日本には世界に誇ることができる技術が数多くあります。その中からスポーツに関するものを調べてみました。今回紹介する2つは、それぞれの業界では有名ですが、一般的にはあまり知られていないようです。私も調べるまでは両方とも全く知りませんでした。

 

 

【砲丸】

辻谷工業は、埼玉県富士見市の商店街にある小さな町工場です。その辻谷工業の辻谷政久さんが作った砲丸が、アトランタ、シドニー、アテネと3大会連続でオリンピックの金銀銅メダルを独占しました。オリンピックの砲丸は、審査を通った会社の製品が公式球となり、競技場で選手がその中から使用球を選んで投げます。アテネでは決勝進出の8選手のうち、7人が辻谷さんの砲丸を選択しました。

 

砲丸は鋳物の素材をNC旋盤で削って球体にしていきます。鋳物には鉄以外にも、青銅や銅のほかにも不純物が混ざり、完璧な球体になると重心が真ん中から外れてしまいます。辻谷さんは、NC旋盤ではなく汎用旋盤を使い、音と光沢と手の平に伝わる機械のハンドルの圧力から比重のムラを見極めて、調節をしながら重心を真ん中に持っていきます。この部分の技術が、海外を含めた他のメーカーよりも優れているのです。手動のローテク旋盤を使う辻谷さんの方が、コンピューター制御のNC旋盤より精度の高い砲丸を作っているのです。ちなみに、重心が真ん中から1ミリずれると、飛距離が12メートル短くなってしまうようです。

 

3連覇を成し遂げた後の北京とロンドンには、辻谷さんは砲丸を提供していません。2004年に中国で行われたサッカーアジアカップにおける、現地サポーターの日本に対する態度と中国の人権侵害行為を見て、北京への砲丸の提供をボイコットしました。ロンドンについては、高齢で砲丸を作るのが大変になり引退することにしたため、提供をしませんでした。砲丸の素材は約9キロあり、完成までに14工程あるので、何回も機械に乗せたり下ろしたりとかなりの重労働です。また、オリンピックに提供するには数十個の砲丸を作らなければなりません。ロンドンオリンピック時には79歳と高齢であり、引退すれば数多く来ていた取材も来なくなるだろうと、引退を決めたようです。しかし、辻谷さんの砲丸を使いたいと希望する選手は多く、ロンドンに提供しないと表明してからは逆に取材が増えてしまったようです。

 

 

 

【サッカーボール】

2006年ドイツワールドカップの公式球は、アディダスの「+チームガイスト」でした。このボールは、広島に本社があるモルテンの技術が提供されOEM供給されていました。

 

それまでのボールは、五角形と六角形の32枚のパネルを組み合わせて手縫いで作られていました。縫い目の部分が周りより硬く、雨が降ると縫い目から水を吸ってしまい重くなります。実はこのボールも、モルテンが世界に先駆けて作っていました。

 

これに対して、+チームガイストは、6枚の2枚羽と8枚の3枚羽の14枚の平面状パネルを組み合わせることによって構成され、凹凸のないより正球体に近い形になっています。そのため、蹴る位置による差が少なく、キックの精度が高まりました。

 

試作の段階では、パネルの間に隙間ができてしまい、中々球形にすることができませんでした。100分の1ミリ単位でパネルのカーブの微調整を繰り返し行い、ようやく球体のボールを作ることに成功しました。

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