監督:バイロン・ハワードリッチ・ムーア、声の出演:ジニファー・グッドウィンジェイソン・ベイトマンイドリス・エルバネイト・トレンスほか、ディズニーのアニメーション映画『ズートピア』。





バニーバロウに住むウサギのジュディ・ホップスは、警察学校を優秀な成績で卒業、大都会ズートピアの警察署に初のウサギの警察官として配属される。折りしも何頭もの動物たちが行方不明になっていたが、ジュディが任されたのは駐車違反の取り締まり。張り切って違反切符を切りまくるジュディだったが、親子のキツネの客がゾウのアイスクリーム屋で販売を拒否されている現場に出くわす。


予告篇を初めて観た時から楽しみにしていました。

ここのところアカデミー賞関連の重めのテーマの映画が続いたので、とにかく明るくて観終わったあとに「面白かった~」って満足してニコニコできる映画が観たくて、ディカプリオ主演の映画はちょっと後回しにしてこちらを鑑賞。

さて、これまた最近は毎回言ってるんでいい加減疲れてきたし読んでくださっているかたもウンザリしてらっしゃるかもしれませんが、でも一応、吹替版問題について。

少し前に観たピクサーの『アーロと少年』がそうだったように、この映画も僕の住んでる地域では字幕版をやっていなくて、すべて日本語吹替版。

これもいつも申し上げているように、ピクサーやディズニーのアニメは日本語の吹き替えを丁寧にやっているので、吹替版そのものには抵抗はありません。

吹替版の声のキャストは、ヒロインのジュディを上戸彩、キツネのニックを森川智之、アフリカスイギュウのボゴ署長を三宅健太、ライオンハート市長を玄田哲章、肥満体のチーター、ベンジャミン・クロウハウザーをお笑い芸人サバンナ高橋茂雄が担当している。

上戸さんとサバンナ高橋さん以外はほとんどがプロの声優さんで安心して聴いていられるし(芋洗坂係長厚切りジェイソンも声をアテてるけど気づかなかった)、上戸さんもなかなか声の演技が達者で、優しいお姉さんっぽい雰囲気や意志の強さを感じさせる口調などジュディのキャラクターにピッタリでした。

サバンナ高橋さんも思ってた以上に好演。出番はそんなに多くはないけど、ベンジャミンの頼りなさげででも憎めないのんびりした喋り方とかイイ味出してました。

ベンジャミンのキャラは、アメリカ映画によく出てくるジャンクフード好きの太った男性。もうそのまんまw




二人とも前もって知らなければ彼らが吹き替えてたことはわからないでしょう。それぐらい違和感がなかった。

また、オリジナル版ではシャキーラが唄っている主題歌「Try Everything」をE-girlsDream Amiが日本語で唄っている。彼女はシャキーラ同様、歌姫ガゼルの声も担当。

ベイマックス』や『アーロ』ではエンドクレジットに日本独自の歌を流していたけど、今回は『塔の上のラプンツェル』や『アナと雪の女王』のように原曲とメロディは同じなので不自然さは極力抑えられていました。

劇中でのここぞという場面ではちゃんとオリジナル音声を使ってたし。

Dream Amiさんは日本人好みの比較的高めのスイートな声だけど、僕はやっぱりシャキーラ本人の歌声の方が好みです。

ゴールデンウィークに食い込む映画だから子どもたちには日本語の音声の方が都合がいいだろうしそれは理解してるんですが、でもやっぱりオリジナル版も観たいんですよ、僕は。たとえば一回目は吹替版で二回目は字幕版とか、同じ作品でヴァージョン違いを楽しめるでしょ。

アニメのキャラの口の動きと台詞がピッタリ合ってる原語版は、観ていて僕はより没入できるんです。

だからせめて朝か夜に一回ぐらいオリジナル原語版を流してほしいんだよなぁ。

繰り返しますけど、『ラプンツェル』や『アナ雪』『ベイマックス』(『ベイマックス』は字幕版も映画のタイトルと歌が替えられていたが)はちゃんと上映してたよね?なんでやめちゃったの?

