「 致す」と「いたす」どちらが正しい?
メールやビジネス文書を書いていて「いたします」か「致します」で迷う時はありませんか?
絶対的なルールではありませんが、ある程度決めておくほうが混乱が起きずにすみそうです。
今回は、そんな使い分けのヒントをお届けしましょう。
「いたす(致す)」の意味は?
「いたす(致す)」を辞書で引くと、次のような意味があります。
(1)と(2)は本動詞としての意味です。
(3)は、謙譲の働きを加える補助動詞としての意味です。
補助動詞とは、動詞が本来の意味と独立性を失って、付属的な意味を添えるものとして用いられるもののことです。
「お話しいたす」(「お話しする」の謙譲語)や「ご説明いたす」(「ご説明する」の謙譲語)の用法での「いたす」は、この補助動詞にあたります。
この場合の「お話しいたします」「ご説明いたします」は、ビジネスシーンではひらがなで書かれていることが多いかもしれませんね。
何らかの基準があるのでしょうか。あるいは、ひらがなが正しいのでしょうか。
「いたす」「致す」、どちらも正しい
結論から言うと、国語的には「いたす」も「致す」も正しい表記です。
「私がいたします」「お話し致します」「ご説明致します」のいずれも間違いであるとは言えません。
なぜなら、一般的な漢字表記の“目安”とされる「常用漢字表」(平成22年内閣告示)には、「致」の字では「チ」「いたす」の音訓が示されています。『常用漢字表』はあくまで目安ですが、基本的には「致す」と漢字で表記することが分かります。
また、後述する『公用文作成の考え方』では補助動詞の表記について基準が示されています。
こうしたことから、一般論としては漢字表記も仮名表記も国語的にはあり得るわけで、どちらも間違いではありません。
とは言え、ビジネスシーンでは、
「どちらも正しいことは理解したが、会社におけるビジネス文書の基準を決めておきたい」
「個人で文書を書くときに表記のゆれをなくしたいので、基準がほしい」という考えもあるでしょう。
そんなときに参考になるのが、文化庁の『公用文作成の考え方(建議)』です。
ちなみに、「公用文」とは
・政府の官報
・府省庁のサイトや刊行物
・通達書類
など、役所で作られる文書を指します。
あくまで、公用文についての説明であり、公用文以外の表記基準ではありません。
しかし、企業では役所に提出する書類を作成する機会もよくあることを想定すれば、表記の基準として参考になります。
「いたす」と「致す」の使い分けは?
次の用法は、『公用文作成の考え方』の中の「表記の原則」にある「仮名で書く」(本文 11ページ)からの引用です。
かな表記の例として次の用法が挙げられています。
本動詞にも補助動詞にもなりえる「いたす(致す)」も、これと同じように考えることができます。
また、『文部科学省用字用語例』(平成22年)でも次のように書かれています。
以上のことから、基準を決めて使い分けたいときには、次のようにすることも考えられます。
- 補助動詞として使うときは「お願いいたします」「ご用意いたします」のように仮名で書く
- 本動詞として使うときは「私が致します」「うちの者が致します」のように漢字で書く
社内基準やマイ基準を持ちたいときの参考になれば幸いです。


