弁の君、扇、はかなううち鳴らして、「豊浦の寺の、西なるや」と歌ふ。人よりは異なる君達を、源氏の君、いといたううち悩みて、岩に寄りゐたまへるは、たぐひなくゆゆしき御ありさまにぞ、何ごとにも目移るまじかりける。例の、篳篥吹く随身、笙の笛持たせたる好き者などあり。
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【源氏物語イラスト訳】
人よりは異なる君達を、
訳)普通の人よりは格別にすばらしい貴公子に対し、

源氏の君、いといたううち悩みて、岩に寄りゐたまへるは、
訳)源氏の君が、とてもひどく苦しそうにして、岩に寄り掛かって座っていらっしゃるのは、

たぐひなくゆゆしき御ありさまにぞ、
訳)比類なく不吉なまでに美しいご様子のため、

何ごとにも目移るまじかりける。
訳)他の何人にも目移りしそうにないのだった。

【古文】
人よりは異なる君達を、源氏の君、いといたううち悩みて、岩に寄りゐたまへるは、たぐひなくゆゆしき御ありさまにぞ、何ごとにも目移るまじかりける。
【訳】
普通の人よりは格別にすばらしい貴公子に対し、源氏の君は、とてもひどく苦しそうにして、岩に寄り掛かって座っていらっしゃるのは、比類なく不吉なまでに美しいご様子のため、他の何人にも目移りしそうにないのだった。
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■【人】…普通の人
■【より】…比較の格助詞
■【は】…取り立ての係助詞
■【異なる】…ナリ活用形容動詞「異なり」連体形
※【異なり】…格別にすばらしい
■【君達(きんだち)】…貴公子
■【を】…対象の格助詞
■【源氏の君】…光源氏
■【いと】…とても
■【いたう】…ク活用形容詞「いたし」連用形ウ音便
※【いたし】…ひどい
■【うち―】…語調をととのえる接頭語
■【悩む】…病気で苦しむ
■【て】…単純接続の接続助詞
■【岩】…岩壁
■【に】…場所の格助詞
■【寄りゐ】…ワ行上一段動詞「寄りゐる」連用形
※【寄りゐる】…寄りかかって座る
■【たまへる】…~ていらっしゃる
※【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【る】…完了(存続)の助動詞「り」連体形
■【は】…区別の係助詞
■【たぐひなく】…ク活用形容詞「類なし」連用形
※【たぐひなし】…比類ない。またとない
■【ゆゆしき】…シク活用形容詞「ゆゆし」連体形
※【ゆゆし】…不吉なまでに美しい
■【御―】…尊敬の接頭語(作者⇒光源氏)
■【ありさま】…ようす
■【に】…原因・状態の格助詞
■【ぞ】…強意の係助詞
■【何ごと】…どんなこと。どんな者
■【に】…対象の格助詞
■【も】…強意の係助詞
■【目移る】…目移りする。他のものに心が惹かれる
■【まじかり】…打消推量の助動詞「まじ」連用形
■【ける】…過去の助動詞「けり」連体形
※重要古語一覧はこちら
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☆本日の『源氏物語』☆
おっと。
せっかく頭中将や左中弁が
横笛や謡曲を披露して目を見張る場面なのに
それでも光源氏の悩ましげな美しさには
かなわないってことですね;;

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