着床障害の話 ‐ 着床の窓はなぜあるの? その3 -
前回、胚盤胞の分泌するhCGは子宮内膜表面のコーティングを溶かす作用があり、胚盤胞が着床するためには大切な物質であると言うことをお話ししました。それではです、このことを踏まえて多くの人が思いつくであろう着床障害の治療方法ですけれども、胚移植前にこのhCGを子宮の中に注入して内膜表面のコーティングを溶かしてから移植するという方法 はありでしょうか?実はありです!私は25年ほど前、大学病院で実はこの方法を試したことがありました。結果ですが、うまくいきませんでした。そして足立病院へ来てすぐの時にあきらめきれず再度hCGを投与して移植をしたことがあります。で、結果は?うまく行きませんでした。そして「こりゃだめだ」とあきらめていたのですが、それから今に至るまでやはり生殖医療専門医の考えることは同じでした。下の論文によりますと世界中で15施設ほど私と同じように胚移植前にhCGの子宮内膜空内投与を行った報告があります。Intrauterine injection of human chorionic gonadotropin before embryo transfer can improve in vitro fertilization-embryo transfer outcomes: a meta-analysis of randomized controlled trialsMingXia Gao1,XiangYan Jiang2,Bin Li3,LiFei Li1,MengTao Duan2,XueHong Zhang4,JinHui Tian5,KeYan Qi6Fertil Steril. 112(1):89-97 2019で、この論文の内容ですと胚移植前のhCGの子宮内膜空内投与はやはり着床促進効果があるようです。投与する量は500 単位、1000単位など様々ありますが、ごく少量の500単位が1番効果的との報告です。そして投与の時期ですが移植直前、具体的には15分前が1番成功率が高いようです。また当院でも検討してみたいと思いますが、どうでしょう。現在行っているSEET法やSEG法も同じような機序、つまり子宮内膜のコーティングを溶かすという作用でも有効に働いている可能性はありますね。ただ、この業界(不妊治療)は有効な方法はほっといても流行るのですぐわかるのですが、hCGの子宮内腔投与は「なかなか流行っていません」。これからも慎重に有効性を見極めていきたいと思っています。..