ジェームズ・マンゴールド監督、ヒュー・ジャックマン、TAO、福島リラ、真田広之、スヴェトラーナ・コドチェンコワ、ウィル・ユン・リー出演の『ウルヴァリン:SAMURAI』。
2D字幕版を鑑賞。
両手にアダマンチウム製の刃を埋め込まれた不死身のミュータント“ウルヴァリン”ことローガン(ヒュー・ジャックマン)の前に、ユキオ(福島リラ)という若い日本人女性があらわれる。かつてローガンに長崎で命を救われた元日本兵で、いまでは大企業の社長ヤシダ(ハル・ヤマノウチ)が死ぬ前に礼を言いたい、と彼女を遣わしたのだった。一日だけという約束で日本にやってきたローガンは、ヤクザに襲われたヤシダの孫娘マリコ(TAO)を守るために日本にとどまることにする。
【ネタバレ注意】です。
2009年公開の『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』につづく、ウルヴァリンを主人公にした「X-MEN」シリーズのスピンオフ作品第2弾。
第2弾とはいっても『ZERO』の直接の続篇ではなく、「X-MEN」シリーズの3作目『ファイナル・ディシジョン』の続篇で、現在のところ時間軸ではもっともあたらしい。
この映画のあとにブライアン・シンガー監督によるシリーズ最新作『X-MEN:フューチャー&パスト』(第5作目の『ファースト・ジェネレーション』の続篇)が2014年の公開をひかえている。
さて、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』の海外版のエンドクレジット後に、日本らしきバーでサケを飲んで「モウ一杯」と言ってるウルヴァリンのオマケ映像があって、どうやら続篇では日本が舞台になるらしいといわれてて、大変危惧しておりました^_^;
いや、おなじく日本を舞台にしたリドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』は、『ブレードランナー』ばりにスモーク立ちこめまくりの大阪や鳴り響くハンス・ジマーの音楽とか、健さんやマイケル・ダグラス、松田優作の熱演がかっこよかったんで好きだけど、それはけっこう例外的で、基本的にはハリウッド映画で大昔からバカの一つ覚えみたいに出てくるやたら凶悪なヤクザやなんでも斬れちゃう刀で暴れるサムライやニンジャ、風俗嬢と区別がついてなくて「お背中お流しします」なゲイシャなどの類いのインチキ・ニッポン描写には正直ヘキエキしていたので。
『ブラック・レイン』(1989) 出演:アンディ・ガルシア 若山富三郎 ケイト・キャプショー 神山繁 小野みゆき
戦前戦中、高度経済成長期、そしてバブル期と、ハリウッドではフシギの国ニッポンはつねに歪曲した姿で紹介され、ときにあからさまにコケにされてきた。
かつて日本では十把ひとからげにそれらを「国辱映画」と呼んでいたが、やがてそういう「間違った日本描写」を笑って楽しむ文化が育ってきて、ハリウッドの作り手たちはそれをわかっているのかそれともほんとに日本人にウケてると思いこんでるのか知らないが、正々堂々と我が国に売りこんでくるようになった。
いまでもハリウッドが映画で日本を舞台にしてくれたことを素朴に嬉しがる日本人がいるのもたしかだし。
ただ、いまの僕にはそういう「ヘンなニッポン」を笑って楽しむ心のゆとりがないのだ。
「X-MEN」シリーズはずっと観てきたし『ZERO』も好きだったから、ウルヴァリンにチャチいニッポンには来てほしくなかった。
しかしどうやら本格的に企画が動きだして日本での撮影も行なわれるというんで、どうなるんだろうと思っていた。
2012年、たまたまおとずれた東京の増上寺でも大々的なロケ撮影があったそうで、怖いもの見たさでじょじょに興味がわいてきたのでした。
で、すでに観た人たちの評価としては、無数にあるツッコミどころを楽しみながらも「けっこうよくできていた」とする肯定的なものから、「アクション映画としてふつうにつまらない」というものまで賛否が分かれているようで。
賛がある、ということ自体が驚きでもあるけど、でも実際に観てみたらたしかにヒュー・ジャックマンが東京の町なかで戦ったり走り回ってたり、漁村でのどかに斧をふるったりしてて、そういうの観て「面白かった」と言う人たちがいるのはよくわかりました。
さっそく僕の評価ですが。
珍作。
