作品紹介『深海の鼓動』 | なかのたいとうの『童話的私生活』

作品紹介『深海の鼓動』


 

『深海の鼓動』は5月にブログに載せた短編小説です。

今回、それを縦書きにしたPDFを作成し、Web版として公開することにしました。

また、その際、若干の修正を行っています。

最終的な修正です。
 
※『深海の鼓動』は2012年、画家であるナオゲリータさんの絵をつけて製本されました。現在見ることのできる版はこの版のみです。ご了承ください。


 


「リミットを決めておこう。リミットは三分。三分が限界だ。もし三分たっても上がってこなかったら……」
「上がってくるさ。そうだろ? お前さんはベテランなんだ」
 老人は男のことをベテランと呼ぶ。だが正確に言えば男は元ベテランだった。男はもう長いこと潜ってはいない。遠い遠い昔のことのような気がしていた。そもそも本当に素潜りを、フリーダイビングをしていたのだろうか。いくら考えたところで実感が湧いてくるものでもなかった。

『深海の鼓動』より


 
男は何のために潜るのだろう。

深い海の底へと息を止めたまま、潜行装置にしがみついてただ垂直に落ちていくだけの行為。

その行為に意味はなく、それは危険なゲームでしかない。

それに、男はもう若くはない。

競技だって、とうの昔にやめてしまっている。

今となってはもう、それはただの遊びだ。

けれども、どうだろう。

だからこそ、そこには何かがあるのかもしれない。

だから男は潜る。

暗く冷たい海の底。

海は決して容赦しない。

巨大な手で絞めつけられるような高いプレッシャーに耐え、

意識さえも深い深い海の底に沈ませて、

そして、そのとき、

男が見たものとは。



『深海の鼓動』は、2005年の7月末から8月末に渡って書かれたものを2010年10月に改訂し、そこからさらに修正を加えて本年5月、ブログに掲載したものです。

ぼくが書いた作品の中で、はじめて完結した作品と言えるかもしれません。

ただ、処女作という認識はありません。

それは400字詰め原稿用紙にして10枚という短編であることも理由のひとつですが、

もともと『深海の鼓動』は、『夏の虫』として起稿された未完の長編小説『睡蓮』の序章にあたる部分を、ほぼそのまま抜き出したものだからです。

『深海の鼓動』を分離することによって『夏の虫』は、『睡蓮』と改題されることになります。

分離した最大の理由は、そのわかりにくさです。

現在『深海の鼓動』は三人称で書かれていますが、2005年版では一人称です。

なぜ、一人称にしたのか。

それは、『深海の鼓動』に登場する男(ぼく(もともは、おれ))は、『睡蓮』の主人公、正木葉介の成長した姿として、まずはじめに書かれたからです。

つまり、作品の構成としては、成長した葉介の回想として物語がはじまっていく、という形を取りたかったのです。

そして、そうした改訂前の一人称で書かれた序章『深海の鼓動』の後に、現在同様三人称書かれた『睡蓮』第1章第1節がはじまります

高校時代の葉介が、かっこうの鳴く朝靄の中を自転車に乗って走っているシーンです。

シーンは、パッと、突然、鮮やかにチェンジするのです。

当時親しくさせてもらっていた女の子に、序章『深海の鼓動』と、続く『睡蓮』第1章の何節かを読んでもらったところ、戸惑いの声があがりました。

無理もありません。

ぼくの試みは、やはり少々奇抜すぎたようです。

ぼくはそれを受けて『深海の鼓動』を分離することに決めました。

構成上、序章『深海の鼓動』は独立性を高く保つことを目標に書かれていましたので、それも幸いし、残念な気持ちはあったとしても、未練はなかったはずです。

そして結果的に、ということになるのですが、結局は彼女のおかけで『深海の鼓動』は、ぼくの最初の作品になったのです。

ですが完成した作品は、そのあと5年に渡って眠りにつくことになります。

 
2010年10月。

ぼくは『深海の鼓動』をふたたび手に取り、読み、見直しに入ります。

この段階でぼくには、1年半ほどの創作ブランクがありました。

それは、今も続くこの何度目かの創作チャレンジの手始めとして行った、最初のトレーニングだったのです。

余計な説明を削除し、妙な言いまわしを排除するとともに、書き足りないことを最小限、書き足しています。

わずか原稿用紙10枚の作品の見直しに、10日ほどかかっています。

それを友人見せ、ひとまずの校了としました。

そして若干の紆余曲折を経ますが、そのあと、ぼくは、『灰色の虹』にはじまる6作の新作童話の執筆に入っていくのです。

『深海の鼓動』に特別な思い入れはありません。

今回もWeb公開版PDF作成のために手を入れていますが、むしろ捨ててしまいたいくらいの作品です。

それでもなお、こうして作品を公開しているのは、やはりそこには、処女作、あるいは最初期に書かれた作品群特有の匂いがまだ残っているからです。

ただの青臭さなのかもしれません。

それをどう判断するかは、ぼくではなく、作品を読んでいただいた方々個々の判断になるかと思います。

作品を公開するということは、そういうことなのです。

なお、Web公開版PDF作成のために若干の修正を行っていますが、もとにしたブログ版はそのままにしてあります。


 
『深海の鼓動』
2011年10月25日 Web公開版PDF初版発行
著者 なかのたいとう(中野苔桃)
B5版縦書き9ページ[40字×17行]
4,250字/400字詰原稿用紙換算13枚
(C)2011 NAKANO TAITO
 
