精子の中の大切な配線、それは遺伝情報が刷り込まれているコード、DNAです。カセットテープのテープに例えると解り易いですかね。

 

えっ? カセットテープ使ったことない? 

 

今は昔の話ですが、

 

音楽鑑賞用のカセットテープを車の中に置いたままにしておくと、夏の高温によりテープが伸びて音質が変わったり聞けなくなったりしました。

実は精子のDNAでもそれが起こります。精子が高温にさらされるとDNAの劣化(断裂)が起こり、遺伝情報が正しく伝わらない事態となります。そしてその後の胚の発育にも多大な影響を及ぼしてしまいます。カセットテープの再生音が変になって変な音楽ができてしまうのと同じです。

 

実際の臨床の場では、精子を取り巻く環境が高温になる代表的な疾患として精索静脈瘤が挙げられます。精索静脈瘤では睾丸表面の静脈の流れが滞ることによって睾丸の温度が体温と同じ37度に温められる状態となります。

 

ちょうど湯たんぽで睾丸を温めている状態ですね。

 

一見、37度は体温と同じですから普通の温度のようですが、精子たちにとっては私のワーゲンの電気配線が切れてしまうくらいの高温なんですね。

 

ただし精索静脈瘤で温められて弱った精子でも、顕微授精で強制的に卵子内に注入すると、難なく受精し妊娠も成立します。

 

が、しかし、

 

最近ではそれでも精索静脈瘤の手術をあえて行い精子の状態を改善したうえで顕微授精を行うという選択肢もあるようです。顕微授精を行っても良質の胚ができない場合は、精子の質の改善を図るという意味でこの精索静脈瘤の手術は選択肢のひとつかもしれません。

 

職場環境によって精子が悪くなるケースもあります。昔からよく言われているのが日常的に高温にさらされている製鉄所勤務の方です。また暑い日でも一日中戸外で働いている方、このような方も精子が常に高温の環境に置かれ続けているといってよいでしょう。

 

「あつい」環境といえば夏の暑さはどうでしょうか?

 

実はこれも精子に影響を及ぼしているらしいことが解ってきています。

 

「夏は精子の状態が悪くなる」?

 

いえ、実は一年のうちで精液所見が悪くなるのは秋のようです。一見不思議ですが...

 

ただ、皆さまご存知ですよね、精子は二か月半かかって丁寧に作られていることを。

 

なので、その製造過程である過去二か月半の間に起った睾丸の高温状態は、精子に何らかの影響を及ぼしているといっても過言ではないでしょう。例えば3月に行った精液検査がすごく悪くて、よく考えたら新年早々にインフルエンザにかかっていたとかよくある話です。

 

同じように8月の暑さの影響は10月、11月に完成品となる精子の品質に現れてくるというわけです。

 

では、さらなる疑問がわきます。

 

暑い気候の国の人は男性不妊症が多いのか? 例えばアフリカの人とか。

 

残念ながら、これはデータ不足でわからないようです。 

 

しかし、どう考えてもアフリカ男子と比べて、日本男児の妊孕力が勝っているとは思えません(これは完全に個人的な見解です)。

 

暑い気候の国の男性は、暑さというハンディを凌駕する妊孕性増強ファクターを持っているのかも知れませんね。

 

暇があったら研究してみたい興味あるテーマです。               

 

よく考えますと、日本の夏もアフリカなみに温度が上がりますので男性の方はこれからの季節、注意しましょう!

 

精子の話(6)熱と精子 続く