…いや、昔からショーン・コネリーがむりくり日本人の漁民になりすまして日本式結婚式まで挙げる『007は二度死ぬ』みたいな珍作はあったし、そして僕はあの映画もけっこう好きなんで(おそらく『SAMURAI』の作り手もあの作品を意識していると思うが)、だからダメだというんではないんですが。
『007は二度死ぬ』(1967) 監督:ルイス・ギルバート 出演:若林映子 浜美枝 丹波哲郎 ドナルド・プレザンス
もうね、「日本の描写がうんたらかんたら」以前に、あのヒュー・ジャックマンが日本の町にいる時点でいろいろおかしなことになっているのだ。
だってアメコミヒーローなのに、バックに映ってるのはそのへんのふつうの日本人の通行人なので。
とても近未来が舞台とは思えませんが。
アメコミヒーローということでは、ウルヴァリンはあの“赤いマントの人”と同次元の人なんだけどな。
でも、もしも上野駅やアキバにスーパーマンがいたら「あぁ、コスプレね」と思うだけだろうけど、ヒュー・ジャックマンが歩いてたら二度見するでしょ?w
大阪のドンキでスティーヴン・タイラーがふつうに買い物してる以上の異常事態である。
ちなみにヒュー・ジャックマンは来日時に銭湯に入ったら「銭湯ではタオルで前を隠すのが決まり」と注意されて、ちょっとしょんぼりしたんだとかで。
かわええなぁ、ヒュー様!(^o^)
いやいや、別に前を隠す決まりなんてないですから。
銭湯の男湯入りゃ、モロ出しでぶらつかせてるおっさんやじいちゃんたちがいっぱいいますがな。
ヒュー・ジャックマンのお宝があまりに立派すぎたんで目立っちゃったのかな。
そういえば前作『ZERO』でも全裸で走ってたっけ。
今回の『SAMURAI』でも、風呂でむりやりおばさんたちにデッキブラシでこすられて「…屈辱的だった」とつぶやいてます。お宝は映ってないけどね。
さっきからヒュー・ジャックマンの珍古の話しかしてませんが。
メイキングは面白そうだよなぁ。
新幹線の車内のセット。さすが大掛かりですね。
手前に倒れてるヤクザがwww
「面白かった」という人の意見も、また「つまらなかった」という人の意見もわかる気がするのです。
まず、冒頭で描かれる長崎への原爆投下の場面から、日本人としてはけっこうな緊張感が走る。
1945年8月9日、日本軍に捕らえられていたウルヴァリンは、自分を助けようとした日本兵ヤシダを原爆の爆風から守る。
とりあえず、不死身のミュータントをどうやって捕らえたんだよ日本軍は、というツッコミはおいといて、この描写がまたなかなか『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』ばりのトンデモなさで、B-29が飛来したと知ると日本軍将校たちは「ヒロシマとおなじだぁ」とか言って観念して切腹しようとする。
ヤシダはアメリカの捕虜たちを逃がして井戸に閉じこめられていたウルヴァリンも助けだそうとするが、そこで原爆が投下されて炸裂。
投下を目視で確認できるような距離で爆発した原爆の熱線を浴びても火傷一つしないヤシダ。
そして井戸を抜け出したウルヴァリンとともに、ふたたび井戸にむかって衝撃波から走って逃げる(!)。
全速力で走れば原爆の爆風と炎からも逃げられる!
瞬間的な治癒能力のあるウルヴァリンはみずからが盾となってヤシダを守り、ヤシダは追っかけてきた炎の熱で頬を焼かれたものの一命をとりとめる。
これ、文句言ってる人をあまり見かけないけど、核兵器に対する知識がいまだにこの程度の国が大量破壊兵器を保有している恐怖をひしひしと感じます。
爆発力がちょっとばかりデカい爆弾、ぐらいの認識なんだろうな。
「はだしのゲン」読めよア○公ども!!あんたらの国でだって原発事故もあったのに、なんでいつまで経っても無知なままなの?
それはいまでは僕ら日本人にもそのまま返ってくる言葉ですけど。
それでも極限的な状況のなかで国や時代を越えて心が通い合ったふたりには、ちょっと胸打たれたりもしたのですよ。
ヤシダはローガンのことをしきりに“クズリ”と呼ぶ。
クズリとはイタチ科の獰猛な動物のことで、英語ではそのものズバリ“ウルヴァリン”。
ヤシダは「不老不死不滅」という、日本かぶれのガイジンが彫ったタトゥーみたいな文句の入った刀をウルヴァリンに譲ろうとまでする。
「いつか受け取りにくる」と言って、それを固辞するウルヴァリン。
キャー!ヒュー様抱いてー!!!
