前回に引き続いて 、今回もまたスポーツに関する製品の技術についてです。どちらの会社も一般の人にはあまり知られていませんが、その分野の人達からは高い評価を得ています。野田鶴声社については、日本より海外の方で先に評価され、海外での高評価により日本でも広く知られるようになりました。

 

 

【ホイッスル】

野田鶴声社は東京の亀有にあるホイッスルメーカーです。同社のホイッスルは、ワールドカップの公式ホイッスルに採用された他、NATO軍やフランス国家警察など様々な分野での実績があります。アディダスやプーマのブランドで売られているホイッスルにも同社製のものがあります。

 

同社のホイッスルは、日本国内より先に海外で有名になりました。きっかけは、1973年に旧西ドイツのケルンでの国際スポーツ用品見本市への出展でした。同社代表取締役の野田員弘氏によると「周りはどれもこれもがひどい笛」だったそうで、「フランス人のバイヤーにうちの笛を見せると驚かれて、その場で2000ダースの注文が入りました。日本に帰って輸出が始まり、その後は十数年の取引が続きました。」ということだったようです。この商談をきっかけに、同社は世界45カ国に累計で1500万個以上ものホイッスルを輸出するようになりました。 

 

1978年には旧西ドイツのブンデスリーガの審判連盟で推奨されるようになりました。1982年のスペイン・ワールドカップで初めて公式採用され、メキシコ大会やフランス大会でも公式採用となりました。それ以降のワールドカップでも、数々の審判が野田鶴声社の笛を愛用しています。1992年にJリーグが発足し、1993年に日本サッカー審判協会の推奨品に認定されると日本国内でも広く使われるようになりました。

 

同社のホイッスルは、音が割れないだけでなく強弱をつけられるのが特徴です。それを支えているのが、中に入っているコルクです。傷やひび割れのない、まん丸のポルトガル製のコルクで、現地で精密加工をしています。音に強弱をつけられずに一本調子になると、選手にとって不快な音になるようです。

 

欧州のものなどは溶接やプレス技術が甘くて空気漏れしやすく、更にメッキも薄くて音が満足に出ないものが多いようです。そのような粗悪な笛だと、音を長く出すときに息が続かなくなるようです。また、ホイッスルの口先が外に開いているため、口だけでホイッスルを固定できるような工夫がされています。

 

 

【ライフルスコープ】

ライト光機製作所は、競技や狩猟に使うライフルスコープと双眼鏡のOEMによる開発・生産を主にしている長野県諏訪市にある企業です。製品の98%を海外に輸出していて、そのうちの8割がアメリカです。国内では約7割、アメリカでは約2割のシェアを持っています。同社のスコープはハイレベルの高級品が多く、アメリカのライフル競技の上位入賞者の多くが同社の製品を使っているようです。

 

ライフルスコープでは、像を拡大すると同時に収差を最小限にする必要があります。収差とは、レンズによって結像ができるときに発生する色の変化や、像にボケや歪みが生ずることです。収差が出ると標的をしっかり捉えることが難しくなってしまい、命中度はそれだけ下がってしまいます。ライフルのシューティング競技では、1000ヤード(約900m)の距離から直径15㎝内の標的を狙うものもあり、非常に高い精度が求められます。

 

収差を小さくするためには、複数のレンズを使用します。ライフルスコープでは多いものだと15枚くらいのレンズを使用しています。ただ単にレンズを並べても駄目で、並んでいる全てのレンズの中心に芯を通すように配置しなければなりません。内部の正立レンズが0.01ミリずれただけで、像が見えなくなってしまいます。レンズの枚数を増やせば収差を小さくすることができますが、枚数が増えればそれだけレンズを精緻に並べるのは難しくなります。

 

ライフルスコープは、射撃の際に重力の約1000倍(1000G)の重力加速度がかかるため、衝撃に強いことが求められます。単純に比べることはできませんが、F1のコーナリング時にかかる重力加速度は最大で5Gくらいですので、物凄い重力加速度がかかるというのが分かるかと思います。

 

ライフルスコープは、多いものでは140個以上の部品を使用しています。通常でも80個以上の部品が使われます。衝撃への耐性を高めるためには、ライフルの重さ、銃弾の火薬量、スコープの重量などを考慮し、レンズやメカ部分の設計だけでなくレンズの硬度や部品の素材を変える必要があります。最も重要なのはレンズがずれないようにすることです。部品に生じるわずかな物性の差を加味しながら、職人が完成をさせていきます。場合によっては、職人から設計の修正を求められることもあるようです。

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