石川淳一監督、戸田恵梨香松坂桃李寺島進浜辺美波滝藤賢一浦上晟周菜々緒ユースケ・サンタマリア小澤征悦高嶋政伸大和田伸也富司純子里見浩太朗千葉真一ほか出演の『エイプリルフールズ』。



4月1日、とある病院の清掃の仕事をしていたあゆみ(戸田恵梨香)は、1度だけ肉体関係を持った男・牧野(松坂桃李)に電話をして妊娠を告げる。万引き癖のある小学生・理香(浜辺美波)はヤクザ二人組(寺島進、高橋努)に誘拐されてあちこち連れ回される。他にも自分を宇宙人だと信じている中学生(浦上晟周)や高額の料金を取って詐欺で警察に捕まった占いの老婆(りりィ)、仲良しの大学生二人組(窪田正孝矢野聖人)、やんごとない身分という初老の男性とその妻(里見浩太朗、富司純子)など、さまざまな人々が織りなす“嘘”を介した群像劇。


まず前もってお断わりしておきますが、この映画をすでにご覧になってお気に入りのかた、またこれから観ようと思っていてとても期待しているかたはこの感想はお読みにならない方がよろしいかと。

1ミリも褒めていませんので。

ってゆーか、「つまらない」を連呼します。

つまらない映画を「つまらない」としか表現できないような感想はつまらないと自覚していますが。

ただし、僕があれこれ難癖つけているのはあくまでも「映画」に対してであって、出演している俳優さんたち一人ひとりについてではありません。皆さん、監督の指示通りに演じていらっしゃるだけでしょうから。

ですから出演者のファンのかたがたはくれぐれも誤解なさらぬよう。


ここしばらく2週間ほど映画を観られなくていいかげん禁断症状が出ていたんですが、観ようと思っていたアカデミー賞受賞作品をやっているのがちょっと遠い映画館で上映開始時間の都合もあってこの日は観られずやむなく断念、一番近い映画館のともかく手っ取り早く観られるこの作品を選んだのでした。

なのでこの『エイプリルフールズ』を作ったのがTVドラマ「リーガル・ハイ」の演出・脚本コンビだとか、出演者たちも関係者が多いとかいったことにはまるで興味がなく、期待もしていなかった。

予告篇を観て感じたのは、TVでお馴染みの役者さんたちが繰り広げる騒々しいコメディなのかな、ということ。

何も考えずに楽しめるならそれはそれで結構だし、評判も悪くはないようだから気軽に臨んだんですよね。

が、地雷を踏んでしまった。

…う~ん。久々に映画を観ながら後悔した。無理してでもアカデミー賞関連作品の方にしておけばよかった、と。

帰りの電車の中で、貴重な時間とチケット代を無駄にしたという悔しさがふつふつと湧いてきた。

「これでいいのか!?」とこの映画の監督と脚本家を10時間ぐらい問い詰めたい衝動に駆られながら、自分の安易な妥協による選択の誤りに忸怩たる思いが募ってきた。

作品が面白くなかったんなら「つまらなかった」の一言で終わりにしてとっとと忘れればいい、という考え方もある。

だけど僕は劇場で鑑賞した映画については、つまらなかったのならどこがどうつまらなかったのか書き記しておきたいので、あえて思いだせるだけ列挙してみます。

それは自分への今後の戒めのためでもある。

では、これ以降ネタバレもカマしますのでご注意くださいませ。



映画の冒頭でTV画面から、昔、少年が海で行方不明になって死亡したと思われていたが、数十年経って海外で記憶を失ったまま生活していた、というニュースが流れる。

それで現われたのがコントのメイクみたいな汚れ方をした顔でカタコトの日本語を喋るヅラ丸出しの生瀬勝久だったので、その時点で早くもイヤな予感がした。




次にそれをTVで観ながらベッドに寝そべって芋けんぴを齧る戸田恵梨香が映る。彼女は外科医の松坂桃李に電話して妊娠していることを伝え、認知してくれと頼む。ベッドの中の女と一発キメたばかりの松坂は一笑に付して電話を切る。

