がCG製の動物たちが唄う映画に完敗、というのはなんとも残念な話ですが。

 

何よりも、僕はこの映画から「ミュージカル」というジャンルへのリスペクトを感じられなかった。いや、ダンスシーンにはプロの振り付け師がついていて主演の三吉彩花がみんなで踊る場面はスタッフもキャストも頑張って撮ったんだろうし、観ていてそれなりに愉快ではあるんだが。

 

 

 

 

 

そもそも主人公の静香はミュージカルのことを「急に唄いだしたりして、おかしくない?」とかバカにしてて、その時点で「今さら何を言ってんだか」と溜息が。

 

ミュージカルが「唄って踊るもの」だというのは大前提であって、そんなことに抵抗があるんなら最初から題材にすんな、って話で。

 

僕も偉そうに語れるほどミュージカルを観ていないし、映画はともかく実は生の舞台のミュージカル劇はどちらかといえば苦手だったりするんだけど。ってゆーか、生の演劇自体が今では観られない。演劇部出身なのに。

 

…それはともかく、でもミュージカルを描くんなら最低限の敬意を持って描くべきでしょう。そうじゃないと、「なんか『ラ・ラ・ランド』とかウケてるから、うちらもやってみますか」っていう安易な便乗企画に思えてしまう。きっとその通りなんだろうけど。

 

ミュージカルってもともと歌劇から始まってるわけで、だから「歌」の方がメインなんですよね。俳優のお芝居のおまけで歌がくっついてるんじゃなくて、その逆。歌の方にあとから普通のドラマが加えられた。

 

「ミュージカル」というジャンルについて描くんなら、そういう薀蓄などを絡ませて主人公がミュージカルにだんだんハマっていく過程をこそ描くべきでしょ。矢口監督はこれまでそういう方法論で作品を撮ってたはず。

 

ウォーターボーイズ』でも『スウィングガールズ』でも、あるいは『ハッピーフライト』や『ウッジョブ!』だって、たとえ初め主人公はその種目だとか仕事だとかに無関心だったり苦戦してたりしてても、途中からはだんだん興味を持ち始めたり軌道に乗ってきて、最後にはそれが自分にとってとても大切なものになる、というストーリーだった(綾瀬はるかがドジっ娘CAを演じる『ハッピーフライト』は、観客から「あんな飛行機に乗るのは嫌だ」とツッコミが入りまくっていたがw)。

 

もちろん、この『ダンス~』も映画をちゃんと観ていれば、静香は小学生の時に学芸会の出し物のミュージカルで主役だったにもかかわらず本番当日体調を崩して舞台上でゲロ吐いてからそれがトラウマになっていて、過剰にミュージカルに嫌悪感を持っていたことがわかる。

 

本当は彼女はあの時演じ損ねたミュージカルをちゃんとやり遂げたかったんだ、ってこと。

 

だけど、やっぱりそこにミュージカルへの愛は感じられないんだよな。

 

だって、物語の発端が「音楽を聴くと勝手に身体が動いて踊ってしまう」ようになって、それを解消するために旅をする、ってものだから。

 

時々ミュージカルシーンが入るけど、それで静香が唄って踊る楽しさに目覚めていく、という展開になっていないんですよね。文字通り音楽が鳴ると静香が唐突に踊りだしてそれが騒動を巻き起こして彼女が後悔する、というのの繰り返しで。ここでは「ミュージカル」は厄介なものとして扱われている。

 

なんでそんな非現実的で、だからといって特に面白くもない話にしちゃったのか。

 

それはやっぱり監督自身がミュージカルにそんなに興味がないからなんじゃないか。ミュージカルに対する偏見があって浅い知識しか持ち合わせていないことが、映画を観ていて伝わってきてしまう。

 

僕が予告とかタイトルから勝手に連想してしまった周防監督の『Shall we ダンス?』は、プロのダンサーや社交ダンスを実際にやってる人はどう感じるのかわからないけれど、最終的にはそれまでの一般の人々の社交ダンスに対する思い込みや偏見を打ち破ってブームを作り出したほどだったでしょう。

 

矢口監督の『ウォーターボーイズ』だってその流れを汲んでいた。最初は「男が社交ダンス?」とか「男がシンクロ(現アーティスティック・スイミング)?」って半笑いだった観客の意識を変えた。だから面白かったんです。ちゃんと研究していたから。それに比べて『ダンスウィズミー』では題材への取材が圧倒的に不足している。

 