あと、これは僕には直接関係ないことですが、日本にいる英語を話す人たちは吹替版だと言葉がわからないんじゃない?海外から来てて日本で映画観る人たちだっているんだからさ。なんでそういう人たちをわざわざ排除するのかな。

これから観光立国目指して海外からのお客さんたちもどんどん受け入れていくんでしょ?だったら英語版は必要でしょう。

担当の人たちは、もうちょっと考えた方がいいんじゃないですかね。

でもともかくは、これからご覧になるかたは吹き替えに関しては心配なさらなくて大丈夫です。


監督は『ボルト』や『塔の上のラプンツェル』のバイロン・ハワードと『シュガー・ラッシュ』のリッチ・ムーア。

脚本は『ベイマックス』のジャレッド・ブッシュと『シュガー・ラッシュ』のフィル・ジョンストン

『シュガー・ラッシュ』や『アナと雪の女王』の共同脚本のジェニファー・リーの名前もクレジットされている。

最近のディズニーアニメを手がけている人たちが結集してますね。

脚本に4年かけて1000回書き直したという話だけど、ほんとに?(;^_^A

1000回の書き直しに見合うだけの出来のシナリオだったかどうか、僕は判断しかねるんですが。

いや、面白かったですよ。

この映画はアメリカではすでにオープニング興行成績は『アナ雪』や『ベイマックス』を越えてるそうだし。

だから日本でも大ヒットの可能性はあるし、そうなったらいいなと思います。

この映画については、いつもこのブログの記事を紹介してくださっているヒナタカさんがご自身のブログに作品に対する愛に溢れた素晴らしい大絶賛レヴューを書かれているので、ご紹介させていただきますね。


『ズートピア』差別と偏見を描いた大傑作の理由を全力であげてやる(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー) カゲヒナタのレビュー


映画を観たあとにこのレヴューを読むと、もういちいち「ウンウン」ってうなずいちゃうんですよね(^o^)

だからヒナタカさんのレヴューの内容と重複しないように感想書くのに苦労しているんですが^_^; いろいろネタがカブっちゃうのはどうかご容赦ください。

基本的に僕は『ラプンツェル』以降(すべてではないが)劇場で観ているディズニーのアニメ映画は好きだし、この最新作も観にいってよかったです。

普段アニメを観ない僕がディズニー作品は安心して劇場に足を運べるのは、やっぱりこれまで観てきて、それだけの価値のあるものを提供してくれるという信頼があるから。

ブログの感想には毎度あれこれ文句や難癖めいたことを書きながらも、やっぱり好きなのです。

そのことは強調しておきます。

だから、これ以降、たとえ批判っぽいことが書いてあったとしても、それは好きゆえに気にかかったことだと思っていただければ。

嫌なら最初から観にいってませんから。

そんなわけで、これ以降はストーリーに関するネタバレがあります。まだご覧になっていないかたはご注意ください。



まず感心するのは、ディズニーの長篇アニメーション映画は1本たりとも似たような内容の繰り返しをしないこと。

毎回異なる題材、シチュエーションで観客を楽しませてくれる。

ここ最近の作品を挙げてみても、その内容は実に多彩。

おとぎ話路線の『ラプンツェル』と『アナ雪』(『アナ雪』は王子様に見初められて守られるヒロイン、という定番を覆した『ラプンツェル』の発展系といえる)、疎外された者同士が手を取りあい自分たちの世界を救って真の自分を受け入れていく『シュガー・ラッシュ』に、自己犠牲の尊さを描いてはいるけれどテーマ云々よりも作中に散りばめられた日本的な意匠が単純に楽しかった『ベイマックス』など。

よくこれだけヴァラエティに富んだ作品を作り続けられるものだと思う。

『ズートピア』もまた過去のディズニー作品のさまざまな要素を受け継ぎつつも、さらに新しいものをそこに盛り込んでいる。

ズートピアの未来都市のような景観は『ベイマックス』のサンフランソウキョウを思わせるけど(あと『トゥモローランド』も)、それぞれ身体のサイズの違う動物たちのためにさまざまな工夫が凝らしてある。それを一つひとつ観ていくだけでも楽しい。