戸田は腹にタオルを巻いて、松坂が先ほどの女性とは別の菜々緒演じるCAと会っているレストランに向かう。

スミマセン、いつもなら役名で書くところですが、今回は演じている俳優さんの名前をそのまま書きます。その方がキャラをイメージしやすいので。


僕はこの映画、てっきり「コメディ」だと思って観始めたんですが、どうやらそうではなかったようで。

いや、コメディなのかもしれないけど、僕にはほとんど笑えなくて非常に困った。

菜々緒がガニ股で「うっそぴょ~ん」と言ってるショットが予告でも使われてるけど、ああいう一発ギャグみたいなのの連打を想像してると全然違うんですよね。

たまにクスクス笑い声も起きてたけど、「うっそぴょ~ん」では映画館の客席は耳鳴りがしそうなほど静かでした。サムかった。やらされた菜々緒さんが気の毒。

4月1日のエイプリルフールにそれぞれの登場人物たちがついた嘘が絡まりあってさらなる嘘へと雪だるま式に膨れ上がっていく、そんな爆笑コメディ(笑)を想像していたんですが、実際にはまったく違うものを見せられたのだった。

いや、予想していたものと違ってたっていいんですよ。面白ければ。

でも唖然とするほど面白くないんだ、これが。

致命的なのは、一応主人公であるはずの戸田恵梨香のエピソードが心底どーでもよく感じられてしまったこと。

 


どうやら彼女は人とのコミュニケーション能力に難があるらしくて、そんな彼女が出産する場面や自分を騙した松坂桃李との関係が変化していく過程が感動的に描かれている…っぽいんだけど、そしてそこに「泣けた」と言ってる人もいたりすんだけど、ほんとにゴメンナサイ、なんだこれ、と。

僕はTVドラマやそれに携わっている人々をコケにするつもりはないんですが、でもなんでそんなに人気があるのか皆目理解できない作品がいくつもあるのは事実で、この映画もフジテレビの作品だし、似たものを感じるんですよね(もっとも、僕が好きな『幕が上がる』もフジですが)。

テレビ的な“愛と感動と爆笑エンターテインメント”。

だけど癌に罹った富司純子がアメイジング・グレイスを唄う場面で、僕は虫唾が走ってしまって。

あぁ、キツいな、と。

なんでもかんでも安い「感動」にもっていこうとするのは、ある種の邦画(特にTV局制作の作品)における深刻な病いだと思います。

この映画に登場する人物たちは誰一人として現実に存在している人としてのリアリティがないし、じゃあコントとして面白いかといったら笑いも不発だからどこを楽しんだらいいのかまったくわからないんです。

富司純子は掃除のおばちゃんにしては物腰が上品過ぎるし、里見浩太朗だって同様に「普通のサラリーマン」にはとても見えない。

そこはしっかり演じ分けなければ「嘘」をついたことが観客に伝わらないでしょう。

 


それに、里見浩太朗が自分たちはさる高貴な一族の人間だなどとつまらないうえにイミフな嘘をついたためにバーガーショップで起こる騒動は、笑える以前に彼ら夫婦に媚びへつらい土下座する「しもじもの者たち」の卑屈さに辟易してしまった。

江戸時代かよ。

寺島進の元妻(山口紗弥加)は娘が元夫に誘拐されても警察に「ただのバカですから」と言うだけで取り乱しもしないけど、元夫だからってヤクザだし誘拐だし、その反応はおかしいでしょ。

寺島進が舎弟を殴りつけて血まみれにするのも、まだ小学生の実の娘をソープに連れていってプレイの現場を見せるのもひどく陰惨な印象を残す(理香を演じている浜辺美波は実際には中学生だが、それはそれでまた別の変態性を生じさせている)。




