監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ、声の出演:ライアン・ポッター、スコット・アツィット、マーヤ・ルドルフ、ダニエル・ヘニー、T・J・ミラー、ジェイミー・チャン、デイモン・ウェイアンズ・Jr.、ジェネシス・ロドリゲス、ジェームズ・クロムウェルほか、ディズニーのアニメーション映画『ベイマックス』。
原作はマーヴェル・コミックスの「Big Hero 6」。
第87回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞。
Fall Out Boy - Immortals
大都市サンフランソウキョウ。天才的な発明の才能を持つ14歳の少年ヒロ(ライアン・ポッター)は、親代わりの叔母キャス(マーヤ・ルドルフ)と兄のタダシ(ダニエル・ヘニー)とともに暮らしている。ヒロはタダシが通う工科大学に見学に行き、タダシの友人たちや彼が発明したケア用ロボット“ベイマックス”(スコット・アツィット)に会う。タダシに触発されたヒロは兄と同じ大学への入学を目指してついに超小型の“マイクロボット”を完成させ、皆の前でのプレゼンも大成功に終わって兄の恩師キャラハン教授(ジェームズ・クロムウェル)から入学の許可を得る。しかし、その直後に思わぬ大事故によってヒロは大切な存在を失ってしまう。
『アナと雪の女王』に続いて今年観る2本目のディズニーアニメ(『プレーンズ2』は未見)。
2D字幕版で鑑賞。
同時上映は短篇『愛犬とごちそう』。
道ばたで拾われた子犬が、愛を失ったご主人様のために元・恋人との間をとり持つ。
ほぼパントマイムで見せきるのはこれまでの短篇と同様。
気になるのが、ディズニーやピクサーのこういう短篇って、男性が意中の女性の心を射止めるまでを描いたものがけっこう多いこと。
サイレント時代のコメディにそういう作品が多いように、わかりやすくて感情移入しやすいせいなのかもしれないけど、正直たまには違うタイプの作品も作ったら?と思ってしまったりも(もちろん恋愛がらみではない短篇もありますが)。
でも言葉を用いずにキャラクターの動きだけで物語を伝える、というのは非常に高度なテクニックだしアニメーションの基本でもあるから、こういう作品が1本また1本と生みだされることについてはディズニーは常に才能を磨き続けているんだなぁ、と感心します。
ただ、ワン君、ミートボールやスパゲティ、チーズばっか食ってると肥満になるぜ、俺みたいに。
それでは『ベイマックス』。ネタバレがありますのでご注意を。
まず内容に触れる前に、日本版の予告篇について。
すでにいろんな人に指摘されてるけど、この映画の原題は原作と同じく“Big Hero 6”。
これは“ビッグ・ヒーロー6”というヒーローチームを描いた、つまりヒーロー物なのだ。
でも日本版の予告ではそのことは伏せられていて、少年とロボットの友情を描いたハートウォーミングで泣ける映画、という体(てい)でまるでどこぞの“ドラ泣き映画”みたいに宣伝されている。
アメリカ版予告篇 日本版との違いに注目
少年とロボットの友情も泣ける要素もあるからまるっきりウソではないんだけど、明らかに宣伝でヒーロー物の要素を排除してるんですね。
字幕版でも映画のタイトルは最後にアルファベットで「BAYMAX」と出てきたし、特に一緒に戦う仲間たちは予告でその存在を完全に消されちゃってる。なんでそんなことすんのかな、と。
『ベイマックス』というタイトル自体にはそんなに抵抗感はないんですけどね。『ビッグ・ヒーロー6』では客が呼べない、というのもごもっともだと思うし。
そもそもディズニー映画は『ラプンツェル』も『シュガー・ラッシュ』も『アナ雪』も原題とは違ってるんだから。
宣伝に関しても、『アナ雪』の大ヒットを受けて女性や子どもをターゲットに、またドラえもんの3DCG映画も当たったらしいから(未見)その辺の観客層を狙ったのもわからなくはない。
日本公開版のエンディングテーマであるAIの「Story」も好評のようだしこれは好みの問題もあるんだけど、ただ僕はここ最近の邦画で日本のミュージシャンたちが唄う「泣かせ」のメロディが正直ちょっと苦手なんですよ。
映画館やTVで流れてる邦画の予告篇の主題歌って、みんな同じように聴こえてしまって。
だからそれと同じノリで宣伝されるのがなんか嫌。
