作品紹介『雪だるまのアルフレッド』第2版
冬の夜空に稲妻が走ります。 ビリリと冷たい空気を切り裂いて、雷鳴がドロロ、ドロロと、あたりに響きわたりました。 すべてが、みなに知れわたってしまいました。 知らされていないのは、今やアルフレッドのみ。 アルフレッドは、まだ夢の中でした。 おのれ、アルフレッド! ゆるさぬぞっ! | このわたしを裏切ったら、どうなるか、徹底的に知らしめてやる! 氷の軍勢よ! 永遠の忠誠を誓った、わたしの、しもべたちよ! 全軍に告ぐ! 出撃! 目標は西の町! いいな、裏切り者のアルフレッドを葬ってしまえっ! ついでに西の町を、町ごと凍らせてしまうのだっ! |
『雪だるまのアルフレッド』より |
『雪だるまのアルフレッド』の初版は2011年12月24日に起稿され、翌2012年1月17日に脱稿、即印刷原稿化されています。
既にある程度のイメージはあったものの、そもそも『雪だるまのアルフレッド』を書こうと思い立ったのが、2011年12月18日の深夜です。
当然年末年始を挟んでいたわけで、それを考えると、我ながら驚異的なスピードで書かれているなと今さらながらに思います。
そこにはもちろん早書きの良さもあったと思いますが、反面、様々なアラも見てとれます。
今回の改訂は、そうしたアラを排除し、作品としてのクオリティを上げることを主たる目的として行われました。
このころに書いたお話しには、わりと丁寧な構想ノートがつけられています。
それによるとテーマは「純粋な愛」。
『雪だるまのアルフレッド』は雪の女王の忠実な僕として、極悪非道の限りをつくしてきた雪だるま、アルフレッドの最期にまつわるお話しとして考えだされています。
ここで言うところの「雪の女王」とは、アンデルセンの『雪の女王』に登場する雪の女王です。
つまり『雪だるまのアルフレッド』は、アンデルセンの『雪の女王』へのオマージュとして書かれているのです。
物語の中、アルフレッドが『雪の女王』の主人公カイとなって女の子に夢を見せるシーンがあります。
夢がはじまります。 「ゲルダ、ねえゲルダ、見てごらん」 カイはそう言うと、胸の前で、そっと手を開いて隠し持っていたものをゲルダに見せました。 「それは何? ねえ、カイ、それは、なんなの?」 「これはね、ぼくが雪の女王の宮殿から、こっそり持って帰ってきたものさ。すっごく、おもしろいんだから」 カイはそう言うと、小さな手のひらの上でキラキラッと光っている氷の塊を、指でピンと、はじきました。 その塊がブルルッと、ふるえだします。 | 「いいかい、よく見ててよ」 カイがそう言い終わるか終わらないかのうちです。ポン、といって、はじけたかと思うと、ほんのたまごくらいの大きさしかなかったはずの氷の塊が、一気にふくれあがって、どんどん、どんどん、ふくれあがって、にゅうっと伸びて、しっぽがはえて、さらにもっと伸びて、もっと、もっと、もっと伸びて、伸びて、伸びて、伸びて、にゅるんと伸びて、輪になって、とぐろを巻いたかと思うと、かま首をもたげてシューシュー、シューシュー息を吐き、まっ白いうろこをギラッと輝かせる、大きな大きな氷の蛇に変わったのです。 「キャーッ!」 |
『雪だるまのアルフレッド』より |
アンデルセンの『雪の女王』との関連をうかがわせるものは、雪の女王、カイ、ゲルダといった登場人物の名前だけだと思います。
ぼくの『雪だるまのアルフレッド』の中では、アルフレッドは雪の女王の氷の軍勢、雪だるま遊撃隊の指揮官です。
鋼鉄の右腕に備わった無限の魔力を自在に操り、妖怪のごとき雪だるまたちを束ね、そうして毎夜毎夜、夜ごとに、子どもたちを襲撃し、夢を奪っていくのです。
それは命令でした。 絶対服従の命令でした。 さからうことの、けっして、ゆるされない、雪の女王の命令でした。 アルフレッド! いいか、アルフレッド! わたしのために夢を奪ってくるのだ! ただの夢ではないぞ、アルフレッド! それは、おさない女の子の夢でなくてはならない! | しかも、とびっきり、しあわせな夢でなくてはなっ! かわって、いいか、アルフレッド! その子たちには、わたしの悪夢でも、くれてやるがいい! 氷の宮殿、その地下深くに閉じこめた、わたしの不滅の悪夢でもなっ! ハハハハハ、さあ行け、アルフレッド! おまえの奪った夢で、このわたしを満足させてみるがいい! |
