ワールドカップ・ブラジル大会はドイツが24年ぶり4回目の優勝で幕を閉じました。過去3回の優勝は西ドイツ時代のもので、統一ドイツとなってからは初めての優勝です。やっているサッカーの質も高かったのですし、順当な優勝だったと言えるでしょう。

 

朝日新聞はドイツ優勝について、「サッカー移民が活躍」「多様な文化で代表成長」と記事に書いています。更に「選手育成の改革の一環で、各クラブは移民の子どもたちを積極的に受け入れるようになり、ドイツ1部ドルトムントの育成組織は15%以上がトルコ系やアフリカ系などの移民の子どもたちだという。」と書いています。

http://brazil2014.headlines.yahoo.co.jp/wc2014/hl?a=20140715-00000002-asahi-spo&sp=1

 

 

確かに、以前に比べれば移民系の選手は増えています。しかし、ドイツの優勝は2000年以降に若年層の育成を根本的に見直して、それまでの身体的な強さや速さに偏っていた方針を、技術を重視した育成に変え、そのために育成組織の改革などを行ったことが原動力です。

 

トップチームについても、EUの他国リーグと同様に外国人枠が撤廃されましたが、ドイツ人枠というものを設けています。登録選手の中に一定以上のドイツ人を登録しなければならず、しかもその半数を地元で育成した選手であることとしています。

 

外国人枠がなくなると、どうしても外国人の割合が増え、中には先発選手全員が外国人選手になることもあります。イングランドではそうしたことがよくあり、イングランド出身の選手の出場機会が減ってしまっています。リーグは盛況になり収益が上がるようになっていますが、自国の選手が育たずに代表チームが弱体化するという結果になっています。

 

移民系の選手が増えたのは、ひとつにはドイツにおける移民系の人口増加があります。ドイツでは移民人口が全人口の約2割にも達しています。いわゆる“ドイツ人“は少子化が進んでいていますが、移民は少子化していないため、子供の人口に占める移民の割合は全人口に占める移民の割合より高くなっています。5歳未満の子供については、移民の割合が約35%となっているようです。

 

更に、移民の人達は子供への教育に熱心ではなく、結果として大人になっても収入の高い仕事に就ける可能性が低くなります。サッカー選手になれば、一般労働者の何十倍何百倍のサラリーを得ることもできます。移民の子供はサッカー選手になって一攫千金を狙うということが、移民ではないドイツ人に比べて多くなります。フランスなどでは、全人口に占める移民の割合に比べ、代表チームでの移民の割合は高くなっています。

 

また記事の中には「ドイツ社会の変化を取り込んできた代表チームが、前回と見違えるようなサッカーでドイツ統一後初めてW杯を制した。」とあります。しかし、前回の南アフリカ大会では、既に今大会のように強力な前線からのプレスを行う守備とパスをつなぐサッカーをやっていました。今大会のチームは、前大会からのプレースタイルを継続させ、熟成させたものでした。“前回と見違えるようなサッカー”というのは完全な誤りであり、この記事を書いた記者は前回大会でドイツを全く見ていないのではないでしょうか。

 

 

朝日新聞の今回の記事には、ドイツ優勝を利用して移民促進策を日本人に受け入れさせようという意図を感じます。これは、日本人に移民に対する間違えた認識を植え付けるだけでなく、10年以上に渡るドイツのサッカー関係者の改革の努力を歪曲した形で伝え、彼らを馬鹿にしたものだと言えます。ドイツのサッカー関係者がこ記事を読んだら、間違いなく怒るでしょう。

 

ドイツではドイツ社会に適合できない移民の存在が問題になっています。十分な教育を受けずドイツ語もできないことから、就業率も低く生活保護を受けている移民が多くいるようです。移民男性の犯罪率も高くなっています。

 

また、以前の記事でアメリカの人種差別 について書きましたが、そのアメリカよりもヨーロッパの方が人種差別は酷いようです。アフリカからアメリカに移民した人が、アメリカでの人種差別に嫌気がさして、配偶者の母国であるドイツに移住したところ、アメリカ以上の人種差別を受けて、再びアメリカに移住するということがありました。

 

そのようなドイツという国で、移民がどのような扱いを受けているのかは容易に想像ができます。ドイツの移民受入について記事を書くのであれば、このような負の面も同時に伝えるのがジャーナリズムというものではないでしょうか。

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