なんであんな場面入れたのかほんとに理解に苦しむ(風俗業を「女なら誰でもできる仕事」みたいに言ったのを懲らしめるためなんだろうけど、だからなんで小学生にそんなこと言わせるんだ?)。

指名手配の殺人犯(大和田伸也)が銃で撃たれるところもそうだけど、安易に血を出し過ぎだし。

全体的にこの映画は画面が薄暗くてなんだかサスペンス映画みたいなんですが、映像のルックの選択を完全に間違えている。

大学生二人組のホモホモしい場面で顔が逆光になってて、コミカルなはずの場面が不穏な空気に包まれてるし。




自分はゲイだと嘘をついたら相手が本物のゲイでカップル成立、とか…笑いのレヴェルとしてもどうなんでしょうか。

矢野聖人が窪田正孝にベッドで脱がされながら観念して“無の境地”になっていく顔には不覚にも笑っちゃったけど。

戸田恵梨香にしても、対人恐怖症だからって何かといえば「ア゛ァァァ!!!」とわめいて銃ぶっぱなすだけなのも芸がないし、見てても彼女の孤独に共感も覚えない。

やたらと芋けんぴ齧ってるけど松坂桃李に勧められたからってだけで特に意味はないし、芋けんぴのステマか、しつこ過ぎて逆にネガキャンになってやしないか。

だいたい女の子がトカレフを片手で軽々と撃っちゃうのもどうかと。腕が持ってかれちゃうよ。

コントなんだから、コメディなんだから細かいことなんかどーだっていいんだよ、といわれるかもしれないけど、そうだろうか。

さっきも言ったけど、僕には笑えなかったんだよね。NHKでやってた三宅裕司の「コントの劇場」の方がまだ台詞のやりとりでよっぽど笑える。

僕はこの映画、脚本があまりに適当過ぎると思う。

そりゃ「裸の銃を持つ男」シリーズとかメル・ブルックスが撮るようなドタバタコメディだったら極端にデフォルメが効いたキャラが出てきたって構わないと思うけど、これはそういう作品ではないし。もうちょっと現実寄りのお話でしょう。

だったら、むしろ細部こそちゃんと描かなければ。


終盤に、万引き小学生によって芋けんぴが入ったバッグと拳銃が入ったバッグが取り替えられていたという種明かしがあるけど、戸田恵梨香が寺島進演じるヤクザと小学生の娘と背中合わせであのラーメン屋にいた、というのは後出しジャンケンみたいに最後に描かれるだけで前もって伏線が張られてたわけじゃないから(椅子に座った後ろ姿は映ってるかもしれないが、そういうのは伏線とは言わない)「をを、そうだったのかぁ!」と感心もしないし笑えもしない。

バッグ替えられたからってなんで急にトカレフ撃てるのかなんの説明もないし。

とにかく戸田恵梨香のエピソードが死ぬほどつまらない。

コミュ障は芋けんぴ食いまくって銃撃ちまくる、ただのバカってことなのか?

レストランのシーンは本来なら小劇場演劇の一幕劇みたいに台詞の応酬で笑わせたり泣かせたりしなければならない、かなり難易度の高い場面だと思うんだけど、しょっぱなからうまくいっていない。

場を仕切りたがるユースケ・サンタマリアも気の利いたこと言ってるつもりでちっとも気が利いてないし、ピストル持った女に対してやけに落ち着き払ってるオーナーシェフ(小澤征悦)も何者だお前、って感じで。




