傷は抱えたままでいい 24 | あの空へ、いつかあなたと

あの空へ、いつかあなたと

主に百合小説を執筆していきます。
緩やかな時間の流れる、カフェのような雰囲気を目指します。

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「――――はい、終わったよ。……どうしたの?」
「……は、え……?」

不思議そうな顔をして、先生は私の方を見ていた。
ふと我に返り左手に視線を落とすと、怪我をした指にはきっちりと包帯が巻かれていた。

痛みはもうほとんど感じない。


「あんまり痛むようなら病院に行くのよ?」
「はい……ありがとうございます」
「それじゃあ、お大事に」
そう言うなり、後片付けを始めた。

「…………え?」
先生の視線は既に私ではなく整理棚へと向いていた。
先ほどまで口ずさんでいた鼻歌を交えながら、包帯やテープを棚に戻している。

もう私のことなど、まるで気にも留めていないよう……
治療という役目が終わった以上その反応は自然なのだが、どこか釈然としない。


「あ、あの……!」
「うん? なあに?」
「いえ……なんでも……ありがとうございました」


結局何も話すことなく、話すこともできず、私も保健室を後にすることになった。
それは確かに、私がここに来る前からそうであってほしいと望んだこと。

でもどうしてだろう、心に宿っているのは安心感ではなく違和感。
分かってて何も言わないのか、それとも知らないのか、先生の雰囲気からはどちらとも取れない。


「気を付けて帰るのよー」
扉の前でもう一度挨拶をしたあと、有希から荷物を受け取ってそのまま帰ることにした。
緊張から解放されたこと、昨日あまり眠れなかったこともあって、家に着くなりベッドに倒れこむように横になった。

すぐに訪れるまどろみの中で、保健室の空気、感触、指の痛み、そして先生の視線とリコの顔が頭を何度も巡っていた。


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