この「いきなり唄って踊る」ミュージカルの奇妙さにツッコミを入れる、あるいはその違和感自体を1本の映画にしちゃう、というアイディアを「画期的」みたいに褒めてる人もいるけど、そして人が何を褒めようとそれは自由ですが、ミュージカルが「いきなり唄って踊る」ことにツッコミ入れてる映画なんてこれまでにもいくらでもありますから。たとえば、ディズニーの『ズートピア』とか『シュガー・ラッシュ:オンライン』なんかもね。

 

しかも『シュガー・ラッシュ2』ではそうやって“ミュージカルのルール”に疑問を持っていたヒロイン(厳密にはヒロインのヴァネロペが疑問を感じていたのは“ミュージカルのルール”についてではなくて、「プリンセス・ストーリーではなぜいつもヒロインがいきなり唄いだすのか」ってことだったのだが)が、やがて「自分の歌」を唄う意味を見出すところまで描いていた。

 

全篇に渡って「いきなり唄って踊る」ミュージカルにツッコミを入れ続ける映画はこれまで記憶にないけど、理由は単純で、それだけじゃ映画がもたないからだ。

 

「ミュージカルって、急に唄いだすのがヘン」とツッコミを入れるミュージカル映画というのは、果たして監督ご本人が得意げに語るほど大したアイディアだろうか。そして、これが一番肝腎なんだけど、そのアイディアは映画の中でちゃんと活かされていたでしょうか?

 

「メタなツッコミ」などすでに目新しくもなくて、コメディなんかではもはや当たり前。それをドヤ顔で得意がられてもな。

 

あるいはその野暮な「ツッコミ」が、結果的にミュージカル映画の歴史を俯瞰することに繋がるような試みならば面白さも感じられそうだけど、そんな映画にはまったくなっていないし。

 

主人公が何かの目的で旅をして、その途上で出会う人々と唄って踊る、って話で充分面白くなるはずで、やたらと昭和の歌謡曲やポップスを流すところも、その一見するとミスマッチな組み合わせもやり方によっては懐かしくて新鮮な和風ミュージカルにだって仕上げられたでしょうに、作り手にそういう意欲がないから笑いにも涙にも繋がらないし燃えるミュージカルにもなっていない。

 

繰り返すけど、「音楽を聴くと勝手に身体が動いて踊ってしまう」なんてつまんないネタを物語の柱にしたこと自体が大間違い。

 

このあと観たライオンのミュージカル映画も、またその映画に曲を提供したエルトン・ジョンの半生を描いたやはりミュージカル映画も、登場人物たちがいきなり唄ったり踊ったりしていたけど、そんなことに観客はいちいち抵抗を感じたりツッコんだりはしない。

 

思わず一緒に唄って踊りたくなる、ミュージカルの楽しさってそこだから。その一番肝腎なところをこの『ダンス~』の監督さんはわかっていない。これは致命的。

 

静香がイカツいあんちゃんたちと一緒に踊るシーンで、あろうことかダンスの途中で場面を切っちゃってたのがその証拠。ここはあんちゃんたちとダンスを通して意気投合するとこなんだから、最後まで踊りきって最高に盛り上げなきゃいけないのに…一体何やってんの?

 

インチキ催眠術師・マーチン上田(その後、コーチン名古屋に改名)の仕込みの客役を演じていた女性・千絵(やしろ優)が「ダンス教室をひらくのが夢」と語って物件のチラシを見せて「雇ってあげる」とか言ってる時点で静香が今の職場を辞めてそちらの世界に入る決意をするラストは予想できるから、すべてはそこに至るまでをどう描くかにかかっているんだけど、その静香の旅がミュージカルとなんの関係もないただのつまんないコントなので、唄ったり踊ったりしてる以外の場面が超絶どーでもよくてあまりにつまんな過ぎて困った。この脚本と演出はほんとに酷いと思う。

 

“コメディ”にもなっていないし、コントとしても笑えないんだから。103分の上映時間がとてつもなく長く感じられた。

 

三浦貴大が演じる会社の上司が車の中で電話してるバックで静香がレストランの店内でめっちゃアクロバティックに踊ってる、という一瞬のショットだけが、矢口監督の昔の作品のノリに近かったぐらい。

 

 

 

まわりの誰もこの脚本に「リライトすべき」と提言しなかったのだろうか。これでほんとに「面白い」と思ったのか?ちょっと信じられないんですが。恐るべきクオリティの低さ。

 

途中で拾った歌唄いのおねえさん(chay)の目的が自分を捨てた元パートナーの結婚式に乗り込んで暴れることだったのがわかるあたりのピタゴラスイッチ的な先の読めない展開は『裸足のピクニック』や『ひみつの花園』などの矢口監督の初期作品にあった自主映画テイストが濃厚で、もしもこの映画が「ミュージカル映画」のように宣伝されずに昔みたいにミニシアターでひっそり公開されていれば「途中にミュージカルシーンがある奇妙なロードムーヴィー」ぐらいの印象だったもしれないし、こんな文句を言うこともなかったでしょうが、全国のシネコンでやってるそれなりに金かけたエンタメ作品なんだから、この作品全体に漂う貧乏臭さ、発想や画の貧しさは言い訳のしようがない。