そして、すでに多くのかたがたに指摘されているように、この映画は刑事モノのバディ(相棒)ムーヴィーの動物版。




新人警官と詐欺師がコンビを組んで事件を解決する。

しかも二人はそれぞれ女性と男性。

異なる性別、人種、職業、コミュニティの者たちが最初はギクシャクしているものの共同で事にあたるうちにいつしか友情が芽生え、互いへの理解と信頼も深まる。

映画の終わりには彼らの意識は以前と変わっている。ほんのちょっと、でも重大な成長を遂げるのだ。

ここで描かれるのはあくまでも友情までで、恋愛にまでは行きそうで(ニックに頭ポンポンされるとことか)行かないところもいいですね。彼らのその後を想像するのも楽しいし。




特にディズニーには本来は人間であろうキャラクターを動物で表現した作品というのは多い(実際に人間の演技をトレースしてアニメ化したものもある)。

ジュディのあの大きな瞳はラプンツェルやアナのようだし、ニックのあの半開きの眠たそうなまぶたって『ラプンツェル』で時々ユージーンがああいう目つきしてたよねw

ただこの『ズートピア』がユニークなのは、単に人間を動物に置き換えただけじゃなくて、登場人物(って表現がおかしいが)が“動物”であることに必然性を持たせていること。

これは“動物”でないと成り立たない話なんですよね。

登場するのが現実に存在する生きた動物たちだからこそ、ここで描かれているものはピクサーアニメのオモチャや車、モンスターたち以上に「人間についてのたとえ話」として機能する。

ここで示される「多様性」というのは、世界に実在するさまざまな種類の動物たちだからこそ説得力がある。この映画で描かれる動物たちは適当に描かれたキャラは一匹もいない。メジャー級の動物からわりとマイナーな種族まで、ちゃんと実在する動物たちがデフォルメされてキャラクター化されている。

オモチャや車は壊れても直せるが(モンスターは実在しないしw)、動物は一度死んだら人間と同じで生き返らない。

その「命」の重みは切実。

同じく動物を描いていても「トムとジェリー」や「ルーニー・テューンズ」「ウッドペッカー」のようなスラップスティックで「なんでもあり」なカートゥーンも存在するけど(ディズニーのミッキーマウスもそちら側)、この『ズートピア』では主人公のジュディも相棒のニックも、そして他のキャラクターたちもその辺はちゃんと明確に線引きされていて、デフォルメされたデザインで実写のアクション映画的な飛躍した動きを見せはするが、傷つけられれば血を流し、痛みを感じて死ぬ、生身の存在として描かれている。

前述のドタバタアニメと本作品を観比べてみると、その違いがよくわかると思う。

また、これまでのディズニーが培ってきた「カワイイ」キャラたちのオンパレードだから小さな子どもでも抵抗なく楽しめるだろうし、でも「子ども向け」などとは侮れない非常にシンプル(差別はダメ)かつ複雑(でも現実は厳しい)なテーマを内包してもいる。


牧歌的な小さな町バニーバロウからズートピアに向かうジュディは、田舎から都会へ出てきて夢に向かって頑張っているすべての人たちの姿でもある。

一方で生まれも育ちも生粋のズートピアっ子であるキツネのニックは、希望に溢れるジュディとは反対に幼い頃から差別され周囲から見下されてきた経験から自らの可能性に蓋をして詐欺師として生きていた。




この二人が出会って互いを理解しあい、ともに手を携えあって本当のパートナーになっていく過程が描かれる。

会ったばかりのニックに故郷バニーバロウを田舎扱いされて反論するジュディが可笑しいけど、これって東京出身の人と地方出身者とのやりとりみたいでほんとリアル。だってああいう言い方されたことあるもんな^_^; 相手は東京出身じゃなかったけど。

