今回のワールドカップを戦った日本代表が目指したサッカーは、前線から積極的な守備を行い、高い位置でボールを奪って、細かくパスをつないで攻めるというものでした。では、どうすればそのようなサッカーができるのかをもう少し詳しく見て行きましょう。

 

 

前線から積極的な守備を行うためには、前にいる選手と後ろにいる選手との間の距離を短くすることが必要です。前後の選手の間を3035mにして、ボールを持っている相手やその周辺に、攻撃側のチームよりも多くの選手がいる状態にして、プレッシャーをかけてボールを奪うようにします。

 

このような守備をすると、弱点も出てきます。フィールドの縦の長さは105メートルですので、前線からコンパクトな陣形で守備をすると、後ろにいる選手と自陣のゴールの間が大きく空いてしまうことになります。そこにパスを出されて、オフサイドにならないように飛び出されてしまうと、あっという間にゴールキーパーと11の状況が生まれ、大ピンチになってしまいます。

 

そこで、空いているところへパスを出されたときに、ゴールキーパーが飛び出してパスをカットするか、センターバックは相手が飛び出すのを予測して素早く戻って対応することが必要です。それには、ゴールキーパーにもセンターバックにもスピードがなければなりません。

 

また、陣形をコンパクトにするということは、ボールを奪ったあと相手の人数も周りに多くいるということになります。その中でパスを繋ぐには、ディフェンダーにも足元の技術があり味方のどこにパスを出せばいいのかという視野の広さが求められます。更に、ゴールキーパーもパス回しに加わらないといけないので、ゴールキーパーにも同様に足元の技術と視野の広さが求められます。

 

では、日本の選手の中でそのようなセンターバックとゴールキーパーがいたかというと、センターバックでは今野、ゴールキーパーでは西川がいました。

 

今野には高さがありませんが、その他は日本がやろうとしたサッカーに適したセンターバックです。しかし、今期のJリーグで今野は不調に陥っており、ワールドカップになっても本調子といえない状態でした。

 

西川は、足元の技術が高くユース年代の頃はゴールキーパーでありながら、フリーキックを蹴っていることもあるくらいでした。しかし、ポジショニングや判断力に難があるため、正ゴールキーパーの座を奪うことはできませんでした。

 


攻撃をするためには相手が持っているボールを奪わなければなりません。相手がミスをしてくれればいいのですが、相手のレベルが上がると中々ミスをしてくれません。そうなるとボール奪取能力が求められますが、ワールドカップのレベルでは日本人選手のボール奪取能力は高くありません。

 

いくら攻撃力があっても、ボールを保持していなければそれを発揮できません。攻撃的なサッカーをするのであれば、相手からボールを奪うことが必要ですが、日本はその部分が弱いのです。

 

 

攻撃時には、選手が密集している場所でも細かくパスをつなぐため、足元の技術と常にパスを受けられる位置を探して動くことが必要です。パスを出した後は、パスの受けてとして動くようにしなければなりません。また、多少体をぶつけられてもボールをキープできるような体の強さやバランスも必要です。

 

足元へのパスだけでは相手が対応しやすくなるので、空いているスペースへ飛び出してパスを受けたり、ドリブルで相手を抜き去ったりすることも必要です。

 

空いているスペースへ飛び出してパスを受けるためには、走るスピードや相手と駆け引きして相手より早く走り出さなければなりません。更に、速く走った状態でボールをコントロールする技術も必要です。

 

また、パスをした方がいいのかドリブルをした方がいいのか、パスを出すならどこへ出すのがいいのかという判断力と視野の広さがなければいけません。

 

このような要件を満たす日本選手がいたのかというと、全てを満たしている選手は誰もいませんし、平均すれば半分くらいしか満たしていないのではないでしょうか。

 

 

今回のワールドカップで日本がやりたかったサッカーは、前線から積極的な守備を行い、高い位置でボールを奪って、細かくパスをつないで攻めることです。しかし、それを実現できるような選手は揃っていなかったのです。つまり、日本がやりたいサッカーと日本ができるサッカーの間に乖離があったということです。

 

親善試合では、やりたいサッカーができたこともありますが、あくまでも練習試合でのことで真剣勝負の試合ではありませんでした。プロ野球でも、オープン戦で通用したからシーズンでは通用するとは限らないですよね。

 

しかし、今回のワールドカップの戦い方は全て無駄ではなかったと思います。やはり、自分達がやりたいサッカーをするのは、それを実現できる能力を持った選手がいないと駄目だということ、日本がトップレベルの国に勝つには日本が最高の状態にあることが必要だと分かりました。

 

日本がやりたいサッカーと実現可能なサッカーの差を埋めていくには、代表監督によって解決できる問題ではありません。育成からJリーグの体制を含めて、もう一度見直していく必要があると思います。その点については、優勝したドイツの取り組みを見習うべきでしょう。

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