ワールドカップ開幕戦では、ブラジルが逆転勝ちをしました。勝ち越しとなったPKの判定については、様々な議論がされているようです。スロー再生を見ると、実際にディフェンダーの手が掛かっていましたが、倒されるほどのファールは受けていなかったように見えます。一方で、手を掛けたプレーに対しては厳しく反則をとるように、FIFA側から審判に対して申し渡しをしていたことも考えられます。今後のジャッジに注目をしてみてください。

 

今回は、ブラジルと日本のプレースタイルについて書いています。明日の日本の初戦はどうなるでしょうか。非常に気になりますね。

 

【ブラジル】

ブラジルは唯一全てのワールドカップに出場していて、優勝回数も5回と最多で、自他共に認めるサッカー王国です。今大会も地元開催ということもあり、優勝候補の筆頭と言われています。

 

ブラジルは、強さだけでなく華麗なテクニックを駆使した攻撃力が最大の魅力です。大きなフェイントで相手を幻惑するドリブル、高いトラップの技術、リズミカルなパスワークは見ていて楽しくなります。

 

ブラジルは、ただ勝つだけでなく内容も求められます。1994年のアメリカワールドカップは24年ぶりの優勝だったのですが、守備的だと言われて国内では批判されました。日本に例えるなら、オリンピックの柔道で、ただ優勝するだけでなく1本を取って勝てと言われているような感じでしょうか。それだけ、ブラジルでは代表チームに対して求めるものが高いということでしょう。

 

攻撃的なチームを作っても、1982年のスペインワールドカップのように、不用意な失点をしてしまうこともブラジルの特徴です。攻撃的で、なおかつ守備のバランスを持ったチームを作らなければ批判をされるので、ブラジル代表の監督は大変ですね。

 

ブラジルは全土で攻撃的なサッカーをしているかというと、そういうわけではありません。ブラジル南部のアルゼンチン国境に近い地域では、守備的で激しいサッカーをするのが特徴です。今大会のブラジル代表のフェリペ監督はブラジル南部の出身で、規律を重視して失点を防ぐチーム作りをするタイプです。また、チームを作るうえで、チームの一体感というものを大事にし、チームの雰囲気を乱す選手は選びません。

 

今回のブラジル代表は、テクニックがあり攻撃力を持った選手が揃っていますが、同時にハードワークをすることを監督から求められています。優勝した2002年の日韓ワールドカップのときのような経験のある選手がほとんどいないと言われていますが、ホームの力をプレッシャーではなく味方にできれば、6度目の優勝も可能だと思います。

 


【日本】

日本のサッカーには、まだ確固としたスタイルがないと言われています。ボンヤリと日本のスタイルと言うのは見えてきてはいますが、現在は日本のスタイルを築きあげている途中段階だと言えます。

 

これまでも、日本には個人技を活かした南米流が合っているとか、組織を重視したヨーロッパ流がいいとか、色々な模索をしてきました。日本代表の監督が変わると、やっているサッカーも大きく変わることもありました。しかし、それに異議を唱えた代表監督がいました。2006年ドイツワールドカップの後に代表監督に就任したオシム元監督です。彼は「日本サッカーを日本化する」と言ったのです。

 

どういうことかというと、日本のサッカーを強くするには他の国の真似をするのではなく、日本人の特性に合ったサッカーをするべきだと、オシム元監督は考えていたのです。サッカーという競技を考えたときの日本人の長所は、「細かな技術は持っている」「敏捷性が高い」「持久力がある(スタミナがある)」「規律を守る」「献身性がある」「我慢強い」「両足が使える」などがあります。逆に短所は、「背が低い」「瞬発力が弱い」「自分で考え判断するのが苦手」「基礎技術の不足」「個人戦術が未熟」「ゴールへの意識が希薄」などです。

 

長所の部分を活かしたサッカーをして、短所を少しでも克服していくことが重要です。但し、短所の中でも「背が低い」「瞬発力が弱い」というのは、日本人の体型や骨格から克服するのは難しいので、他の部分をどれだけ向上させることができるかにかかっています。

 

現在では、ボールと選手がよく動き、細かくパスをつなぎ、11よりも組織として攻撃と守備を行なうというのが日本のスタイルになりつつあります。

 

以前、プロ野球でアメリカから来た助っ人が「野球はベースボールとは違う」と言ったことがありました。これは、その外国人は皮肉を込めて言ったのですが、実は日本の野球が日本化されていたということを証明する言葉でもあったように思います。

 

日本が、外国人と同じようなスタイルで野球をした場合、体格やパワーに劣る日本人が勝てる確率は低くなります。日本人の特徴に合ったスタイルで戦った方が、アメリカなど外国に勝つ確率は高くなります。日本人に合ったやり方に咀嚼して取り込み、ベースボールと異なるスタイルの野球という形にしていたことによって、WBCで日本が優勝できたのだと思います。

 

 

話をサッカーに戻しますが、ワールドカップではこれまでは8カ国しか優勝したことがありません。複数回優勝している国はたったの5カ国です。実はほとんどの国にとって、ワールドカップというのは、いかに負けるかの戦いと言えます。

 

日本は2050年までにワールドカップで優勝していることを目標に掲げています。前回までの日本の戦い方は、それぞれの大会で最も勝つ可能性が高いやり方で戦っていました。しかし、その戦い方を続けていても優勝には手が届かないと言われています。

 

今大会は、もちろん上位進出を狙っていますが、それと同時に日本のスタイルで戦ってどこまで通用するのかも試そうとしています。今大会に限れば負ける確率は高くなるかもしれませんが、将来優勝するために自分達のスタイルを貫き通し、勝ち抜いていくためには何が不足しているのかを確認することができます。ワールドカップ優勝に向けて、新たな一歩を踏み出した大会と言われるかもしれません。

 

明日の初戦をそのような目線で見るのも面白いと思います。日本代表には、とにかく頑張ってもらいましょう!


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