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街灯に明かりがつく。
太陽はすでに山の向こうに落ちていて、空の紺色が少しずつ広がっていっている。
ほのかな光の中に、私とリコはいた。
「……何をされたか、聞かないのね」
「そんな……! 聞くわけないよ!?」
思わず立ち上がってリコの言葉に応える。
リコは座ったまま、顔を下に伏せていた。上から見下ろすリコの姿は、とても小さく見えた。
北崎がそうであったように、私の与り知らないところで少女たちがそうであったように。
リコもまた……孤独の苦しみに耐え忍んでいたというのだ。
「心の傷は言えないままで……癒えないままだった。きっとこれからずっと、抱えたままなんだと思ってた。……そんな時、出会ったの」
「それってもしかしてル…………織部先生のこと?」
「いいよ、無理に気を遣わなくて。なんとなく……そんな気はしてたから」
ゆっくり顔を上げたリコの表情は意外にも穏やかだった。体育館の裏で私を押さえつけたときのような冷たいそれではなかった。
「指の包帯、ルイにやってもらったんでしょ?」
「あっ…………うん、ごめん。部活で……」
「うん……バスケ、大変だもんね」
そう言って微笑むリコ。どこか生気の宿らぬその表情の奥底で、一体何を思うのだろう。
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