いや、僕だって泣かせる歌が嫌いなわけではないんだけれど、とにかくなんでもかんでも映画の雰囲気をウェットにしてしまうのはいかがなものか。
観てみたらわかるけど、『ベイマックス』ってそんなメソメソするような内容の映画じゃないし。
さて、ようやく映画の内容についてですが、期待が高かっただけに残念ながらここ何年かの間に観てきたディズニーアニメの中で特に突出して優れているとは思いませんでした。※
いや、最近観たディズニーアニメはどれも出来がよかったからってのもあるし(ちなみに『シュガー・ラッシュ』は昨年の僕のベストワン作品)、この映画だって普通に楽しめましたけどね。それだけでも十分ではあるのだが。
後述するけど、ストーリーの弱さが気になった。
まぁ、なんだかんだいってディズニーのアニメには毎回文句言ってますが、それでも映像面やキャラクターたちの魅力などでその粗を埋めてたから『ラプンツェル』だって『アナ雪』だって僕は好きなのです。
風船ロボ・ベイマックスはもちろん可愛くて可笑しかったからキャラとしてはお気に入りなんだけど、彼と主人公のヒロ以外の登場人物たちの存在感がちょっと希薄だったよーな。
特に悪役方面が。
ヒロの叔母キャスなんてとてもいいキャラしてるのにほとんどストーリーに絡んでこないし(ネコの“モチ”も)、“ビッグ・ヒーロー6”のメンバーたちもチームを結成してほんとの活躍を見せるのはこれから、というところで映画が終わってしまった、みたいな。
後半でヒロを乗せて空を飛翔するベイマックスにはちょっと胸が熱くなったけど、ピクサーの『Mr.インクレディブル』で超俊足の長男がフルスピードで走った時に思わずグッときた高揚感や『シュガー・ラッシュ』の黒幕との戦いの時のような感動にまでは至らなかったかな、と。
『トロン:レガシー』みたいに電磁力で動く円盤使って走ったり戦うゴー・ゴー(ジェイミー・チャン)とかカッコよかったしツンデレっぽいとこなんかも可愛かったんだけど彼女のキャラもそんなに描き込まれていないし、ちょっとヘタレっぽいワサビ(デイモン・ウェイアンズ・Jr.)や実は大富豪のボンボンだったフレッド(T・J・ミラー)、普段は眼鏡っ娘のハニー・レモン(ジェネシス・ロドリゲス)にしても、やはり後半戦う以外の彼らのプライヴェートは描かれない(エンドクレジットのあとに約1名描かれますが)。
彼らが戦闘時に着てるコスチュームが80年代ぐらいの日本アニメっぽくてちょっと懐かしさも感じたけど。
あくまでも主要キャラの紹介篇といった、1本の映画としてはちょっと物足りなさを感じてしまった。
ちょうど週一でやってるTVアニメの第1話を観たような印象、といったらいいか。
悪役との戦いから決着に至るまでがずいぶんと慌ただしかったし。
僕がこの映画で面白かったのは、むしろ前半のヒロとベイマックスの出会いから敵が現われてベイマックスがアーマーを装着する前までのドタバタ。
絶妙なまでの役立たずっぷりをみせるベイマックスの描写だけで全篇続けてくれてもよかったぐらい。
近くの席で観てた小学生も、ベイマックスのとぼけた受け答えやおかしな歩き方とか、走るのめっちゃ遅かったり空気が抜けてしぼんだりするたびに笑い声をあげてました。
こういう純粋にアニメでこそ描けるパントマイムの笑いって作り手のセンスが一番問われると思うんだけど、この前半部分に関してはそれが成功していたし抱腹絶倒でした。
それだけにお話が転がりだしてから大団円までがけっこう性急だったように感じてしまって。
だから、日本でヒロとベイマックスの2人に的を絞って宣伝した、というのもそんな理由だったりするのかもしれない。
「チーム物」として売るには弱いと判断したんだろうか。
この映画は日本のアニメもいろいろ参考にしているようだし(クライマックスで落下するヒロをベイマックスが空中でキャッチする場面はちょっと『ラピュタ』っぽかった)、ビッグ・ヒーロー6も戦隊モノっぽく描くのかと思ってたんだけど、そこはどちらかといえば先ほどの『Mr.インクレディブル』や同じマーヴェルの『アベンジャーズ』っぽかったかな。
クライマックスでのベイマックスも映画『アベンジャーズ』のアイアンマンみたいだったし。
アメリカ人がヒーローチームを描くとああなるのね。
