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次の日、部活を休んだ私は学校の図書室にいた。
保健室ほどではないにしても、ここだって普段の私なら縁のない場所の一つだ。
にも関わらず足を運んだ理由は、一言でいうなら気まぐれでしかなかった。
昨日の夜、徹夜とそのほか色々な疲れもあってすっかり深い眠りについたため、今の私の頭はいつにも増して冴えていた。
何かをしたいと思わずにいられないが、指のこともあって身体を動かすことが十分にできない、そう思った私はなんとなくというだけで図書室に来てみたのだ。
だが一晩ぐっすり眠ったくらいで根本的に何かが変わるわけでは当然なく、大した時間も経たないうちにただ山積みにしただけの本を目の前からどかして机に突っ伏していた。
ため息をつくのもなんだか虚しい。
私のすぐ近くには、黙々とノートにシャーペンを走らせる一人の生徒がいた。
きっと3年生の先輩だろう。間近に迫る受験に向けて、勉強をしているに違いない。
その姿、そして長い黒髪がどこかリコを思い起こされるようだった。
最後に会話をしたのが一昨日、北崎を保健室に運んだ日の放課後だ。
いや、あれを会話と呼んでいいのか今でもはっきりしないが、ともかく最後に声を聞いたのがその時だった。
あれ以来リコ会話もいないし、目もあってない。
昨日も今日も教室に来てはいたのだが、一度だって声を発することがなかった。
ふと目を離すといないと錯覚してしまいそうなほど、この2日間の彼女はいつにも増してか細く見えた。
北崎を保健室に連れて行ったときに何かあったのかと思うが、当の北崎はというとリコとは逆に2日間学校を休んでいた。
”何か”のためにリコと北崎がいつもと違う。でも”何か”がなんなのか分からない。
あるいは織部先生――――ルイなら知っているのだろうが、あまり行きたいとは思えない。
「ふー……」
またモヤモヤと何かが湧き上がってくることに気づき、内側からそれを吐き出すようにため息をついた。
せっかくスッキリしていた頭が重く沈んでいきそうになるのを、ブンブンと振って止める。
(やっぱり慣れないところに来るんじゃなかった)
そう思って自分で山積みにした本を片付けようと抱えたとき、ヒラリと何かが落ちたことに気づいた。
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