作品紹介 絵本『ねずみのらんす』 | なかのたいとうの『童話的私生活』

作品紹介 絵本『ねずみのらんす』

『ねずみのらんす』

 
『ねずみのらんす』挿絵1
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.


「ねえ、らんす、いいかい? ぼくのためにがんばるんだよ。きみは、だれよりも、あしがはやいんだ。きっとかてるんだから。だから、いいかい? がんばるんだよ」

 うん、とにい、ぼく、がんばるよ。

 らんすは、なんども、なんども、うなずいていました。

 ぼく、がんばる。
 ぜったい、ぜったい、がんばるからね。

「さあ、いっておいで、らんす。いっとうしょうをとってくるんだよ」

『ねずみのらんす』より
 

 どうして?
 どうしてなの?

「らんす! あきらめちゃだめだ! ほら、はしって! いいから、はやくはしって!」

 でも、とにい……

 らんすは、めになみだをうかべていました。
 だって、すぐまえのねずみでさえ、ものすごくさきにいて、とおくて、とおくて、とてもおいつけるとは、おもえないのです。

「だいじょうぶ。きっと、だいじょうぶだから。らんす、だから、あきらめないで」

『ねずみのらんす』より

『ねずみのらんす』挿絵3
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.

 

らんすは、とにいという男の子が飼っているネズミです。

ネズミのレースに出るために、ふたりは、いっしょうけんめい、がんばってきました。

そして、むかえたレースの当日。

らんすはスタートラインにつきます。

とにいの期待にこたえるために。

レースに勝つために。

でもらんすは、つまづいてしまうのです。

あれだけ練習してきたというのに、最初の最初の一歩めで。



絵本『ねずみのらんす』は、福岡で活動されている絵本作家のかわつゆうきさんと制作した新作の絵本です。

 
『ねずみのらんす』挿絵
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.

 
じつはお話し自体は、昨年2011年の11月には、いったん出来上がっていたのですが、納得いかない点もあり保留にしていました。

それを今回、THE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に出展するにあたって5月下旬から手を入れはじめ、約1ヶ月ほどかけて6月下旬には完成させ、そのあとかわつさんに絵の制作をお願いしています。

相当時間をかけて作られていますが、そのほとんどがテンポやテンションの調整といった非常に細かな点です。

ぼくが振るのは感情のタクトです。

らんすや、とにいの気持ちの上がり下がりを通じて読者の心の中に芽生える感情をコントロールしているのです。

 
らんす設定
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.

らんす (LANCE)

とにいに飼われている気の弱いネズミ。ネズミのレースに出るために、がんばって、とにいと二人、いっしょうけんめい練習してきたものの、本番に弱く、気持ちが入りすぎて、いきなりとちってしまう。けれども、しょげても、はげまされれば、すぐに立ち直ることができる。あまえんぼうで、がんばりやさん。好きなものは、角砂糖。

 
お話し自体に特別な意味があるとは思っていません。

そもそもこの短さのお話しで何かを語ることは難しいと言はなくてはなりません。

しいてあげるとすれば、以下の点でしょうか。

朗読ではなく、文章を読まれた方は、すぐに気づくと思うのですが、かっこ付きの会話文になっているのは、とにいのセリフだけです。

らんすのセリフはすべて、モノローグのように地の文の中にうめこまれています。

これは設定として、人間とネズミが言葉を交わし合うことのできない現実の世界を想定しているからです。

そういった意味で、この『ねずみのらんす』は、『くじらのましゅう』や『はりねずみのふぃりっぽ』とは性質が異なります。

『ねずみのらんす』には、人間が登場するのです。

 
とにい (TONY)

らんすの飼い主。7才の男の子。らんすのことがとにかく好きで、すぐに落ちこむらんすを、いつもはげましている。やさしくて、純粋で、悪いことなんて起こらないと思っている男の子。らんすの太陽であり、光のもと。らんすは、とにいがいるからこそ、がんばって走っていける。
とにい設定
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.
 