『雪だるまのアルフレッド』より |
こうしたアルフレッドが、ある日、夢を奪おうとして逆に、女の子に恋をしてしまいます。
とはいえ、その恋は限りなくピュアで、純粋なものです。
アルフレッドは人外のもの、恐ろしい妖怪なのです。
しかもその手に備わった魔力ゆえに、女の子に手を触れることさえできません。
アルフレッドは自分だけの秘密として、女の子のもとを夜ごと訪れるようになります。
眠る女の子にただ寄り添い、自分の部下である他の雪だるまたちがその夢を奪わないよう、ただ守るためだけに。
けれどもそうした関係は、やがて白日のもとにさらされてしまいます。
今まで味方だったもの全てが敵に変わり、アルフレッドは最後まで女の子を守って死んでいくのです。
そのときです。 アルフレッドの力のみなもと、雷をはなつ鋼鉄の右腕が、氷の虎によって食いちぎられていきました。 アルフレッドには、もう力はありません。 アルフレッドは力つきようとしていました。 そして最後に、と伸ばした左腕も、べつの虎によって無残にも食いちぎられていきます。 | 女の子の顔をのぞきこむアルフレッドの目から、涙がこぼれ落ちました。 ぽたりぽたりと涙は女の子のそばに落ちていきました。 その瞬間、アルフレッドの氷の心臓は噛み砕かれてしまいます。 |
『雪だるまのアルフレッド』より |
『雪だるまのアルフレッド』は、死が二人を分かつのではなく、死によってのみ二人が結ばれるというロマンチックの王道を行く作品として書かれています。
本来のロマンチックとは、死こそが、永遠に二人を結びつけるものとして描かれていなければならないです。
『雪だるまのアルフレッド』第2版には、第2版によせたあとがきが設けられています。
『灰色の虹』第2版ではページが余らなかったため、第2版のためのあとがきは、この『雪だるまのアルフレッド』に掲載されているもののみになります。
第二版によせて
『雪だるまのアルフレッド』は、ぼくにとって契機になったお話しです。もし第一作目の『灰色の虹』しか書けていないようであれば、こうしてお話しを書き続けていられたかどうかは分かりません。ぼくは作家にとって重要なことは書き続けることだと考えています。代表作となるような作品を書くことも確かに重要ですが、そうした作品も、書き続けていることによって初めて世に出、残っていくものだと考えています。書いて書いて書きまくってなんぼ。創造の源泉は輝きに充ち、アイデアは尽きることなくあります。ぼくに足りないのは時間です。既にぼくは自分に残された時間を計りながら生活しています。あらゆるものをつぎ込んでも惜しくないと思えるものが、子どものお話しを書くという行為の中にあります。それは三世代先、百年先を見越した一大事業なのです。自分のいない世界の誰かのために何かを残せるなら、ぼくは自分の命をつぎ込んだって惜しいとは思いません。
ぼくは二〇一〇年の晩秋から今の生活をはじめています。以来お話しを書き続けているわけですが、ぼくはそれ以前も途切れ途切れですがお話しを書いていました。けれどもそのいずれも今のように長く続くことはなく、せいぜい一作書き終えたところで終わってしまっています。最大の原因はぼくの持病です。ぼくはいわゆる難病に該当するクローン病という持病を一七の時から抱えています。クローン病は消化器系の疾患で、小腸や大腸に潰瘍ができる病気です。ぼくは開腹手術もしていませんし、大腸にのみ潰瘍ができるタイプでしたので極度の栄養失調にもならず、自分ではそう重症ではないと思っているのですが、内科的治療が可能な範囲を既に超えていますので現在は経過観察の身です。
クローン病は調子が良い時期と悪い時期を定期的に繰り返す病気です。今は調子が良いからこそお話しを書き続けていられるわけですが、これほどまでに長く調子の良い時期が続くのは、ぼくにとって二度目の経験です。一度目は大学に入学する直前にはじまり、その後およそ六年続きました。信じられないかもしれませんが、ぼくは大量に下血し大量に輸血した直後に、ほぼ一瞬で回復し、医者の制止を振り切って東京に出てきて受験、入学しています。今思えばそこに奇跡があったとしか考えられません。ぼくはこの時期に多くのことを経験し、考え、学びました。若かったからと言ってしまえばそれまでですが、実はこうしたことは二〇〇九年の秋にはじまった現在の好調期でもほとんど何も変わっていません。ぼくは二十年前と同じように多くのことを経験し、考え、学んでいるのです。