しかしだな、またのちほど述べますが、この爆心地での美しい友情をこの映画の作り手たちは最後にぶち壊すのだ。
じつは非常に問題のある人物ヤシダさん。
東京で年老いたヤシダと再会するローガンだったが、ヤシダはガンで余命いくばくもない状態だった。
そして彼はローガンに「永遠の命の苦しみから解放してやる」と言う。
「え、なんのこと?」と寝耳に水のローガン。
このあたりのローガンとヤシダの会話の噛み合ってなさも、観ていてなんとも不安にさせられる。
その夜、ヤシダは死んだ(回文ではありません)。
ヤシダの葬儀(葬儀会場は増上寺!)で、ヤシダの孫娘マリコは僧侶に化けたヤクザたちに殺されそうになる。
僧侶の腕に刺青があることに気づいたローガンが間一髪で割って入り、マリコを守るための一大決戦。
マリコの幼馴染、ハラダ(ウィル・ユン・リー)も弓矢で加勢する。
日本人を演じるウィル・ユン・リーの日本語がカタコト、と失笑を買ってますが、そんなことは知ってて観てたので、逆に「けっこう日本語うまいじゃん」とか思ってしまった。
この俳優さん、『007 ダイ・アナザー・デイ』では北朝鮮の将軍様の息子を演じてた人。
現実の将軍様の息子はもっとデ○でブサ○クだけどな!w
マリコとは姉妹同然に育てられて、いまではボディガードも兼ねるユキオも応戦する。
ユキオには『BLOOD THE LAST VAMPIRE』のヒロインのイメージも入ってるのかな。
このユキオを演じる福島リラさん、大変失礼ながら、そのじつに個性的なフェイスをはじめて予告篇で観たときには「…VFX?」と思ってしまった。
なんというか、松田美由紀と神田うのと映画『スプライス』のモンスターおねえさんが融合したようなご尊顔で…。
ご本人やファンのかたがたにはすみませんが、最後まで彼女の異形の顔には慣れることができなかった。
でもモデルさんだそうで、スタイルはスラッとしてて足も長いですが。
彼女が披露するアクションはじつに見ごたえあったし、今後もぜひアクション映画でも活躍してほしいと思いました。
ウルヴァリンとユキオの善戦によってマリコは無事だったが、前夜に謎の女によってその治癒能力をうばわれていたウルヴァリンはヤクザの凶弾をうけても傷が治らず、手負いのままマリコと長崎にむかう。
新幹線のなかでヤクザに襲われて高速走行中の新幹線の上で大バトルを繰り広げたり、途中下車してマリコとラブホに入ったりと、オモシロ場面はつづく。
ドス一丁でミュータントと互角に戦うヤクザの戦闘力の高さといい、地方都市のラブホで回転ベッド完備の「火星探検」ルームといい、なんかもうカオティックな様相を呈している。
ミュータント並みの戦闘力のヤクザ。ラブホの窓には「ロケット・ガール」の文字が。
だけど新幹線でバトルとかホテルといえば、かつてクリストファー・ランバート主演で東海道新幹線のなかで原田芳雄が夏木マリ率いるニンジャ軍団と戦ってた『ハンテッド』(1995)という映画があったのを思いだす(舞台は名古屋)。
あの映画も監督さんは「日本映画が大好き」でニッポンにオマージュを捧げて映画を撮ったのに、日本の観客に爆笑されてしまって憤慨していたというちょっと切ないエピソードがあるけど、映画の作り自体は今回の『SAMURAI』だって大差はない。
『ハンテッド』 監督:J・F・ロートン 出演:ジョン・ローン ジョアン・チェン 島田楊子
まぁ『ハンテッド』がヒットしなかったのは、主人公であるはずのクリストファー・ランバートがまるで役立たずだったからだが。
早すぎた作品だったのかもしれない。
いや、いまでも笑われるだろうけどさ。
ウルヴァリンがマリコとおとずれる長崎は、実際には広島県福山市の鞆の浦で撮影されている。
長崎という設定なのにどうして広島で撮ったのか不思議で「原爆つながりかよ」と思ってたんだけど(もちろんいろいろとロケ地の都合もあるんでしょうが)、監督が「小津安二郎の映画にオマージュを捧げた」と言ってたのを思いだして納得。
小津監督の『東京物語』の舞台がおなじように瀬戸内海に面した広島の尾道だったからなんですね。
ヤシダの別荘だという日本家屋でウルヴァリンがマリコとちゃぶ台を囲んで食事する場面(何度もマリコに直されるけど、食い物に箸ぶっ刺しっぱにしてたら行儀悪いことぐらいさすがにガイジンにだってわかるだろ^_^;)が例の“オマージュ”なんでしょうな。
