リコとの公園の出来事から数日後、私は再び保健室を訪れていた。
促されるままに、処置を受けた時と同じように椅子に腰かける。目の前にはこの部屋の主である彼女が座っている。相変わらず、包み込むような柔らかな笑みを浮かべて。
彼女はゆっくりと指に巻かれた包帯に手をかけた。一巻き、もう一巻きとクルクル円を描いて、包帯が徐々に解かれていく。
あらわになっていく指を、私はジッと見つめていた。というより、他に何を見ることもできなかった私の視線が、自然とそれに向いてしまったという方が正しいのかもしれない。
彼女――――織部 美涙先生…………ルイ。
ほかでもないリコが明らかにした、あの時のキスの相手。
彼女の名前を聞いたときから、きっとそうなのだろうとは思っていた。
でも、ただの推測と当事者の口から実際に語られるのとでは印象が大きく違う。
その事実を聞いてしまった今、彼女の姿、特に顔、……もっと言うなら唇を見ることなんてできない。
こうやって向かい合ってるだけで、否が応にもあの光景が頭をよぎるのだ。
あの日、この保健室でキスをしていたリコとルイの姿。抱き合う服と服のこすれあう音、その息遣いまで鮮明に。
いったい唇と唇が触れ合うときの感触はどんなものなのだろう。
柔らかさは? 温かさは? 優しさは? 嬉しさは?
何を思うのだろう、何を感じるのだろう。
もし私が**とキスをしたら――――
「はい、終わったよ」
ルイの声に反応して、反射的に視線を前へと向けてしまう。
「……ひゃっ!?」
目と鼻の先には彼女の笑顔。その距離は先ほどと幾らかも変わっていない。
でも近づいてきたと錯覚した私は思わず短い悲鳴をあげてしまった。
左手で口元を抑えたときにはすでに遅く、むしろ動揺しているということを彼女に伝えているだけだった。
そんな私を見
てクスクスと笑うルイ。私が慌てている理由を彼女が知っているかどうかは分からないしあえて聞こうとも思わない。で
も何もかも見透かされているような、そんな気分を覚える。
次話へ