子どもの頃から現在に至るまでのニックへの周囲の理不尽な差別は、人間の社会での特定の民族、人種に対する差別をそのままストレートに投影している。

また、ジュディが警察署でしばしば受けるパワハラやモラハラとしかいえない扱いも、女性に対するそれを思わせる。

警察の受付でベンジャミンに「カワイイ」と褒められてもジュディが喜ばないのは、警察官である彼女は警察官としての実力を評価されたいので、そのことに「カワイイかどうか」は関係がないからだ。よく日本のTVで「美人すぎる警官」とか言って紹介したりしてますが、あれ当人はどう感じてるんでしょうね。僕たちの日頃の意識や言動を省みさせられます。

このように、この映画には『アナ雪』から続くフェミニズム的な言及がそこかしこにある。

とはいえ、ディズニーアニメのヒロインの特権でジュディはどっからどう見てもキュート。




彼女の顔のデザインや表情はちょっと『シュガー・ラッシュ』のヴァネロペを思わせる。

もう彼女のいろんな表情を見ているだけでもキュンキュンしてしまうし、ジュディの可愛らしさはディズニーの動物キャラとしては『ダンボ』や『バンビ』を超えるかも。しっかりと“くびれ”もあるしw

 

 


これがもしピクサーやドリームワークスのアニメだったら、もしかしたらヒロインは美形ではなくて、もっと説得力のある話になってたかもしれませんが。

僕は、いつかディズニーアニメで「美形ではないヒロイン」が登場したら、その時はディズニーが何かほんとに大きな進化を遂げたことになると思います。

「美形ではないキャラクター」が次第に愛おしくなってくるというのが、優れたアニメーションの持つ魔法でもあると思うので。

それでも、そんなジュディの可愛さというのは彼女の一途さ、そして彼女が自然に持っているユーモアからくるものなんだよね。

どう?あたしカワイイでしょ?という観客に媚びた態度ではない。そこが日本製の萌えアニメなどと決定的に違うところ。

ジュディは『アナ雪』のアナほどドジっ娘ではないし、『シュガー・ラッシュ』のヴァネロペのように幼くもない。

外見は愛らしくてもジュディはけっして愛玩用の萌えキャラではなく、自立した大人の女性なのだ。

僕はこういうアニメを幼い時から観ておくのと、男やファッション“だけ”にうつつを抜かしてる頭空っぽな女子キャラばっか観てるのとでは情操教育上の結果はまったく違ってくると思うんですが。

紛れもなく「カワイイ」キャラたちによって、でも「カワイイ」ってなんだろう、と考えさせられもするアニメを作るのって、なかなか画期的だなぁ、と。

物語の要所要所に“笑い”が挟まれていて、いきなり刺したり殺したりしない。じゃあのどかな話かといったら、刑事モノだからアクションもサスペンスもある。エンターテインメントとしての面白さの中に社会的なテーマがしっかりと込められている。

ニックが恐れるギャングのボス“ミスター・ビッグ”はもろ『ゴッドファーザー』で、つまりイタリア系の戯画ですね。僕は『ゴッドファーザー』は好きなんで、あのシーンではクスクスしちゃったんですがw

 


ニックの仲間で赤ちゃんの真似してるけど実はおっさんのフィニックも、ゾウの真似して鼻を鳴らすとことか可愛すぎて堪らん。

いつも全裸で過ごしているヌーディストの動物たち(動物なんだから当たり前なんだけどw)なんかも可笑しくて。スゴい体位でヨガをやってるゾウにも笑いで肩が震えた。

人間の社会のカリカチュアでありながらも動物たちの描写は結構本格的なので、単に動物に服着せただけじゃないリアリティもある。

「夜の遠吠え」と呼ばれる毒草から抽出した薬物で凶暴化する動物たちは、ジュディやニックのように擬人化された動物たちと作画でその動きがしっかり描き分けられていて、むしろ凶暴化した姿の方が野生の動物本来の姿に近い。

「夜の遠吠え」を撃ち込まれて行方不明になったカワウソのオッタートン氏が、なんであの薬物の名前を知ってたのか不思議でしたが。


差別についてのテーマとは別にこの映画の「あきらめずに頑張れば夢はきっとかなう」というメッセージは、主題歌の日本語歌詞の「やるのよ、やるのよ~♪」って繰り返しがなんかノれなかったこともあって(シャキーラの原曲は好きなんですが)僕にはあまり響きませんでしたが、でもこれから社会に出ていく若い人たちや子どもたちにはこういうポジティヴなものの見方は励ましになるかもしれないですね。