もっとも、なんでカギ爪男が主人公のVFXアクション映画で小津作品にオマージュを捧げなければならないのかよくわからんが。
ちなみに、監督のジェームズ・マンゴールドの作品は僕は『“アイデンティティー”』以降ぜんぶ劇場で観てますが、それはたまたまでこれまでこの監督の名前を意識したことは特になかった。
だって、実在のカントリー歌手を描いた『ウォーク・ザ・ライン』や渋めだが見ごたえある西部劇『3時10分、決断のとき』と、トムクルとキャメロン・ディアスがスパイ映画のパロディを演じる『ナイト&デイ』、そしてこの『ウルヴァリン:SAMURAI』がおなじ監督の作品だなんてちょっと信じられないもの。
でもこれまでの作品はどれも楽しめたから、なんだかんだいって手堅く撮る人なんじゃないかと期待してました。
しかしどうやら「ニッポン」を舞台にするとどんな巨匠でも「トンデモ映画」を撮っちゃうようだ。
かの『ワイルドバンチ』の名匠サム・ペキンパーだって、現代劇の『キラー・エリート』でニンジャとか出して日本の観客を困惑させた。
ハッキリ言って中盤はちょっとかったるかったです。
マリコさんとまったりムードの場面など、人によっては楽しめたかもだが(なぜか戸田なっち風)。
でもふつうに映画として観てたら、新幹線のバトル以降なかなかアクションがはじまらないんで僕はちょっと退屈してしまった。
『ZERO』ではウルヴァリンがバイクに乗ってヘリと戦う派手な場面だってあったんだから、マリコが連れ去られるところなんかも車に追いすがってヤクザたちと戦うぐらいしてもいいんじゃないの?
今回の『SAMURAI』は、ウルヴァリンの不死身の回復能力がうしなわれていつものように豪快な戦いができないのが逆に新鮮という見方もあるけれど。
全体的に生身の人間のアクションっぽいんだよね。
そのあたりは監督も意識して撮ってるんでしょうけど。
だからか、どうも敵がどいつも小粒で。
東京で心配するユキオをよそに、マリコはいったいなんの根拠があるのか自信満々に「ここならぜったい大丈夫」と言い張る。
でもそんな彼女は、ウルヴァリンさんとベッドインした翌朝に追ってきたヤクザに連れ去られる。
…舞台が日本だからとか、そういうこと抜きにしてもふつうにこの映画のシナリオはダメでしょう(;^_^A
なんでヤクザたちは無防備で寝ていたローガンを殺しておかないのか?って話だし。
そして真田広之演じるマリコの父シンゲンは、父親であるヤシダが自分を差し置いて孫娘のマリコを会社の跡取りにすえたことに怒り、実の娘を殺そうとする。
意味がよくわからん(;^_^A
日本の男は変にプライドが高いので実の娘だって平気で手にかけるのだ、と言いたいんだろうか。
これ、ふつうのドラマだったらありえない展開じゃないか。
真田広之は現在52歳だけどとてもそうは見えないので、彼よりも背が高いマリコの父親といわれても説得力がまるでないし。
ってゆーか、これなんの映画だっけ。
もうさ、ウルヴァリンがいったいなんのために戦ってるのかさえ途中でよくわかんなくなってくるのだ。
これは『ブラック・レイン』で、マイケル・ダグラス演じる主人公が後半でヤクザの助っ人みたいなよくわかんないポジションになって(相棒の仇討ち、という理由はあるが)ヤクザの抗争に参戦するのと同様に、「X-MEN」の世界とはまるっきり関係ない話になっていく。
ようするに任侠映画の世界観を取り入れてるんでしょうね。一宿一飯の恩義がある客人が仇討ちに助太刀する、みたいな。よく知らんけど。
これも真田広之が出ていた『ラスト サムライ』だって、おなじような話だし。
つまり、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』がSF版『ダンス・ウィズ・ウルブズ』だったように、これも「白人酋長モノ」の亜種なのだ。
ウルヴァリンは「日本のために!」とか演説カマしたりしないが、ことあるごとにヤクザたちから「ガイジン」と呼ばれながらも善意によって野蛮な土人たちからうら若き日本人女性を救おうとする。
なぜか上半身裸になって銃を撃ちまくるヤクザたちも、その背中に彫られた刺青は欧米の人間たちから見ればちょうどマオリ族のそれのように民族の誇りの象徴みたいにうけとられているんだろう。