台詞も展開も面白くないんだから面白い場面になるはずがない。

ワンシーンだけ出てくる小池栄子がTVドラマの内輪ネタをやってるそうだけど、そーゆーのほんとにどうでもいい。

顔の売れてる役者を大勢出せば場がもつだろう、っていうひと頃の三谷幸喜のような観客をナメた感じがぷんぷんとするんですよね。

これに比べたら三谷さんの『ステキな金縛り』の方がまだマシだった気が(あの映画も大概でしたが)。

脚本・演出のマズさに加えて編集のテンポが悪過ぎるので、終盤に各エピソードがどんどんカラみ合っていって大団円にもつれ込む、というカタルシスが皆無。

事件が一件落着したあとも、病院で松坂桃李が戸田恵梨香のことを本当はどう思っているのか、なんていう極めてどーでもいいことを延々やっているので「まだ終わんねぇのかよ」と思わず客席で腕組みしてしまった。

一番エピソードとしてマシだったのは寺島進のパートだったので、他の余分なエピソードはいらないからあの話だけで1本の作品にすればよかったのに。『菊次郎の夏』のようなヤクザの父親と小学生の娘の道中記、みたいな。


エイプリルフールって、嘘で人を笑わせる日でしょう。「スパゲティが生える木」とか「目の前にUFOに乗った宇宙人が現われる」とか、ジョークとしての「嘘」をつく日なんだよね。

笑えない嘘はただの嘘でしかなくて、そんなものは面白くもなんともない。

冒頭でTV局が報道していた「海で行方不明になって死んだと思われていた少年が海外で記憶喪失で発見された」というのが実はエイプリルフールの冗談だった、ということが判明して最後にアナウンサーや生瀬勝久演じる劇団員が謝罪するんだけど、この嘘の何が面白いんでしょうか。ほんとに意味がわからない。何がしたかったの?

笑える悪ふざけはジョークといえるけど、これは単なる捏造でしかない。

現実に朝の情報番組でこんなことやったら立派な炎上事案で、確実に誰かの首が飛ぶでしょ。

じゃあこれは何かの皮肉なのか、といったら、多分作り手はそんなに深く考えていない。

エイプリルフールというものについて何かつきつめて考えているわけではなく、単に4月1日は嘘ついてもいい日だからってんで、登場人物たちに嘘つかせただけでしょう。

頭のてっぺんの毛が鬼太郎の妖怪アンテナみたいに突っ立った中学生が集合住宅の屋上で「ビヨーン、ビヨーン」とUFOを呼ぶ『中学生円山』みたいなエピソードも、最後にはほんとにUFOがやってきました、という意外性の欠けらもないオチで幕を閉じる。

最後まで笑えないエイプリルフールでした。

それとすごく気になったのが、この屋上でUFOを呼び続ける中学生の場面だけやけに空が暗いのね。明らかに他の場面と撮ってる時間帯が違う。

だから次のシーンで空がまた明るくなるので混乱する。すべてが4月1日の出来事のはずだから時間が行ったり来たりしてるのかもしれませんが、あの終盤の処理は完璧に失敗してると思います。天気も違うし、別の日に撮影しているのが丸わかり。


ここしばらく劇場でいい映画に恵まれたので油断してしまった自分に腹が立つ。

笑えない自称“コメディ”や感動できない自称“感動ストーリー”は鼻で嗅ぎ分けて排除していたはずなのに。

ほんとにもう、これは一体いつの時代に作られたんだろう、という代物でした。

頭のおかしい妊婦とニセ医者とか妻が不治の病いの老夫婦の話とか、20年ぐらい前のTVドラマみたいで。

でも多分、この映画を1990年代に観たとしても笑えも泣けもしなかったと思う。時代を越えるスベり芸でした。

テレビでやってたら確実に途中でチャンネル替えてる。

松坂桃李の引き締まったお尻が拝めるし、「花子とアン」の朝市君も男子同士でカラミを見せるんで、そういうのが好物な人はご覧になったらいいんじゃないですかね。

他にも古田新太木南晴夏など、NHKの朝ドラ経験者たちが一杯顔出すし。

僕にとっては今のところ、今年のワースト1位候補ですけどね。

やはり自分に嘘をつかず最初の直感を信じよう、と強く思いました。



※戸田恵梨香さんと松坂桃李さん、ご結婚おめでとうございます。


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