 

 

 

まるで90年代ぐらいに作られたような古臭さも気になった。

 

エンドクレジットに流れる「タイムマシンにおねがい」も、すでに『下妻物語』がやってて二番煎じでしかないし。

 

冒頭で唄う宝田明の歌声が完全にカラオケやってるおじいちゃんレヴェルで非常に気まずくなる。

 

 

 

宝田さんは舞台のミュージカルにも出てる人だけど、さすがに現在80代の半ばで以前のような朗々とした歌声を期待したって無理だし、でもあの冒頭場面は90年代の設定なんだから当時の全盛期だったマーチン上田はもっと若々しくなきゃいけないんだよね(宝田さんご自身はちょうど伊丹十三の映画に出てた頃)。

 

だけどそれができていないから(ちゃんとやろうとしたらアベンジャーズの映画並みのVFX技術が必要だが)、髪や髭を黒く染めただけの若作りした宝田明がダンディなおじさまを演じながらよろよろと唄ってても、ただただ痛々しいだけなんですよ。華やかさが微塵もない。うら悲しくなってくる。

 

メリー・ポピンズ リターンズ』で93歳のディック・ヴァン・ダイクが披露したダンスと歌声のような驚異的な技ならともかく、高齢の俳優に無理に唄われても観てる方が気を遣う。

 

白い鼻毛みたいなのが出てる寒いギャグ(?)とか、スクリーンに物投げたくなったほど。

 

大ヴェテランの俳優・宝田明へのリスペクトやオマージュにもなっていない。

 

宝田さんは最近はこれまであえて封印していた戦時中の体験を語られたりもしていて、歴史の貴重な生き証人でもあるのだから、これからはこんな箸にも棒にもかからないどーでもいい映画なんかじゃなくて、もっといい映画に出ていただきたいです。

 

細かいことかもしれないけど、主人公の静香って90年代のバブル時代ぐらいの時に小学生だったという設定で回想でも当時のものを模したTV番組が映ったりするんだけど、演じる三吉彩花は現在20代前半のもっと若い世代なので違和感があるんですよね。家族の描写もテキトーだし。

 

それこそ、もしも静香がもっと年上の、30代半ばぐらいの女性だったら印象はだいぶ違っていたと思う。

 

そこそこキャリアもあって、でもちょっと疲れ気味の三十路ヒロインがミュージカルに挑戦、みたいな話だったら感情移入できる人も結構いるのではないだろうか。まぁ、企画の実現のためにいろいろ主演女優の条件があったのかもしれないけど。

 

矢口監督がしばしば描くふてぶてしくて気の強いヒロイン像が、ここでは三吉彩花の若さが仇になって静香を鼻持ちならない人物に見せてしまっている。ほんとは、やしろ優が演じていた女性の方を主人公にした方がよかったぐらいで。

 

 

 

愛ある「ツッコミ」は最後にほっこりもできるだろうけど、この映画には愛がない。ミュージカルと、ミュージカルが好きな人々、「この程度の映画」で喜んでるような観客を心底コケにしてるだけ。

 

まぁ、僕のこの感想にも愛が欠けてますが。

 

最初にお断わりしたように、どんな映画を楽しもうとそれは人の自由なので僕がそれに対してあーだこーだと難癖つける権利などないですが、僕はこの映画は今年観た映画の中で一番ヒドかったと思います(※個人の評価です)。

 

一言言ってもいいかな?くたばっちまえ、ア~~メンっ!♪

 

個人的信条から今年の劇場鑑賞映画のランキングの最下位はすでに別のある映画に決めてますが、率直に「つまらなかった」ということでは間違いなくこの『ダンスウィズミー』が断トツ。

 

僕は前作の『サバイバルファミリー』の感想で「矢口監督の映画はチケットの料金分は楽しませてくれる」と書いたけど、撤回いたします。少なくともこの映画は「料金分」に見合った出来ではまったくなかった。これ以下の映画は僕は映画館でお金払って観たくないです(※追記:その後、なんとこれをはるかに下回る映画に遭遇。下には下がいた。ぐわぁ!)。

 

次、が勝負かなぁ。僕に限って言えば、その次は多分ありませんので。

 

 

※宝田明さんのご冥福をお祈りいたします。22.3.14

 

 

 

 

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