傷は抱えたままでいい 11 | あの空へ、いつかあなたと

あの空へ、いつかあなたと

主に百合小説を執筆していきます。
緩やかな時間の流れる、カフェのような雰囲気を目指します。

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リコが北崎と一緒に教室を出ていった後も、教室の中は奇妙な静寂に包まれていた。
皆が皆どうしていいかわからず、無言で次の授業の準備をし始める。

「そっか、リコって保健委員だっけ」
有希がポツリとつぶやく。
それに里穂も頷いてみせた。
「うん、一年の時から自分で立候補してたよねリコ」
二人の会話にふと疑問を覚える。
「あれ? 里穂と有希ってリコと仲良いの?」
「ううん、あんまり話したことないけど」
「だってリコって呼び方……」
「あー、だって一回怒られたんだよ私たち。霧子って呼んだらさ」

昨日の私と同じ、本名で呼ぶ二人に呼び方を訂正させたリコ。
どうやら誰に対してもそのようにしているらしい。

「わ、私たちも準備しようか?」
「う、うーん……」
時計を見ると、間もなく授業が始まる時間。
里穂と有希も、他の生徒と同じように自分の机に戻ろうとする。
でも私はどうしても引っかかるものがあって、未だ立ち尽くしている男子生徒の元へと向かった。
あっ、という二人の声が後ろから聞こえる。

「……北崎さんに、何かしたの?」
「し、知らねえよ!? ただ消しゴム落ちてたから渡そうとしただけで……」
「それだけ?」
「そ、それだけだって! 拾って後から肩を叩いたら急に……」

「…………そうなんだ」


ますます疑問が募っていく。

あの北崎の姿は男子生徒に肩を叩かれたから……?
あれは驚いてとかそんな状態じゃない、まるで怯えているような。
北崎は大人しい性格でも、極端に人を怖がる子じゃなかったと思っていたけど……

そしてリコがとった行動。
周りの生徒は戸惑うだけだったのに、リコはあんなにも迅速に彼女を保健室へと連れて行った。
リコは北崎がどんな状態だったのかを知っていたというのだろうか……

どうしてだろう、リコのことばかり、どんどん疑問が湧き上がっていく。
そのどれもが解消されなくて、心がざわつくのを感じる。


「……里穂、ちょっと抜ける」
いつの間にか私の身体は教室の外へと動いていた。
気になるからというレベルじゃない、私の知りたい何かが分かる、そんな予感がしたのだ。

「え? チ、チサ!? もうすぐチャイムが――――」
「適当にごまかしといて!」

廊下へと出た後、私が向かったのは他でもない保健室だった。
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