それはメルヘンの世界ではないのです。

人は人であり、ネズミはネズミ。

リアルな世界では、その関係は絶対的に規定されてしまっています。

たがいに言葉をかわすことどころか、感情さえ通じ合うことのない、遠い遠い関係なのです。

でも、どうでしょうか。

動物を飼ったことがある方なら、わかるはずです。

実際には言葉を交わすことができなくても、彼らに言葉が、いいえ、気持ちが通じているということが。

 
 らんすは、しっかりと、まえをむきました。そしてまがりかどを、するするするっと、じょうずにまがっていったのです。

 ねえ、とにい? ぼくたち、このひのためにがんばってきたんだよね。
 このひのために、なんども、なんども、れんしゅうしてきたんだよね。
 そうだよね。
 とにい、そうなんだよね。

 らんすは、はしりつづけました。
 ただ、まえをむいて。
 まえだけをむいて。

「いいぞ、らんす、そのちょうしだ!」

『ねずみのらんす』より

『ねずみのらんす』挿絵4
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.

 
『ねずみのらんす』は人間の男の子とネズミの、種を超えた友情の物語です。

そこに言葉は必要ありません。

必要なのは気持ちです。

しょせん言葉は通じないわけですから、言葉に意味はないのです。

ふたりは、ずっといっしょに、がんばってきました。

遠く遠く離れていたふたりの心は、ひとつの目標にむかって、ともに歩み続けることで、今、ひとつになろうとしているのです。

 
『ねずみのらんす』挿絵8
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.

 らんすが、はりしぬけていきます。

「らんす! がんばれ! あとちょっとだ! らんす、あとちょっと!」

 らんすのまえには、まだねずみがいました。いよいよでした。ねずみたちが、さいごのまがりかどにさしかかったのです。

「がんばれ! らんす! がんばれ!」

 とにい、ぼく、がんばるよ。
 ぜったいに、ぜったいに、ぜったいにね。
 だから、まってて、とにい、まってて!

 らんすは、ひかりのなかをひかりにむかって、かけぬけていました。
 かがやきが、すべてをつつみこみます。

『ねずみのらんす』より

 





Kinko'sでの製本完了(奥。手前は『灰色の虹』)

 自宅で表紙を貼って完成 

 
今回作った絵本は、他の絵本同様、カラーレーザープリンターで印刷しているのですが、かわつさんの絵はそのどれもが美しく、鮮やかに発色されています。

『くじらのましゅう』のアクリル画、『はりねずみのふぃりっぽ』のパステル画と異なり、直接デジタルで描かれているということもあるのでしょうが、本としての仕上がりの良さは一目瞭然です。

けっして『くじらのましゅう』や『はりねずみのふぃりっぽ』が見劣りするというわけではありません。

『ねずみのらんす』の仕上がりが美しすぎるのです。

 
『ねずみのらんす』表紙
『ねずみのらんす』
2012年9月21日 初版発行
著者・発行者 なかのたいとう
絵  かわつゆうき
印刷 杉本浩章
製本 Kinko's
制作部数全30部
B5判縦書き22ページ[23字×10行]
1,800字/400字詰原稿用紙換算7枚
B5サイズ挿絵8枚
(C)2012 NAKANO TAITO & ©2012 Yuki Kawatsu

 


かわつゆうきプロフィール写真大
1982年生まれ。 
福岡県福岡市在住。
理容師として働きながらも独学にてイラストを描き続け、2011年から本格的にイラスト業の活動を始める。

ホームページ http://yuki-kawatsu.jimdo.com/

☆ブログはこちらになります☆
http://ameblo.jp/uki4uki4/

 

かわつゆうきさんとは直接の面識はありませんが、ぼくは彼の描く絵が好きで、彼の絵がすぐに目にとまりましたので、アメブロに始まり現在では主にfacebbokを通しての交流を続けさせてもらっています。