舞台となる町サンフランソウキョウもサンフランシスコとトーキョー、というか彼らアメリカ人がイメージするエキゾティックでクールなジャパンっぽさを融合させたものでなかなかステキだったし、映画を観る前にあった「また勘違いニッポンがわんさか出てくるんじゃねーのか」という懸念は杞憂に終わって、それについてはホッとしましたけどね(相変わらず看板の文字はところどころデタラメだが)。
冒頭のロボット対決なんかもちょっと『リアル・スティール』を思いださせて、あぁアメリカ人が考える「クールなジャパン」ってこういうのなんだよな、って思った。
ヤクザと力士が合体したような大男とかもちょっとハワイあたりの人たちが混ざってる気がするけど、だいたいこーゆーイメージなのね、と。
僕はアニメに疎いんでいちいち細かく指摘はできないけれど、ベイマックスがロケットパンチを飛ばしたり、ヒロの部屋にはマジンガーZみたいな絵があったり、悪役の“YOKAI (妖怪)”は歌舞伎みたいな隈取りしてるし、作り手が意識して映画の中に取り入れたそういうジャパンっぽい要素を探してみるのも一興かも。
他のかたがたはどう感じたかわからないけど、僕はこの映画で日本や日本人がコケにされてる不快感は特に抱きませんでした。
オリジナル版の声のキャストはいろいろバランスをとっているのか、ヒロ役のライアン・ポッターは日系、タダシ役のダニエル・ヘニーとゴー・ゴー役のジェイミー・チャンは韓国の血をそれぞれ引いていて、ワサビはアフリカ系(演じるのはバカ映画でお馴染みウェイアンズ兄弟の1人、デイモン・ウェイアンズ・Jr.)だし、キャス役のマーヤ・ルドルフ(『ブライズメイズ』で大変なことになってた人)はユダヤ系やアフリカ系の血が混ざっている。
まさしくさまざまな人種の混交チーム。
映画の中ではいちいちそういうことには触れないけど、ごく自然に描かれているのがいい。
アメリカ映画の中に日本文化が取り入れられるのがいいとか悪いとかいうよりも、結局は作り手にその国の人々や文化への敬意があるかどうかだと思うんです。
アメリカ映画って、ジョークと侮辱を履き違えているものが時々あるので。
中には敬意を払ったつもりで勘違いや無神経なことバンバンやってる映画もありますが(『ウルヴァリン:SAMURAI』や『GODZILLA ゴジラ』など)。
この映画の原作コミックもWikipediaによれば悪役がまたしても広島と長崎の原爆がどうのこうのみたいな理由で暴れるんだそうだけど(いいかげんにしろよアメ公)、ディズニーのアニメ版ではその辺はまるっと変えられていました。当たり前だ。
アメリカ人ってのは、きっと自分たちが今までさまざまな場所で多くの虐殺を繰り返してきていつか仕返しされるのではないか、という恐れが常にあるんだろうな。
だから原爆を落とされた日本人が復讐をする、なんて話を平気で描く。
リドリー・スコットの『ブラック・レイン』でも、ヤクザの親分は空襲のあとに降った黒い雨を浴びながらアメリカへの復讐を誓う。
日本人はあんたらアメリカ人が思ってるほど執念深くねぇよ。むしろなんでもすぐ忘れちゃうからいろいろ顰蹙も買ってるわけで。
閑話休題。話が逸れたんで映画に戻します。
先ほど「ストーリーが弱い」と言ったことについてだけど、まずYOKAIの正体がタダシの恩師のキャラハン教授だった、というのはあまりにもありきたりで。
実は僕は、あのカブキマンの正体は事故で死んだはずのタダシなのでは?と思っていたのです。
ベイマックスも「タダシはここにいます」って言ってたし(それはタダシが遺したメモリーチップのことだったのだが)。
タダシは爆発のショックで記憶を失うか、あるいは身体の自由を失って大企業の社長クレイに復讐しようとする。あるいはキャラハン教授に操られてるのかもしれない。
たとえばそういう展開だったら、もっとエキサイティングだったんじゃないだろうか。
だって、キャラハン教授がクレイに復讐するきっかけになる、まるで『スターゲイト』に出てきたような転移装置が登場する場面は映画のけっこう後半で、ずいぶんと唐突に感じられたから(映画の中盤でYOKAIが実験の失敗で廃棄された残骸を海から引き上げているが)。
あれがタダシの発明したベイマックスか、あるいはヒロの発明品と何かかかわりがある、というのを事前に描いておいてこそ後半の戦いは物語的に盛り上がるんじゃないかなぁ。
しかも事故で亡くなったと思われていた教授の娘さんは生きていたことが判明して、ヒロたち“ビッグ・ヒーロー6”に無事救い出される。
でもそれじゃ、教授の自作自演だと知らずに彼を助けようとして爆発に巻き込まれたタダシは完全に無駄死にじゃないか。