最初に会った時、ニックは「ズートピアは楽園じゃない」とジュディに忠告する。みんなそれを夢見てここにやってきて、幻滅して故郷に帰っていくのだ、と。

ジュディは一度失意のうちにバニーバロウに帰って両親と一緒にニンジンを作って売る仕事に就くが、店番をする彼女は浮かない顔をしている。

それは彼女がやりたかったことではないから。

結局、ジュディは警察に復帰して最後は新しく警察官になったニックとコンビで活躍することになるけど、そしてそれは夢がかなったんだからもちろん喜ばしいことではあるのだけれど、ピクサーの『モンスターズ・ユニバーシティ』を観ちゃったあとだと別の可能性も考えちゃうんですよね。

『モンスターズ・ユニバーシティ』は「かなわない夢もある」ということを描いていた。

といっても、だから努力は無駄だということではなくて、努力して仮に夢がかなわなくてもそれはきっと何か別のことに役に立つから大丈夫、ってことを言ってたんですが。

だからジュディもまた警察を辞めても、たとえば地元でニンジン作りに精を出して子どもの頃にはイジメっ子だったキツネのギデオン・グレイと一緒に料理の新商品を出すとかさ。

頑張り屋のジュディならそういうことだってできただろうと思う。

最初からジュディのパパは「夢をあきらめた」みたいなこと言ってて、夢をあきらめること=妥協した人生、みたいな描かれ方に疑問を感じるんだけど、「差別はよくない」みたいなこと言ってる映画で、やりがいのある仕事とそうじゃない仕事を勝手に選別するのはいかがなものだろう。




駐車違反を取り締まる仕事だって秘書の仕事だって世の中に必要なもので無価値な仕事なんかではないように、ジュディの実家の仕事についてもちゃんとあとでフォローを入れておくべきだったんじゃないだろうか。

なんかちょっと前に広瀬すずとんねるずの番組で技術スタッフの仕事を侮辱するような発言をして問題になった件を思いだした。

人に対する敬意を欠いた時、それが差別に繋がる。そんなことはディズニーのアニメスタッフだってわかってるでしょうに。

まぁ、ジュディの場合は『~ユニバーシティ』のマイクと違って夢だった警察官の才能がなかったわけじゃないから、ズートピアには戻るべくして戻ったんだろうけど。

若くて才能のある女性がそれを最大限に発揮できる社会を実現させよう。この映画が訴えているのはそういうことでしょう。

そして、ジュディの本当の望みは、少しでも世の中が良くなること。

いろいろと問題もあってけっして「楽園」ではないズートピアを、少しでもその理想に近づけるために貢献することだ。

王女様でもないし王子様に見初められもしないけどジュディが間違いなくディズニーアニメのヒロインなのは、そういう前向きで建設的な心の持ち主だということ。

僕はイジケているので、劇中でかつてはイジメっ子だったギデオン・グレイが子どもの頃を反省してジュディに詫びるようなことは現実にはほとんどなくて、そんなの覚えてすらいなかったりすることの方が多いんじゃないかと思っちゃいますけどね。

悪いことする奴らがみんなあんなに善良ならとっくにこの世から悪人はいなくなってるだろうし。

そういう“黒い”恨み節みたいなのも、この映画の中に多少感じなくはないところもある。

結局、肉食動物たちに球状にした「夜の遠吠え」を撃ち込んで野獣化させていたのは、“副市長”という役職だけ与えられながらライオンのライオンハート市長に実質秘書代わりにこき使われていたヒツジのベルウェザーだったことが判明する。

 


彼女はズートピアでたった一人のウサギの警察官であるジュディを励ましたり、警察のデータベースにアクセスする権限のない彼女に協力したりしていたが、実はズートピアから肉食動物を追放して草食動物だけの町にしようとしていた。