昨年末にクリスマスにカード、今年の年始に年賀状をいただいているほか、8月には残暑見舞いもいただいています。
 
クリスマスカードと年賀状はこちらから
覚え書き『2012年 始動』

かわつゆうき2012残暑見舞い
かわつゆうきさんからいただいた2012年残暑見舞い
表にはお互いに頑張りましょうの言葉が添えられている

 
かわつさんの描かれる絵は日本的ではなく、どちらかと言えば欧米的であり、よりアメリカ的であるのかもしれません。

デジタルで描かれていますので、アニメーションのテイストもあります。

ですが、と言いますか、モチーフや技法など、どうでもいいのかもしれません。

かわつさんの描かれる人、人、人。

そのどれもが個性的で、天性の明るさを感じさせてくれます。

ときには郷愁を感じさせるくらいにです。

ぼくは、かわつさんには絵本向きの絵を描く素質が十分に備わっていると思っています。

人、あるいは擬人化されたものをどれだけ個性的に描けるかが、その素質のありなしに大きくかかわってくるはずです。

結局は人は、人を見て育っていくのです。


じつは、かわつさんに絵を描いてもらうということは、昨年の11月、『ねずみのらんす』の筆をいったん休めたときに、すでに決めていました。

ほくはどうしても、かわつさんと本を作りたかったのです。

今回その思いをとげられたことを深く感謝します。




『ねずみのらんす』は7月に、エアリアルアクターの猪瀬早紀子によって朗読されています。


なかのたいとう作『ねずみのらんす
(朗読時間:約6分)
作:なかのたいとう 朗読:猪瀬早紀子
2012.07.28@東京笹塚 namGallery
© 2012 NAKANO TAITO
「ねえ、らんす、いいかい? ぼくのためにがんばるんだよ。きみは、だれよりも、あしがはやいんだ。きっとかてるんだから。だから、いいかい? がんばるんだよ」

 うん、とにい、ぼく、がんばるよ。

 らんすは、なんども、なんども、うなずいていました。


 
『ねずみのらんす』には朗読CD(AUDIO BOOK)もあります。

朗読『ねずみのらんす』
朗読『ねずみのらんす』
なかのたいとう 作 かわつゆうき 絵 我竜麻里子 朗読
2012年9月12日録音 6分05秒



 
名刺 ねずみのらんす
名刺の裏『ねずみのらんす』(デザインはナオゲリータ

 

絵本『ねずみのらんす』は9月21日(金)、22日(土)、23日(日)の3日間に渡って開催されたTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に出展する作品のひとつとして制作されました。

絵本『ねずみのらんす』をはじめTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に向けて制作した本は、価格を改定した上で、在庫があるうちは販売を継続しています。


 
『ねずみのらんす』内表紙
©2012 Yuki Kawatsu All Right Reserved.






 
なかのたいとう童話の森 出版局


現在、以下の本がAmazon Kindleストアで販売中です。

Kindle PaperWhite / Kindle fire / Kindle fire HD / iPhone, iPod touch & iPad版Kindleアプリ / Android版Kindleアプリで、ご覧いただけます

 
また、2012年9月に開催されたTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に向けて制作した本は、価格を改定した上で、在庫があるうちは販売を継続しています。

下記のお問い合わせ先にご連絡いただければ、折り返しご連絡いたします。
なかのたいとう童話連絡先
Book:
¥1,200
深海の鼓動』×ナオゲリータ[B5判 12ページ]
灰色の虹』 ×菅谷さやか[B5判 38ページ]
雪だるまのアルフレッド』×和華[B5判 42ページ]
オイディプスとスフィンクス』×相田木目[B5判 52ページ]
くじらのましゅう』×鏡安希[B5判 22ページ カラー挿絵8枚]
はりねずみのふぃりっぽ』 ×たぐちななえ[B5判 22ページ カラー挿絵7枚]
ねずみのらんす』×かわつゆうき[B5判 22ページ カラー挿絵8枚]
¥2,400
フローラの不思議な本』×鈴木匠子[B5判 211ページ カラー挿絵15枚]
ZINE:
無料
side by side 』×実鈴×小野祐佳
(『夜空の星と一輪の花』の朗読CD付き(朗読:我竜麻里子))
[A5判 オールカラー34ページ]
※本をお買い上げ頂いた方には無料で差し上げます
※送料分の切手(¥200)をご送付願えれば郵送いたします
Audio Book:
¥600
朗読『くじらのましゅう』×我竜麻里子 [オーディオCD 7分23秒]
朗読『はりねずみのふぃりっぽ』×我竜麻里子 [オーディオCD 7分56秒]
朗読『ねずみのらんす』×我竜麻里子 [オーディオCD 6分09秒]
朗読『雪だるまのアルフレッド』×我竜麻里子 [オーディオCD 53分04秒]
朗読『灰色の虹』×我竜麻里子 [オーディオCD 50分弱]
送料一律 ¥500(ただし1回で送れる量を超えた場合は別途ご相談)

 

なかのたいとう童話の森は、童話作家なかのたいとうの個人出版レーベルです。自作の出版の他、絵本、童話、児童小説を電子書籍で自費出版したいという方たちのための窓口として2013年に設けられました。初期コストをかけずに出版することは可能ですので、自作の電子書籍化をお考えの方はぜひご相談ください。


また、なかのたいとう童話の森は、電子書籍専門のインディーズブック出版レーベル 電書館 (http://denshokan.jp) に協賛しています。以下のタイトルが電書館より発売中です。
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