傷は抱えたままでいい 28 | あの空へ、いつかあなたと

あの空へ、いつかあなたと

主に百合小説を執筆していきます。
緩やかな時間の流れる、カフェのような雰囲気を目指します。

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数人の大人――男だけでなく女もいた――が、コンビニの前でたむろしていた。


見た目からして私よりも年上。大学生か、もっと上か。どちらにしろ、大声を出して笑うその姿ははっきり言って品のあるものとは思えない。
毎日ではないがよく見かける光景。
直接何かをされたというわけではない。でも彼らの前を通るときはいつも、それだけで毛羽立った毛布で撫でまわされるような居心地の悪い気持ちになる。



いつか身に覚えのないことで絡んでくるかもしれない。それが私の勝手な思い込みだと分かってはいても、その緊張感は拭いきれなかった。
できるだけ視線の端にもかからないよう存在を消しつつ、いつもそうしているように足早に通り過ぎようとしたとき――――



「おい! お前――――」



突然、威嚇するような乱暴な声が辺り一体に響き渡った。
それだけで心臓が握りつぶされるようなのに、どうやらそれは私に向かって放たれたものらしい事実に頭が真っ白になる。



(う、嘘……なんで、よりによって!)
振り向こうにも動けない。このままではより大きな敵意が私に降り注ぐだろう、そう思う気持ちがさらに私を硬直させる。



グループのうちの一人が、私の方に向かって近づいてくる。
完全に足がすくんでしまって、一歩も動けない……



そんな時だった。私の手を引く誰かが現れたのは。



「――――あっ……」
そう声が出た次の瞬間には、私は走り出していた。
何もかもを振り切るように、目の前で私の手を掴んで走っていたのは……



リコだった。


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