このオチについて、僕は作り手がどのような考えがあってこういう展開にしたのかとても気になったんですよね。

こういう動物たちが出てくる作品では従来は肉食動物が悪役として描かれることが多かったので、その逆に草食動物を悪者にしてみた、ということかもしれないし、ズートピアの9割を占めるという草食動物とはアメリカの多数派のことを意味しているのかもしれない。

ただ、そのわりにはライオンハート市長のベルウェザー副市長への態度はあまり愉快ではなかったし、ボゴ署長(彼は草食動物だが)のジュディに対する仕打ちもまたあまり褒められたものではなかった。

 


だけどそのことについては映画の中では追及されてないんですよね。うやむやにされてる。ジュディにちゃんと謝ったのはギデオン・グレイだけだし。

女性であるベルウェザーを黒幕にしたから差別的だ、などと言うつもりは毛頭ないけれど、でもどうして敢えて彼女が差別主義者、排外主義者として描かれる必要があったのだろう。

善良に見える人たちの中にも差別や偏見の芽があるかもしれない、と言っているのだろうか。

では、ライオンハート市長やボゴ署長の問題点についてはどれだけ問われているのか。

あの描写の仕方では、長年のヒドい扱いでベルウェザーがライオンハートを恨んで肉食動物たちを排斥しようとしたようにも見えてしまう。じゃあ、原因はライオンハートじゃん、と。

それともそれが狙いなのかな?

つまり、誰かキャラクターの一人を悪者にしてそいつを逮捕してめでたしめでたし、とするにはこのテーマはちょっと重すぎるんじゃないかと。

本当に恐ろしいのは、ジュディがギデオン・グレイに苛められた記憶からキツネすべてに警戒心を持つようになったように、どんな人にでも人を差別したり排斥しようとする危険はあるということ。

この映画が語っているのはそういうことだと思うんだけど、だとしたら副市長とかわかりやすい立場の者ではなくて、「悪」というのはもっと身近なところに潜んでいるのではないだろうか。

この映画は刑事モノのパロディの一面もあるから、最後の敵が実は…っていうお馴染みのどんでん返しをやってみただけなのかもしれませんけどね。

声を録音できるニンジン型のペンが何度も出てくるので、きっとこれが最後に何かに使われるんだろうな、と思ってたら予想通りだった。




小道具の使われ方としてはよかったですが。可愛かったし。


観終わって、楽しかったし思ってた以上にいろいろと考えさせられもしたのだけれど、自分がなんとなく物足りなく感じた理由がわかりました。

歌がないから^_^;

『ベイマックス』『ズートピア』と唄わないディズニーアニメが続いて、そろそろディズニーのミュージカルアニメが観たくなってきたんですよね。

ミュージカルについては『ズートピア』の中でもネタにしてましたが、ディズニーキャラたちが唄って踊る場面って、もう理屈ではなくそれだけで僕は観ていて気持ちよくなるのです。

だからこの最新作でもラストで歌姫ガゼルが唄ってジュディとニックたちが踊る場面で、これまで溜め込んでいたものが一気に弾けたような快感があった。

「唄えば問題が解決する」とボゴ署長が揶揄していたディズニーのミュージカル路線だけど、このラストシーンのためのフリでもあったんですね。

署長もガゼルのファンだったことがわかって、ベンジャミンと一緒に踊ってたし。

ぜひ次回作では再びミュージカルを。

『ズートピア2』でもいいからw


この映画、何度も観たらもっといろいろ発見があるかもしれません。

僕は今のところまだ1回しか観ていないので、いろいろ見落としたり勘違いしてるところもあると思います。

とりあえず、ディズニーのさらなる躍進を感じさせる作品だったことは間違いありません。

来年のアカデミー賞長編アニメーション賞の最大候補になるだろうし、多分獲るでしょうね。

なのでまだご覧になっていないかたがたは、ゴールデンウィークに(もちろんGWが終わっても)ご家族やカップル、お友だち同士で、そしてもちろんお一人様でもぜひ劇場に足を運んでみてください。



追記:

お見事、第89回アカデミー賞長編アニメーション賞受賞。おめでとう!!


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