源氏物語イラスト訳【末摘花248】平中墨塗譚
「平中がやうに色どり添へたまふな。赤からむはあへなむ」
と、戯れたまふさま、いとをかしき妹背と見えたまへり。
【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君(末摘花)と逢瀬を迎えた光源氏。返歌もできない教養のなさや、雪明かりの朝に見た彼女の容貌に驚き、幻滅します。しかし、縁があって逢瀬を迎えたのだから、一生彼女の面倒をみようと心に決めます。光源氏19歳正月、末摘花邸に通った翌朝、若紫とお絵かきをして遊びながら、彼女の赤鼻を思い出し、自分の鼻を赤く塗ってみました。
源氏物語イラスト訳
「平中がやうに色どり添へたまふな。
訳)「平中納言のように墨などを付けなさるな。
赤からむはあへなむ」と、戯れたまふさま、
訳)赤いようなのはまだ我慢しよう」と、ふざけていらっしゃる様子は、
いとをかしき妹背と見えたまへり。
訳)とても素敵な妹と兄のように見えなさっている。
【古文】
「平中がやうに色どり添へたまふな。赤からむはあへなむ」
と、戯れたまふさま、いとをかしき妹背と見えたまへり。
【訳】
「平中納言のように墨などを付けなさるな。赤いようなのはまだ我慢しよう」
と、ふざけていらっしゃる様子は、とても素敵な妹と兄のように見えなさっている。
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■【平中(へいちゅう)】…平貞文。『平中物語』や『古本説話集』などに収録される、平中納言の墨塗りの失敗譚を暗示する。女性に恋をしかけるのに偽の涙を流してみせるのを常としていたところ、水と思ってつけたものがすりかえられた墨であったために、目のまわりが黒くなってしまうという話
■【が】…連体修飾格の格助詞
■【やうに】…比況の助動詞「やうなり」連用形
■【色どり】…彩り。ここでは、墨などを塗ること
■【添へ】…ハ行下二段動詞「添ふ」連用形
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(光源氏⇒若紫)
■【な】…禁止の終助詞
■【赤から】…ク活用形容詞「赤し」未然形
■【む】…婉曲(仮定)の助動詞「む」連体形
■【は】…取り立ての係助詞
■【あへなむ】…かまわないだろう。差し支えないだろう。がまんしよう
※【敢(あ)ふ】…堪える。我慢する。持ちこたえる
※【な】…強意の助動詞「ぬ」未然形
※【む】…推量(意志)の助動詞「む」終止形
■【と】…引用の格助詞
■【戯(たはむ)れ】…ラ行下二段動詞「戯る」連用形
※【戯る】…たわむれる。ふざける
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏・若紫)
■【さま】…ようす
■【いと】…とても
■【をかしき】…シク活用形容詞「をかし」連体形
※【をかし】…素敵だ。すばらしい
■【妹背(いもせ)】…睦まじい男女。妹と兄
■【と】…引用(比喩)の格助詞
■【見え】…ヤ行下二段動詞「見ゆ」連用形
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏・若紫)
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【本日の源氏物語】
光源氏が、自分の鼻を赤く塗って、若紫と戯れている場面です。
ほほえましいですね!
「平中」という言葉、『平中物語』のモデルでもある平貞文(たいらのさだふみ)のことです。平中納言などとも言われます。
『平中(仲)物語』は、平安前期の歌物語です。
平中は、『源氏物語』の描かれた時代から、100年も前の人物ですが、平中納言の墨塗りの失敗譚は、有名だったようですね。
この、平貞文を主人公とする説話は、『平中物語』だけでなく、『大和物語』や『古本説話集』などにも多く、「平中説話」として親しまれていたようです。
ちなみに、
在原業平(ありわらのなりひら)⇒在中
平貞文(たいらのさだふみ)⇒平中
と称されていたようです。
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