そのわりには、この映画に出てくる日本人の男たちからは「誇り」など微塵も感じられないんだが。
この映画には主要キャラクターに一人だけ白人女性がいて、それはヤシダに仕えていたドクター・グリーン(スヴェトラーナ・コドチェンコワ)。またの名をヴァイパー。
ヴァイパーはじつはミュータントで、ウルヴァリンから治癒能力をうばったのも彼女だった。
『SAMURAI』でウルヴァリン以外にミュータントとして登場するのは彼女とユキオのみ。
ショッカー怪人ちっくな毒蛇女のヴァイパーはじつに悪役らしい悪役で(しかも終盤は“脱皮”してツルッパゲになる)、最終ステージではユキオと一騎打ちする。
ところで先ほど少し触れたが、この映画に登場する日本人はユキオとマリコを除けばことごとくクズとして描かれている。
特に男性が。
シンゲンもハラダも(コイツは一応最後にマリコに報いるが)、ローガンを助ける獣医までもが卑屈で魅力に乏しい。
それは『アバター』で描かれた衛星ナヴィの住民の男たちが、どいつもこいつも(ヒロインの許婚ですら)たいした奴ではなかったのと酷似している。
一見するとその星とかその国の味方をしているようでいながら、その実、異邦人である主人公以外の男たちはみな腰抜けか卑怯者として描かれている。
それは僕の被害妄想ではなくて、ちゃんと検証してもらえば証明できることだと思う。
ヒュー様演じるローガン=ウルヴァリンはカッコイイから、ちょっと気づきにくいかもしれないが。
白人女性が悪役として登場したのは、ヒュー・ジャックマン以外はアジア人キャストばかりのこの映画に華を添えるためもあるだろうし、日本人ばっか悪役になってるとバランス悪いのでそうしたんじゃないだろうか。
そして極めつきが、ローガンとのあいだに友情が芽生えたはずのヤシダの描かれ方。
ヴァイパーに捕らわれたマリコを助けだすために、ローガンは雪国にやってくる。
日本は縦に長いので電車は上りと下りしか走ってないし(by シンゲン)、秋でも場所によっちゃ雪降ってます。
ヤシダ産業の施設にむかうウルヴァリンだったが、ハラダ率いるニンジャ軍団によって仕留められて、捕らわれの身となる。
彼の前にヴァイパーが姿を見せて、すべてを語る。
やがてウルヴァリンの両手の刃とおなじ超硬化金属アダマンチウムによって作られた“シルバー・サムライ”が動きだし、ウルヴァリンを始末しようとする。
そこに救助にあらわれたヒラメちゃん、じゃなくてユキオ。
毒蛇女とユキオ、シルバー・サムライとウルヴァリンの戦い。
このへんになって、やっと見ごたえあるアクションシーンが。
でもマリコさんがローガンを助けるためにシルバー・サムライを素手で押し倒してたように見えたんだが…。
よくわかんないけど、あのデカい鎧兜みたいなのはロボットなんだろうな、と思ってたら、ウルヴァリンがそいつが持ってたこれまたデカくてなんでも斬っちゃう刀をうばって、奴の首を落とす。
嫌な予感が…。
そのなかからあらわれたのは、死んだはずのヤシダだった!!
この老人は、永遠の命を持つローガンに目をつけ、その能力を我が物にしようとしていたのだった。
アダマンチウム製のシルバー・サムライに乗って、ぜったい折れないはずのローガンの腕の刃を折って彼から精気を吸い取って若返っていくヤシダ。
逆にローガンの顔色は次第に土気色になっていく。
「恩を仇で返す」とはこのことである。
それは真の日本人ならば「末代までの恥」とする行為だと思うんだがな。
かんぜんに「老人Z」と化して暴走しだしたヤシダは、不快な笑い声とともに勝利を確信する。
その彼を、ローガンと一夜だけ愛し合った孫娘マリコが短刀で一突き。
「違…俺じゃない…」と「北斗の拳」のモヒカン野郎状態のヤシダに復活したローガンがとどめを刺す。
ぶざまに谷底へ墜ちていくヤシダのじいさん。
岩肌にドゴッ!と当たって乗ってたシルバー・サムライごと分解するさまがじつにマヌケ。
チーン。ジジイ、今度こそほんとに終了。
まぁ、この場面を「ギャグ」とうけとめて笑う人もいるだろうけど。
でも、僕は観ていてウルヴァリンの活躍に喝采を送れませんでしたよ。
そりゃヤクザやニンジャを倒すのはいいけどさ。
なんで遠い昔、主人公に命を救われた男が彼を裏切るような話を作ったんだろう。
日本人ってのは、そんな不義理なことをする奴らだと思ってんのか?
