作品紹介 絵本『ねずみのらんす』
| 「ねえ、らんす、いいかい? ぼくのためにがんばるんだよ。きみは、だれよりも、あしがはやいんだ。きっとかてるんだから。だから、いいかい? がんばるんだよ」 うん、とにい、ぼく、がんばるよ。 らんすは、なんども、なんども、うなずいていました。 ぼく、がんばる。 ぜったい、ぜったい、がんばるからね。 「さあ、いっておいで、らんす。いっとうしょうをとってくるんだよ」 『ねずみのらんす』より |
どうして? どうしてなの? 「らんす! あきらめちゃだめだ! ほら、はしって! いいから、はやくはしって!」 でも、とにい…… らんすは、めになみだをうかべていました。 だって、すぐまえのねずみでさえ、ものすごくさきにいて、とおくて、とおくて、とてもおいつけるとは、おもえないのです。 「だいじょうぶ。きっと、だいじょうぶだから。らんす、だから、あきらめないで」 『ねずみのらんす』より |
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らんすは、とにいという男の子が飼っているネズミです。
ネズミのレースに出るために、ふたりは、いっしょうけんめい、がんばってきました。
そして、むかえたレースの当日。
らんすはスタートラインにつきます。
とにいの期待にこたえるために。
レースに勝つために。
でもらんすは、つまづいてしまうのです。
あれだけ練習してきたというのに、最初の最初の一歩めで。
絵本『ねずみのらんす』は、福岡で活動されている絵本作家のかわつゆうきさんと制作した新作の絵本です。
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©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved. |
じつはお話し自体は、昨年2011年の11月には、いったん出来上がっていたのですが、納得いかない点もあり保留にしていました。
それを今回、THE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に出展するにあたって5月下旬から手を入れはじめ、約1ヶ月ほどかけて6月下旬には完成させ、そのあとかわつさんに絵の制作をお願いしています。
相当時間をかけて作られていますが、そのほとんどがテンポやテンションの調整といった非常に細かな点です。
ぼくが振るのは感情のタクトです。
らんすや、とにいの気持ちの上がり下がりを通じて読者の心の中に芽生える感情をコントロールしているのです。
| らんす (LANCE) とにいに飼われている気の弱いネズミ。ネズミのレースに出るために、がんばって、とにいと二人、いっしょうけんめい練習してきたものの、本番に弱く、気持ちが入りすぎて、いきなりとちってしまう。けれども、しょげても、はげまされれば、すぐに立ち直ることができる。あまえんぼうで、がんばりやさん。好きなものは、角砂糖。 |
お話し自体に特別な意味があるとは思っていません。
そもそもこの短さのお話しで何かを語ることは難しいと言はなくてはなりません。
しいてあげるとすれば、以下の点でしょうか。
朗読ではなく、文章を読まれた方は、すぐに気づくと思うのですが、かっこ付きの会話文になっているのは、とにいのセリフだけです。
らんすのセリフはすべて、モノローグのように地の文の中にうめこまれています。
これは設定として、人間とネズミが言葉を交わし合うことのできない現実の世界を想定しているからです。
そういった意味で、この『ねずみのらんす』は、『くじらのましゅう』や『はりねずみのふぃりっぽ』とは性質が異なります。
『ねずみのらんす』には、人間が登場するのです。
とにい (TONY) らんすの飼い主。7才の男の子。らんすのことがとにかく好きで、すぐに落ちこむらんすを、いつもはげましている。やさしくて、純粋で、悪いことなんて起こらないと思っている男の子。らんすの太陽であり、光のもと。らんすは、とにいがいるからこそ、がんばって走っていける。 |
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それはメルヘンの世界ではないのです。
人は人であり、ネズミはネズミ。
リアルな世界では、その関係は絶対的に規定されてしまっています。
たがいに言葉をかわすことどころか、感情さえ通じ合うことのない、遠い遠い関係なのです。
でも、どうでしょうか。
動物を飼ったことがある方なら、わかるはずです。
実際には言葉を交わすことができなくても、彼らに言葉が、いいえ、気持ちが通じているということが。
らんすは、しっかりと、まえをむきました。そしてまがりかどを、するするするっと、じょうずにまがっていったのです。 ねえ、とにい? ぼくたち、このひのためにがんばってきたんだよね。 このひのために、なんども、なんども、れんしゅうしてきたんだよね。 そうだよね。 とにい、そうなんだよね。 らんすは、はしりつづけました。 ただ、まえをむいて。 まえだけをむいて。 「いいぞ、らんす、そのちょうしだ!」 『ねずみのらんす』より |
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『ねずみのらんす』は人間の男の子とネズミの、種を超えた友情の物語です。