『雪だるまのアルフレッド』は、ぼく自身、気に入っていますし、人気のあるお話しでもありますので、THE TOKYO ART BOOK FAIR 2012への出展を機会に改訂することにしました。含まれていた実験的要素を一部排除し、読みやすさを優先して加筆修正しています。また表紙も変えました。第二版の表紙は和華さんに描いてもらっています。彼女の方からツイッターでアプローチがあり、何回かの描き直しを経て現在の表紙原画が完成。ロマンチックな仕上がりに、ぼくはとても満足しています。
二〇一二年八月 秋葉原某所にて
![]() | 北海道出身。 現在は新潟県で活動中。 幾たびの邂逅を経て2007年からゆるく活動開始。 ご縁があった長岡市から私のお気に入りの作品達をゆるーく発信していき、観てくださる方との一瞬の心の繋がりを日々の糧に生きております。 |
『雪だるまのアルフレッド』第2版の表紙は和華さんにお願いしました。
和華さんとは直接の面識はなく、アメブロとtwitterでの付き合いになりますが、ぼくが『雪だるまのアルフレッド』第2版の表紙を描いてくれる人を探しているとtwitterでつぶやいたところ、彼女がすぐに手を上げてくれました。
新しい表紙を描いてくれる人が現れなければ『雪だるまのアルフレッド』第2版は制作されていなかったはずです。
表紙は物語のイメージを唯一、一瞬で伝えることが可能な、とても重要なものです。
表紙がなければ物語のイメージを一瞬で伝えることはできません。
和華さんにはとても感謝しています。
以後、何回かの描き直しを経て、最終の『雪守』に辿りついています。
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『雪だるまのアルフレッド』第2版表紙原画 『雪守』 |
©2012 Waka All Right Reserved. |
さらに今回、朗読CD(AUDIO BOOK)の制作も行いました。
ただ『雪だるまのアルフレッド』は1万3千字超あり、章分けもされていません。
『くじらのましゅう』が1千8百字ですから、それと比べてもボリュームは相当なものです。
収録はたいへんでした。
ぼくはいわゆる朗読劇のような、感情を露わにする独り芝居的な朗読には否定的です。
感情は聴き手の心の中に芽生えれば良いものであって、話者が表現すべきものではないと考えているからです。
まず、ぼく自身からしてそうなのですが、何回も何回も何回も聴き返すことを想定しています。
余計な感情表現はうざったいだけです。
あえて感情を抑え、しずかな語り口で語っていくほうが、はるかに聴きやすいのです。
とはいえ機械的に淡々と語っていくことに関しても否定的です。
機械的に語るのなら、機械に任せてしまえば、それですむからです。
必要とされるのは緊張感です。
今回制作した『雪だるまのアルフレッド』は、そういった緊張感のある53分となっています。
『雪だるまのアルフレッド』第2版は、9月21日(金)、22日(土)、23日(日)の3日間に渡って開催されたTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に出展する作品のひとつとして制作されました。
『雪だるまのアルフレッド』第2版をはじめTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に向けて制作した本は、価格を改定した上で、在庫があるうちは販売を継続しています。
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また、2012年9月に開催されたTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012に向けて制作した本は、価格を改定した上で、在庫があるうちは販売を継続しています。
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