※『深海の鼓動』は2012年、画家であるナオゲリータさんの絵をつけて製本されました。現在見ることのできる版はこの版のみです。ご了承ください。
 



 

 


さて、この深海の鼓動が取りあげているフリーダイビングについて少し解説しておきましょう。

ちなみにぼくはフリーダイビング経験者でも、熱烈なファンでもありません。

むしろ完全なる素人です。


フリーダイビングとは、競技として行われる素潜りのことです。

現在はフリーダイビングという言葉より、アプネア(イタリア語で潜水の意)という言葉が使われることが多いようです。

競技ですのでカテゴリーが厳密に決まっています。

ただ単に息を止めて水に浸かっているものから、プールを使って水平に泳ぐもの、そして主に海中で行われる垂直潜水。

フィン(足ひれ)をつけるか、つけないか。

身につけたウェイトをはずして良いのか、悪いのか。

ガイドロープをつたって潜ったり上がったりして良いのか、悪いのか。

かなり細かく規定されています。

その中に、ノー・リミッツというカテゴリーがあります。

文字通り制限なしです。

現在では、ノー・リミッツを行っているダイバーたちは、ガイドロープに沿って上昇下降するスレッド(英語でそりの意。日本語版ウィキペディアによればザボーラ)と呼ばれる機械仕掛けの潜行装置を使って一気に深海まで潜っていき、そのまま、つまりスレッドに乗ったまま、浮上してくることが多いようです。

ノー・リミッツでの最高記録は、ウィキペディアによれば、2007年6月14日に記録されたオーストラリアのハーバート・ニッチ(Herbert Nitsch)の記録、214mだということです。

このときの様子は、YouTubeなどでも見ることができます。

ただし、ぼくの見たビデオでは、最下到達点の映像はなく、潜っていくところと、上がってきたところだけのダイジェストでした。

200mオーバーの深海へはスキューバダイバーたちであっても、容易には潜れません。

ノー・リミッツで行われるフリーダイビングは、スポーツとしては異例なほど過酷で、危険なスポーツなのです。


『深海の鼓動』で取りあげたのは、こうしたノー・リミッツのトレーニングを想定した手製の潜行装置です。

スレッドを説明するのはかなりやっかいなので、ガイドロープに沿って下降していくだけのおもりにつかまって、ただひたすら潜っていくだけのシンプルな作りの装置にしました。

『深海の鼓動』は何も、フリーダイビングを説明するために書いた物語ではありません。

フリーダイビングの雰囲気だけでも伝わればと思って、イマジネーションを駆使して作り上げました。

本当に競技をやられている方から見ると、矛盾している部分が所々あるかと思います。

もし仮に、そういった方々がこのブログを見てくださっているなら、逆にご教授いただきたいくらいです。

近年、海のきれいな沖縄では大きな大会が開かれたりしていますが、まだ日本ではフリーダイビング(アプネア)は海外ほどには盛んに行われていないようです。

ネットでの情報は日本語ではなく、英語で検索したほうが多数ヒットします。

日本語で書かれた情報は驚くほど少ないのです。



最後に、

最も有名なフリーダイバーは、なんといっても、ジャック・マイヨール(Jacques Mayol 1927-2001)でしょう。

日本にも縁があった人物で、彼の自伝『イルカと、海へ還る日』をもとにして、リュック・ベッソン監督が1988年、映画「グラン・ブルー」を制作しています。


 

 





 
 
『深海の鼓動』のWeb公開版を作りました。

閲覧のみに制限されたPDF文書で、ファイルサイズは650KB弱あります。また公開期間を一定の期間に限定させていただいています。ただし設定した期間内であっても公開を中止する場合がありますのでご了承ください。

お使いの環境によってはダウンロードしてから閲覧する形になる場合もあるかと思いますが、二次配布は原則禁止とさせていただきたいと思います。閲覧希望者にはこのページのURL http://ameblo.jp/nakanotaito/entry-11059124236.htmlをお伝えくださるようお願いします。また、公開期限が過ぎている等の理由により公開が中止されている場合は、コメント、メッセージ、ツイートなどでリクエストいただければ、再公開するよう善処します。
 

『深海の鼓動』 Web版
(現在公開は中止しています)

※携帯では閲覧できる場合とできない場合があるようです。少なくともぼくの携帯では無理ですが(Softbank 001SH)、閲覧できますとおっしゃってくださっている方もいます。ご了承ください
※現在Windows7上のIE8、Firefox4、Safari5、Mac上のSafari5、Firefox3.6、およびiPadで閲覧できることは確認しています。また、Windows上で閲覧する場合はAdobe Acrobat Readr等のPDFビュワーが必要になります

 
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