こんにちは。
スポーツトレーナー協会JARTA代表の中野崇です。
今回は表現がめんどくさくなってしまったので、まず端的に書けることから。
腰を落とすという表現だと、日本人はこうなりやすい。
(なぜ日本人とわざわざ書いたかは、後述)

けれどこれは西洋系スポーツには不向き。
(もちろん相撲だったらこれでOK!とはなりませんが)
ほとんどの競技で必要な状態は、こんな感じです。

黄色が股関節(大腿骨頭)の動き。赤は骨盤(仙骨)の動き。
大腿骨頭は後方に移動しながら、後ろ下向きに回転します。
同時に、仙骨は前に倒れるように動きます。
これらの複合的な動きは、「股関節を入れる」とも表現されます。
(ここでは脊柱の動きは省略しています)
質的には、前モモではなく裏モモ(ハムスト上部)が少し貼る状態が必須です。
*本当はここに大腰筋による引きつけ作用が加わります。
でないと腰が緊張します。
多分、普段「腰を落とせ」と言っている指導者の方々も、本来こうなることを要求しているのでは。。
参照:「腰を落とせは間違いだ」
こういった複雑で動きを出すことを選手に求めていく場合、果たして「落とす」という言葉で本当に効率よく実現できるのか。
もしかしたら、他の言葉の方が効率よく実現できるのではないか。。
常に自分が使う言葉や指導方法を疑い続ける。
それはつまりもっと良い方法はないか、と模索し続けること。
僕は指導側にはそういう姿勢が必要だと思う。
そもそも、指導に使われる言葉はなんのために存在しているのでしょうか。
選手に良いパフォーマンスを発揮させたり、上達させるためではないでしょうか。
「腰を落とす」のは手段のはず。
手段が目的化しては本末転倒。
手段に囚われると、見失うものは多いかも。
常に優先順位を忘れずに、自戒を込めて。
ややこしい話が面倒な方は今回はここまでで。
残りは枝葉(本当はこちらが本質)。
***
言葉には、必ずそこに含まれている情報があります。
例えば、「ぶどう」という言葉。
この言葉を聞いただけで、言われた側は果物のブドウをイメージする方は多いでしょう。
ということはぶどうという言葉の中に、「果物のブドウ」という情報が含まれているということです。

そして武道をやってきた方は、もしかしたら「武道」を思い浮かべたかもしれません。
言葉に含まれる情報は、このように個人的なバックグラウンドによっても変わります。
これは、文化によっても異なります。
例えば「しゃがむ」という言葉。
日本だと、ほぼこれ。

けれど、例えばイタリアだったら「しゃがむ」はこれ。

(JARTAイタリア研修でよく行くセリエAのSSラツィオで実際にあったエピソードです)
もちろん外国の場合は、言語が異なりますから、翻訳によっても、いやそもそも翻訳自体も影響を受けます。
例えば。
When lifting heavy objects, be sure to lower your back.
これは、「重いものを持つときは腰を落とすこと」と訳されます。
*もちろん他にもいろんな言い方はありますが。
back(背中)が腰と意訳されるのです。
「背中を下げろ」、じゃ通じないからですね。
言葉というのは記号であり、そこには情報が含まれます。
そしてその情報は、個人や文化によって異なります。
このようなことを踏まえて、今一度、日本スポーツで頻繁に使われる「腰を落とせ」という言葉を考えてみましょう。
(ちょっと複雑になるので、ここでは個人差は除外、あくまで傾向として解釈を)
まず、日本文化というバックグラウンドを持つ我々が、「腰を落とせ」という言葉による指示を受けたとき、どんな反応が起こるでしょうか。
腰=腰椎・骨盤・股関節を含めたものと考えると、それらをひとまとまりとした落とし方をする反応をする選手が多いです。

これは「腰」という言葉に含まれる情報が関係しますし、「安定感」「どっしり感」を好む文化的な気質からの影響もあります。
もちろん、相撲や柔道からの影響も。
(このように腰を落とせば重心が下がるのでどっしり安定します。ただし、膝が前に出るような下ろし方は相撲でもやらない。四股のように膝を外に向けます)
前回記事にまつわる議論の中には、腰(股関節)を曲げられない選手に対して「腰を落とす」は使えるというような意見もありましたが、「腰を落とせ」という言葉に対する日本人の反応から考えると、西洋系スポーツをやる上では指導言語として適してはいないと考えます。
腰を落とせない選手に対しては、、
例えば野球のゴロ捕球だと、上記のような腰の落とし方だと、膝をかなり前に出して上半身を大きく曲げないとそれこそグローブが地面に届かないというジレンマを生みます。
前モモ・ふくらはぎがパンパンになります。
それに対して例えば僕がこの動きを出したい時に使っているの言葉は、「ケツを上げろ」。(本当は「みぞおちを使ってケツの穴を上に向けろ」…)

ケツを上げれば(=股関節を入れれば)、上体・腕は下がります。
根本的には赤い矢印がその力源。

この動きは同時に、直後の動きで爆発力を発揮するための準備動作。(ハムストの作用)
捕球体勢=送球準備体勢がトップレベルの条件です。
あくまで一例ですが、、試す価値はあるかもです。
お読みいただき、ありがとうございました。

全てはパフォーマンスアップのために。
今回の話は、「しゃがむ」の解釈と反応が違うイタリア人に指導してきた経験があったから重視するようになった視点なのかもしれません。。
中野 崇
追伸
この話は、もちろんピッチャーの動きにも深く関わります。
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