「ベロを左にやってもらっていいですか」。
時々、歯医者で聞かれる言い方です。
私の知る歯医者さんではベロとおっしゃいます。
「舌」だと「下(あご)」と間違うからでしょうか。
子供が聞いても間違えないので、「べロ」でよいと思います。
それはさておき、この場合は
「ベロは左にお願いします」で通じます。
「左にやってもらっていいですか」と許可を求める必要はないのです。
医療関係では、近年「脱権威」を目指し
「サービスとしての医療」を志しているからか
不自然な敬語が以前より目立つように感じます。
検査の際
「お口を開けてもらっていいですか」
→◯「お口をお開けください」
「体温を測ってもらっていいですか」
→◯「体温をお測りください」
「~してもいいですか」は、自分の行為について、相手に許可を求める場合に使います。
例えば「タバコを吸ってもいいですか」という具合です。
これに「もらって」をつけて「~してもらっていいですか」となると
「私のためにあなたに~してもらっていいですか?」と許可を求めるわけです。
そして許可を求めるということは、
相手に「イエス」か「ノー」の選択の余地があるということです。
しかし、「ベロを左にやってもらっていいですか」と言われて
「ダメです」とNOを言う人はいないでしょう。
右に舌を移動すると血だらけになってしまいます。
検査で「お口を開けてもらっていいですか」と聞かれて
開けない人はいないでしょう。
何のために病院に来たのだか分かりません。
体温についても同様です。
「~もらっていいですか」は「~してください」を高飛車な依頼の仕方だと受け止める
過剰な反応から近年じわじわと増殖している表現です。
医療関係だけでなく、他にも、広く使われています。
レジでクレジットカードのサインをする際に
「サインをしてもらっていいですか」と言われます。
サインをしないとクレジットカードで買うことができないのですから
拒否するのはありえないことでしょう。
「~していただけますか」と敬語にするのも堅苦しいと考えてしまい
依頼ではなく許可のかたちをとった結果しょうね。
しかし、かえって変な日本語になってしまい、逆効果です。
「イヤって断ったらどうするの」と思われかねません。
選択の余地がないのに、許可を求められるために
違和感を持つのです。
「やんわりと言っているようで実は強制的」と感じさせる
不思議な許可の表現を使うよりも
さりげなく「~してください」「~していただけますか」という
依頼の表現を使うほうがすっきりします。
──────ポイント
☆相手に選択の余地がない場合に「~してもらっていいですか」と
許可の表現を使うのは、押し付けがましいと感じられます。
「~してください」「~していただけますか」のほうが
すっきりと素直に受け止めてもらえるでしょう。
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