ヒロは映画の最後でタダシの死を乗り越えたように描かれるけど、なんとも釈然としないものが残る。
はたしてタダシは死ぬ必要があったんだろうか。
あるいはどうしてもタダシの死を描くのであれば、それは映画のラストに描くべきだったんじゃないかな。
カブキマンになって暴れていた彼が最後に正気を取り戻してヒロの腕の中で息絶えるとかさ。
ベイマックスがヒロを助けるために自分を犠牲にしてロケットパンチを放つ、というクライマックスも涙腺は緩むけど、さっき書いたように『アベンジャーズ』とモロかぶりだったりもするし、ベイマックスを介して弟に憎しみではなく自己犠牲の尊さを教えたタダシの最期が物語の中でまったく無意味な死でしかないのは、肝腎なところで説得力を欠くんじゃないか。
せめてタダシの死にはちゃんと意味を持たせてほしかった。
ヒロはベイマックスとともにキャラハンの娘アビゲイルを助けようとする。それはまさしく自己犠牲なのだが、本当はそれよりも最後に兄の仇であるキャラハン本人を危機から救ってこそ、ヒロはタダシがベイマックスを通して伝えようとした精神を正しく受け継いだことになるんじゃないだろうか。
そしてタダシの死という重い事実もまた、キャラハンが救われることで報われるんじゃないか。
ベイマックスというキャラクターが魅力的すぎるためにどうしても彼とヒロの友情物語のようになって、結果的にともに戦ってる仲間たちの影が若干薄くなってしまったりタダシの死がクライマックスでは脇に追いやられてしまいがちになる。
TVアニメの第1話のようだと言ったのも、1本の映画の中で物語の本筋に沿った伏線が張られて最後にそれをすべて回収して大団円、というよりも、兄の死をきっかけにして起動したロボットと一緒にとりあえず最初の事件を解決した、みたいな終わり方になってるから。
実際これからまだ続篇が作れそうな終わり方だし、もし作られたらまた観にいくつもりですが(ディズニーはピクサーのように続篇を劇場公開することはないから望みは薄いが※追記:その後、ディズニーはアナ雪とかモアナなど、続篇をガンガン劇場公開してますが)。
エンドクレジットの終わりにおまけがあって、いつも屋敷を留守にして孤島にこもっていたフレッドの父親が帰ってくる。
その父親の顔がマーヴェルで数々の作品の原作を務めるスタン・リーそのまんま。
声もご本人が演じている。
で、実はフレッドのお父ちゃんも正義の味方だった、ということがわかって終わり。
もうスタン・リーおじいちゃんは一つのキャラクターになってますよね。なにげにゲスト出演数すげぇ多いし。
※スタン・リーさんのご冥福をお祈りいたします。18.11.12
いろいろ文句つけてきたけど、この映画はもうベイマックスのキュートさに尽きますね。
カラテのポーズがカンフー・パンダみたいだったり、いちいち「痛みは10段階のどこですか?」と尋ねてきたり、プニプニしてる身体もユーモラスだし。本当に彼のようなロボットがいたら癒やされるだろうなぁ。
ドラ泣きはしなかったけど、楽しかったですよ。
多分、今年観る最後の映画になると思うけど、これを選んでよかったです。
あー、俺もベイマックスにケアされたい。
※その後、年が明けてまた2D字幕版を鑑賞。
そしたら…1回目以上にスゲぇ楽しめちゃったのでした(『アベンジャーズ』の過ち再び)。
それから自分が書いた感想がことごとく的外れに思えてきて(明らかに記憶違いだったところもあるし)、頭を抱えた。
いや、まぁ、最初の印象も大切ではありますが。
昨年末の映画ランキングではこの作品を26位にしたけど、今だったら(って前回観た時からそんなに日にち経ってませんが)どうかわからない。もっと上になる気がする。
劇場で隣にお父さんが外国人でお母さんが多分日本人のハーフの小学生ぐらいの男の子が座ってて、まるでリアル・ヒロだった。英語と日本語を半々に喋ってて映画観ながら時々「Awesome!」って呟いてました。
なんだかアメリカ映画の中に入ったようだった。
1回目に観た時にはいろいろ引っかかった部分も2回目はすんなり入ってきて、大満足でエンディング曲聴いてしまった。
そんなわけで1人で勝手に赤っ恥かいてますが、皆さんは僕の見当違いな感想なんてお気になさらずどうぞこの作品をご堪能ください。
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