卑怯な「パールハーバー・アタック」をした奴らだから?
この映画には原作コミックがあるらしいけど、知りませんそんなこと。
とにかく僕は観ていてなんだか不愉快でした。
別に日本人を敵の黒幕にしたいなら好きにすりゃいいけど、せめてカッコイイ悪役にしてくれよ。
いくらコミックが原作だからって、ボケたじいさんがキャラメルマンみたいなメカ侍に乗って主人公を裏切る、ってそんなフザケた話があるかよ、と。
長崎の原爆投下という史実まで利用してさ。
真田広之さんも、ほんとは殺陣をつけるのにも貢献してるのに、彼が演じるシンゲンとかいう名前だけは勇ましい男は、実の娘を妬んで殺そうとするような卑劣なキャラだし。
日本人の俳優以外でも、ハラダ役のウィル・ユン・リーもマリコの婚約者で赤パン一丁でローガンにプールに投げ落とされるノブロー役のブライアン・ティー(この人は『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』でも憎まれ役の日本人を演じていた)も、アジア人の男たちはけっきょくはみんなマッチョなヒュー・ジャックマンにはまるでかなわない、なさけない役回りを演じている。
僕はこの映画、なんだかんだいって楽しみましたよ。
ほかのかたがたとおなじく。
これまでこうやってツッコミ入れてきたのもその一環だし。
僕はヒュー・ジャックマンをかっこよくてセクシーな俳優さんだと思うし、ハリウッドのSFやアクション映画も好きです。
でもこの映画からは、親愛の情を示したつもりで相手を刺し殺してるような無神経さを感じるのだ。ヤシダのように。
この映画を観て「面白かった」という人々を僕は悪しざまにいうつもりはないけれど(実際面白いところも多々あるし)、くどいようだけど、日本男児として映画のなかで日本の男たちが軒並みなさけないバカとして描かれてるのは、この映画に参加した日本人男性たちに対してもものすごい侮辱だと思うんで。
たぶん、この感想を読んでくださってるかたがたも予想だにしなかった急転直下ぶりで、先日の『マン・オブ・スティール』につづいてアメコミヒーロー物で必要以上に全力でキレてますが(;^_^A
でもこの『SAMURAI』ではヒュー・ジャックマンが日本のいろんなところで右往左往しているという不思議な光景を目撃できるんで、そこは単純に面白いと思います。
ヒュー・ジャックマンがウルヴァリン役で出演した作品はこれで5本目(ワンシーンだけ登場した『ファースト・ジェネレーション』も入れたら6本目)。
かつてのショーン・コネリーの007やクリストファー・リーヴのスーパーマンのように、多くの人々がキャラクター名から本人の顔を真っ先にイメージするような最高の当たり役となっている。
ヒュー・ジャックマンはあと何本か出たらウルヴァリン役を引退する、という話もあったりするようで、そうなったら寂しいけれど、ウルヴァリンというのは老いないキャラクターなのでまだ若々しさが残るいまのうちに一区切りつけておくというのは、1人の俳優としても、キャラクターのためにもいい判断だと思います。
なんだかんだと文句垂れてきましたが、シリーズ物は途中で飽きて離脱してしまうことが多い僕にしては「X-MEN」シリーズはこれまで全作お付き合いしているし、今後も観つづけるつもりです。
それだけの魅力があるってことですよね。
そしてその魅力にヒュー・ジャックマンが演じるウルヴァリンの存在が大きく貢献してくれているのは言うまでもありません。
やっぱり彼のいない「X-MEN」はちょっと想像できない。
この映画のエンドロールの途中で“あのおじいちゃんたち”が出てきます。
考えてみりゃ、ガンダルフとピカード艦長って、最強のコンビだよな。
来年が待ち遠しいです。
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