今回よりしばらく私の専門でもある着床の話をして行きたいと思います。
皆様ご存じのように、着床障害でお悩みの方は大変多いです。
かく言う私も日々の診療で頑固な着床障害に対して奮闘努力の連続です。
「何でこんなきれいな胚盤胞が(子宮に)着かへんねん!」と毎日のように心の中で叫んでいます。
「こうなったら気合いでくっ付けるしかない!」と思ったりすることもあります。
事実、われわれの業界では「一球入魂」ならぬ「一胚入魂」という言葉があります(といっても多くのドクターは知らないですが)。
これは胚移植の時に「着床してくれ!」と念じて胚を子宮内に送り出すという行為ですが、ベテランの同業者の方は誰に教えられるでもなく結構自主的に行っています。
私もいつのころからかこの「着け~ 」という「念」を入れて移植する習慣がついていました。効いているかどうかはわかりませんが。
しかし、あとこれでマントラとかブツブツ唱えだしたら結構危ないですね。 私、凝り性ですのでエスカレートしないように十分注意致します。
ところで、
そんな私たちの悩みとは裏腹に、
実は、胚盤胞はどこでも「べちゃべちゃ」くっつきます。
私は大学時代の研究生活で、マウスの胚盤胞や時には廃棄予定の方のヒト胚盤胞をいただいて体外での着床の研究をしていました。
胚盤胞を寒天のようなところに置いてしばらく観察しますと孵化した後、すぐに寒天表面にくっついて(着床ですね)、アメーバのようにどんどん広がっていきます。それと同時に、寒天の中にも足?を侵入させて潜り込んでいきます。
実際の着床期の子宮内膜でも同じことが起こっている訳で、体外の環境でも、ある程度リアルな着床の再現ができるわけですね。
見ているととても神秘的で面白いですよ。
そして、胚盤胞はこのような寒天の表面でなくても、孵化後、フツーの胚培養用プラスチック容器のツルッとした底面にも張り付いて数日は増殖することができます。
このように胚盤胞は基本的にどこにでもべちゃべちゃくっつくと思って良いです。
そこで素朴な疑問が発生します。
一番くっつきやすいハズの子宮に何故なかなかくっつかないかと言うことです。
実は子宮は通常、強固に胚盤胞がくっつくのを拒絶しています。
そんなことしなけりゃこちらも楽なんですが…。
ただ胚を拒絶しっぱなしだと元も子もありませんのでほんの短期間だけ着床を許します。これが「着床の窓」なんですね。
この期間ですが大体2日程度と言われています。でも私はもう少し短くて1.5日程度ではないかと思っています。この着床の窓はなぜ必要なのかよく分かりませんが必要であるからあるのでしょう。禅問答のようになってしまいました。申し訳ないです。
次回、その理由について考えてみたいと思います。
続く