そこに言葉は必要ありません。
必要なのは気持ちです。
しょせん言葉は通じないわけですから、言葉に意味はないのです。
ふたりは、ずっといっしょに、がんばってきました。
遠く遠く離れていたふたりの心は、ひとつの目標にむかって、ともに歩み続けることで、今、ひとつになろうとしているのです。
| らんすが、はりしぬけていきます。 「らんす! がんばれ! あとちょっとだ! らんす、あとちょっと!」 らんすのまえには、まだねずみがいました。いよいよでした。ねずみたちが、さいごのまがりかどにさしかかったのです。 「がんばれ! らんす! がんばれ!」 とにい、ぼく、がんばるよ。 ぜったいに、ぜったいに、ぜったいにね。 だから、まってて、とにい、まってて! らんすは、ひかりのなかをひかりにむかって、かけぬけていました。 かがやきが、すべてをつつみこみます。 『ねずみのらんす』より |
今回作った絵本は、他の絵本同様、カラーレーザープリンターで印刷しているのですが、かわつさんの絵はそのどれもが美しく、鮮やかに発色されています。
『くじらのましゅう』のアクリル画、『はりねずみのふぃりっぽ』のパステル画と異なり、直接デジタルで描かれているということもあるのでしょうが、本としての仕上がりの良さは一目瞭然です。
けっして『くじらのましゅう』や『はりねずみのふぃりっぽ』が見劣りするというわけではありません。
『ねずみのらんす』の仕上がりが美しすぎるのです。
![]() | 1982年生まれ。 福岡県福岡市在住。 理容師として働きながらも独学にてイラストを描き続け、2011年から本格的にイラスト業の活動を始める。 |
かわつゆうきさんとは直接の面識はありませんが、ぼくは彼の描く絵が好きで、彼の絵がすぐに目にとまりましたので、アメブロに始まり現在では主にfacebbokを通しての交流を続けさせてもらっています。
昨年末にクリスマスにカード、今年の年始に年賀状をいただいているほか、8月には残暑見舞いもいただいています。
クリスマスカードと年賀状はこちらから
覚え書き『2012年 始動』
覚え書き『2012年 始動』
かわつさんの描かれる絵は日本的ではなく、どちらかと言えば欧米的であり、よりアメリカ的であるのかもしれません。
デジタルで描かれていますので、アニメーションのテイストもあります。
ですが、と言いますか、モチーフや技法など、どうでもいいのかもしれません。
かわつさんの描かれる人、人、人。
そのどれもが個性的で、天性の明るさを感じさせてくれます。
ときには郷愁を感じさせるくらいにです。
ぼくは、かわつさんには絵本向きの絵を描く素質が十分に備わっていると思っています。
人、あるいは擬人化されたものをどれだけ個性的に描けるかが、その素質のありなしに大きくかかわってくるはずです。
結局は人は、人を見て育っていくのです。
じつは、かわつさんに絵を描いてもらうということは、昨年の11月、『ねずみのらんす』の筆をいったん休めたときに、すでに決めていました。
ほくはどうしても、かわつさんと本を作りたかったのです。
今回その思いをとげられたことを深く感謝します。
『ねずみのらんす』は7月に、エアリアルアクターの猪瀬早紀子によって朗読されています。
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『ねずみのらんす』には朗読CD(AUDIO BOOK)もあります。
絵本『ねずみのらんす』は9月21日(金)、22日(土)、23日(日)の3日間に渡って開催されたTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に出展する作品のひとつとして制作されました。
絵本『ねずみのらんす』をはじめTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に向けて制作した本は、価格を改定した上で、在庫があるうちは販売を継続しています。
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©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved. |
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るどるふ Kindle版 | こうもりおばさん Kindle版 | ねずみのらんす Kindle版 |
はりねずみのふぃりっぽ kindle版 | くじらのましゅう Kindle版 | 雪だるまのアルフレッド Kindle版 |
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また、2012年9月に開催されたTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に向けて制作した本は、価格を改定した上で、在庫があるうちは販売を継続しています。
下記のお問い合わせ先にご連絡いただければ、折り返しご連絡いたします。
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