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私たちは走った。走って走って、コンビニからずっと遠ざかってもまだ走った。
その間、リコはずっと私の手を握っていた。その手が昨日けがをした左手だと気づいたのは、交差点を3つほど駆け抜けたところで――――
「っ! い、痛……!」
恐怖の場所から遠ざかり少し安心したからか、驚きと戸惑いで忘れかけていた指の痛みが急激に戻ってくる。
そんな私の声が耳に入り、リコはようやく立ち止った。
「――――はあ、はあ……!」
リコは両ひざに手をつき、うつむいたまま肩で息をしていた。
短くない距離で指も怪我をしているとはいえ、このくらいの走り込みなら私は部活で慣れっこだ。でもリコはというと見た目からして運動に長けているとは言いにくく、案の定完全に息切れしているようだった。
リコがゆっくりと息を整えるのを待って、私は彼女に話しかける。
「ねえ、一体どうして――――」
言い終わる前に、私はリコに抱き寄せられていた。
背中に手をまわし、二度と離さないと言わんばかりに必死に私を抱きしめるその力は、先ほどまで息も絶え絶えだった人間のものとは思えないほどで。
彼女の火照った体温を、速いままの鼓動を全身に感じて、電気が走ったように私の心と体はまたもや固まってしまっていた。
でもその感覚は、どこか安らぐような不思議なものだった。
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